ステラはいつも機嫌が悪い

るかに

第1話

 



 ん...んぅ.....。


 何かしら、頭がとってもぽわぽわするの......。

 うっすらと目を開けると視界がふにゃふにゃしていて、とってもとっても暖かくて......。


 んんー.......これは一体なんなのかしら?

 とってもとっても気持ちが良いのよ......。


 ......。


 だめなの、頭がぽわぽわで何も考えられないわ......。それに何だかとっても眠たいの。



「んぅー......」



 この感じは寝起きかしら?

 なんだか★

 

 こんな時はあれかしら、二度寝が良いと思うのだわ。


 うん、そうよ、二度寝なのよ......。

 そうに決まってるのだわ......。


 だから寝るのよ......。

 おやすみなの......。


  --スー


   --スヤー


 ......。


 ...。



 ◆


 ◇


 ◆


 ◇



「くちゅん」


  --ズズズ......


「んっ...くっ...くふぁぁ..ああ......」



 んんぅ~......良く寝たのよ。一気に疲れがとれた感じがするのだわ。

 何かしら、とっても体の調子がいいのよ。


  --よしっ


 伸びをしたら、今日も日課のたいそう...を......んぇっ?



「ど、どうして部屋の中が真っ暗なのかしら?」



 目を開いているのに何にも見えないのよ、それに何だかちょっぴり寒い気がするのだわ。 



「これは、いったいどうなってるのかしら?」



 ステラは暗いの駄目だからいつも明るくして寝てるはずなのだけれど......。なぜか周りが真っ暗になってしまっているの。暗いのは恐いのよ......イヤなのよ。


 ......そっ、そうだわっ! そうなのよっ! 暗いのなら明るくすれば良いのよっ!



「トーチ!」


   --カッ


「はあうっ」



 わっ、わっ、明るすぎたのよっ! 眩しいのっ!

 これは一旦消すのだわっ!! 消すのよっ!!!



「ひっ、ふっ...ふぅ......」



 ちょっ、ちょっと失敗してしまったみたいなの。

 普段のステラならこんな無様な失敗なんてしないのよ?


 これはアレなの、きっと寝起きでまだ頭がぽわぽわしてるのよ、きっとそれが原因なのだわ。


 光を出す時は目が慣れる様にゆっくり明るくするの、そんなのは常識よ?

 それを忘れるなんて、ステラはホントにどうかしていたの。今度は失敗しないのだわ。



「トーチ」


  --そう


 良いの、良い感じなの。


 次は、ここから少しずつ魔力を流して、ちょっとずつ魔力の量を増やしていくの......。そしたら魔法のトーチは少しずつ明るくなるのだわ。



「うんうん、いい感じなの」



 ほふぅ~...。


 だんだん明かりにも目が慣れてきたのよ。それで、えーっとなのよ、此処はいったい何処かしら......。



「森?...みたいなの」



 どう見ても夜の森が見えるのだけれど。


 いったいどうしてステラはこんなところに居るのかしら?

 ステラはそんなに寝相は悪くないはずなのよ、だから寝ぼけて飛んだりしてないはずだわ。そうなると何で......困ったのよ、全く記憶にないのだわ。


 ん~......んんっ?


 いや、ちょっと待つのよ。

 確かステラは賢者とか言う人間と......。


 ......賢者?


 ...。


 んむぅ、頭の中にモヤがかかってなんだか良く思い出せないのよ。

 どうも良い事と嫌なことがあった気がするのだけれど......。



「んん~......」



 まぁ、...考えても思い出せないものは仕方ないのよ、このことは後で考えるのだわ。


 それよりもまずは安全なお家に帰る事が先決かしら。

 こんな知らない場所にいるなんて、とってもとっても危険なのよ。



「ふふん」



 まぁ、帰るのなら簡単なの。

 ステラの魔法を使えば一発なのよっ!



「それじゃあテレポートなのっ!」



 ......。


 ...。



「あぇ...?」



 なんで発動しないのかしら?


  --ハッ!?



「なっ...ないのよっ!?」



 ステラのお家の座標が綺麗サッパリ消えて無くなっているのよっ!?



「そっ、そんなはずがないのっ!? 座標がなくなるわけがないのよ!!」



 世界が無くならない限り、座標は絶対に消えたりしないのだわ。


 ま、まさか......。

 いや、そんなはずが無いのよ。


 だけど、お家の座標が無くなってしまってるのは事実なの。いったいどういう事なのかしら......?


 誰かが勝手にステラのお家を動かした......?

 けれど、それでも座標はその空間に残るはずよ。絶対なのよ。


 ならどうして......どうしてなの?


 .....。



「ふぇぇ......グスッ」



 ......。


 だっ、だめなの。

 弱気になってはいけないのよっ。


 ...。


 まっ、まぁ......仕方がないの、お家の座標が無いのなら一旦別の場所に行けば良いだけなのよ。安全な場所ならいっぱいあるの。

 こんな危険な場所にいつまでも居るのは良くないし、まずは安全な場所に移動するのよ。


 それからお家の座標の事をゆっくりじっくり調べれば良いのだわ。



「そうと決まればもう一回テレポートなのっ」



 ......!


 そっ、そんなはずはないのよっ!?




「てっ、てれぽーとっ!」



 .......。


 ...。



「そっ、そんな...」



 なんなのよ......なんなのよこれはっ!?


 座標がっ、ステラの大切な座標が全部なくなっているのよ!?

 こっ、こんなの絶対にありえないのだわ!?


 ......。



「いったい何があったと言うのよ......」



 まさか本当に世界が崩壊したとでも言うのかしら?

 そっ、そそっ、そ、そんな馬鹿な事は夢の中で言うのよ......。恐すぎるのだわ。


 ...。


 でも、何度見直しても座標は無いの......。何故なのかしら?

 もしかして時空間に何か歪みが......?


 ......。


 けれどそれでも座標のいくつかは残るはずなのだわ。

 全部が消えるなんて、それこそ世界がごっそり入れ替わらないとありえないのよ......。


 ......。


 ...。


 そうね、そうだわっ、今はそんな事を考えている場合でもないの。

 こんなワケも分からないような場所に何時までも居るのは危険すぎるのだわ。


 ステラはか弱いから、安全な場所に居ないと駄目なのよ。

 考えるのは安全な場所にたどり着けてからにするの。


 まずは安全な場所に行かないとダメなのよっ!



「んむぅ」



 けれどテレポートは駄目なの......座標が無ければ使えないのよ。

 そうなると歩いて森を抜けるしかないのだけれど。



「森を抜けたところでステラは何処へ向かえば良いのかしら?」



 安全な場所ならエルフの集落が良いのだけれど、アレは森の中に隠れていてステラには見つけられないの。だから無闇矢鱈に森の中を探しても無駄かしら?

 ふむむ、そうなると森の中はダメね、まずは森を抜けるのが先決かしら?


 かといって森以外でステラを襲わない種族となるとドワーフかしら?

 あれなら岩山にたくさん居て煙を上げているからすぐ見つかるのだけれど......。駄目ね、ドワーフの街は鉄と油臭くてステラには耐えられないのよ。


 なら何処にでも居る人間の街が良いかしら?

 でも人間は良いヤツと悪いヤツの差が激しすぎて見分けるのがとても面倒なのよ。


 ......。


 ...。


 まぁ、けれど、そうね......人間が一番マシかしら?

 他にも色々種族がいるのだけれど、よく考えてみればどれも面倒なのしかいないのだわ。


 それなら人間が一番見つけやすくて、強いのもあまり居なくて、襲われてもステラなら簡単に倒せるの。だから人間の街が一番安全ね、間違いないの。


 そうと決まれば、まずは人間の街に行って拠点を手に入れるのが先決ね。

 

 ......。


 ...。



「えーっと......」



 それでなのだけれど、人間の街はどうやって探そうかしら?

 流石に何処にでも居るとは言っても、ある程度の場所を特定しないとステラでも迷ってしまうのよ。


 困ったわ、ずっとテレポートで移動していたから人間の居る場所なんて知らないのよ。



「......どうするかしら?」



 このまま闇雲に歩くのは論外よ、長い距離を歩くのは疲れてしまうから嫌なのよ。

 何か迷わずに真っ直ぐたどり着ける方法は無いかしら。


 ......。


 んんー...。



「ああ......そうなのよっ」



 人間の街では沢山魔道具を使っているのよ!

 だから、小さな魔力が沢山感知できるはずなのっ!!


 ステラはなんて頭が良いのかしら?

 それなら小さな魔力がいっぱいある場所を探せばいいのよ。


 むふふ、なんてステラは冴えているのかしらっ。

 ステラとっても凄いのよっ!


 それじゃあ早速魔力を調べて......。



「んぅ?」



 ちょっと待つのよ、すぐ近くに何か変な魔力があるかしら?



「これは......」



 ちょっと大きな魔力がとっても小さい魔力を追いかけているのかしら?

 それが真っ直ぐこっちに向かって......こっちかしら。


   --ゴッ

「んぐぇっ!!」

「わぁああぁっ」


「ぐがぁああぁぁっ」


   --ブオンッ


 あうっ。


 いきなり飛び出してきたヤツに体当たりされ、さらにその後ろから別の何かが武器を横なぎにしてきた。幸い攻撃ははずれたみたいだけれど......。


 ......。


 ...。


 なん......なのかしら?

 これは、いったい、なんなのかしら?


 何でステラは地面に押し倒されているのかしら?

 いきなり飛び出してきたこいつは何なのかしら?



「ふぅぅ~......」



 まっ、まぁ、押し倒された事はこの際どうでも良いのよ。どうやらそのおかげで攻撃を避けられたようだから気にしないのだわ。

 けれどそんな些細な事よりも重大な問題があるのよ。


 それは押し倒してきたコイツの手の位置なのよ......。


 コイツはいったい何を考えているのかしら?

 コイツはいったい......何なのかしら?


 死にたいのかしら?



「オマエ、いつまでステラの胸を触っているのかしら?」

「えっ? うわぁぁっ ごっ、ごめんなさい!」


「驚く前に手をどけるのよ」



 何なのよコイツ。

 ノロマなのかしら?

 鈍くさいのかしら??


 手をどけたのは良いのだけれど、ステラの上に覆いかぶさったまま全然どく気配が無いのよ。


 ムカツクのだわっ!!


   --ゲシッ

    --ゲシッ

  --ゲシッ


「早くどくかしら、そろそろ本当に殺すのよ?」

「わっ、わっ、どっ、どくから蹴らないでっ! たっ、立ち上がれないからっ!!」


「そんな暇ないのよ」

「えっ...あっ」



 はぁ......コイツ、ステラの視線の先を見て硬直しやがったのよ。硬直する前に避けようとは考えないのかしら?

 ステラは知ってるの、きっとこれが無能というやつなのよ。



「ぐぉおおおああっ!!」


「ひっ、ひぎゃぁぁぁぁっ!!」

「耳元で煩いのよ、黙るのよ!!」



 今更叫ぶなんて、コイツは襲われていた事を忘れていたのかしら?

 馬鹿なの? 馬鹿野郎なの?


 はぁ......。


 えーっと、こいつはハイオーガかしら?

 オーガのちょこっと変異したやつなのよ。


 変異と言っても、人間より強いだけでただの雑魚なの。


 そいつが雄叫びを上げた後、何処で拾ったのか錆びた鉄の斧を振り上げて......。

 これは...ステラとこの馬鹿を叩き潰すつもりなのかしら?



「でも、そんなことは無理なのよ」

「うわぁぁぁぁぁっ」


   --ブォン 

    --ガキンッ


「そんなものでステラを攻撃なんて出来ないの」



 まっすぐ振り下ろすなんて、通り道の空間を固定してしまえば終わりじゃないかしら。何も考えていないのかしら?


 しかもそのまま力で押し込もうなんて愚の骨頂なの。



「はぁ......」



 空間に受け止められた時にすぐ武器を引かないから、もうその武器もステラが固定してしまったの、ステラが許すまでもう動くことは無いのよ。


  --ガァァァァァッ


 やっぱり馬鹿なの、まだ武器を引き抜こうとしているのよ。

 それは力ではどうにもならないのだわ......。



「......えっ、なっ、なにあれ、なにあれっ!?」

「オマエはちょっと煩いのよ」


  --ゲシッ


「あうっ」


「いい加減ステラの上からどくかしら?」


   --ゲシッ

  --ゲシッ


「わっ、わかった、わかったからっ」



 コイツはステラの上からどくだけで、いったいどれだけの時間がかかっているのかしら? もしかしてコイツの周りだけ時間の流れが遅いのかしらっ!?



「はぁ......」



 しかも、コイツに押し倒されたせいで服が汚れてしまったのよ。



「ウガッ、ウゴアアアッ」



 それと、馬鹿と言えばこっちもなの。

 まだ錆びついた斧を必死になって引き抜こうと頑張っているのだわ。



「ガッ、ガァァッ」


「無理なのよ、それはもう動かないのだわ」


「ガガッ グガァアアァァッ」


「はぁ... やっぱりオーガは絶望的に頭が悪いかしら、無理だと言ってるのに言葉が通じていないのよ」



 もう武器なんて諦めて素手で襲えば良いのに、その事にすら気付かないなんて絶望的なのよ。

 コレとは会話が期待出来そうにないし、やっぱりステラを押し倒したコイツから情報を絞り出すしかないかしら。


 どうやら探していた人間族のようだし、街の場所を聞き出せれば問題が1つ解決するのだわ。


 ......。



「たっ、助けてっ、殺さないで!」


「がぁぁっ、ごがぁぁっ」



 それにしても......。

 何なのかしらこの光景、頭が悪すぎて頭痛がするのよ。




「ウガッ ウガァァッ」


「いい加減うるさいのよ!」



 コレはもう用済みだから空間ごと畳んで捨てちゃおうかしら。



「ステラを攻撃しておいてどうなるかわかっているのかしら?」


  --メキッ

「グギャッ」


「オマエは、このまま小指の先くらいまで折り畳んで『ポイ』ってしてやるのよ」


  --グキャッ


「ギャッ グギャァァァッ」


   --グチャッ

  --メキャッ


「ひっ」


    --ゴキゴキゴキ


「ひああっ」


   --メキッ

  --ボキッ

    --ヴヴヴヴヴヴ


 これくらい畳めばもう良いかしら?

 そしたらこのまま『ぽいっ』なのよ。こんなものはいらないのよ。



「ひあぁっ......いきなりぐちゃぐちゃって、小さくなって飛んで...。な、何アレどうなって」


   --ゲシッ

「うわあぁぁっ」



 コイツはコイツでいつまで騒いでいるのかしら?

 あまりにも鬱陶しいから思わず蹴り倒してしまったのよ。



「さて、次はオマエから......」

「わっ、まっ、待って、ぐちゃぐちゃにしないでっ!!」

「別にオマエは折りたたまないのよっ!」 


「まさかっ、さっきのやつより酷い殺し方を!?」

「別に殺さないのだわ」



 いったいステラの事をなんだと思っているのかしら?

 別に殺戮が好きな変質者ではないのよ?



「さて......」

「ひっ、ひあっ」


「逃げなくて良いのよ、ちょっと聞きたいことがあるだけなのだわ」



 コイツの馬鹿さ加減だと期待は薄いのだけれど、ステラは早く街の情報がほしいのよ。

 そうね、ちょっと痛めつけたら話してくれるかしら?



 

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