第20話
竜は他人の手によって空を舞うという初めての出来事に困惑した。
しかし、その困惑に支配されて硬直していたのは、ほんの少しの間だけだった。
思考停止から回復してすぐに、無様に回る己の身体に意識を巡らせ、力の流れを理解して整える。
身を回し、余分な力を外に弾くように翼を広げる。
一連の動きで風を周囲に押しやり、空中で身を留めることに成功した竜は、視線を地上のある一点へと向けた。
――そこにいるのは、この街にただ一人だけ存在する敵だった。
敵はこちらの視線に気づくと、地上を走って向かってきた。
――戦いならば望むところだ。
竜はそう考える。
ゆえに、敵に向かって空から一直線に落ちる動きを選択した。
●
竜の巨体は、ただ空から落ちてくる、というだけでも脅威となる。
それが意思をもって飛び込んでくるとなれば尚更だろう。
しかし、グレンは足を緩めることなく――むしろ意気込むように速度をあげてみせた。
グレンと竜は互いに近づく方向に動いていたから、両者が交差するまでに一瞬とかからなかった。
竜が地上に接触する。
重い肉が叩きつけられた事実を示す鈍い音が響き、地面が揺れる。
「――っ!?」
ただ、そこで破壊は生じなかった。
その代わりというように生じるのは、竜の落下地点を中心として広がる青い光だ。
その光は街の中を波紋のように走り抜けた後で、何かにぶつかって戻ってくるかのように、再び中心へと押し寄せてきた。
広がったときと異なる点があったとすれば、それは、その光が集う場所が竜の落下した場所から少しずれていたということだ。
光は竜の後方、尻尾のあたりまで走り抜けていたグレンの元へと集まっている。
そして、グレンは宙を泳ぐ竜の尻尾、その先端を掴んで抱えて身を縦に回し、
「飛べ!」
放った言葉の通りに、光が弾けると同時に竜が再び空に飛び上がった。
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