第9話
握手を交わした後、どちらともなく手を離してから、先に口を開いたのはビオの方だった。
「それで、私が言ったことはいったいどこまで合っているのかしら」
「中央から来た冒険者という点は正解です」
「落ちてきたわけじゃないと?」
ビオが笑いながらそう問いかけると、グレンは失笑し、そうしてしまったことに一言だけ謝罪を挟んでから話を継いだ。
「……微妙なところですが。
今は違う、と表現するのが正しいのでしょうね」
「……中央で受けた依頼の仕事場がここだった、と」
「そうなります」
グレンの首肯を受けて、ビオは猜疑心と戸惑いが混ざったような表情を浮かべてしまった。
……嘘は言っていないと思うけれど。
仕事というものは、生活圏の中で行うものである。
行商や運搬などの仕事の種類、あるいは交通手段の充実具合などによっていくつかの例外は出てくるが、ひとりひとりの仕事はひとつの街の中で完結していることが常だ。
特に冒険者稼業というものはその傾向が強く、基本的に街から街へと移ることは殆どない。
依頼を受ければ何でもやる、というのが冒険者稼業なので、拠点とする街ではない別の街で行う案件も存在するけれど。受けようと思う人間はかなりの少数派だろう。
そんな、他の街に行ってまで仕事をしたくないという傾向は、端っこにあるこのミスタンテという街にさえ存在するのだ。
ヒトと物が際限なく集まっている中央では、その傾向は更に強く、顕著にあらわれていた。
……逆ならまだわかるんだけどね。
ヒトや物は中央に集まるのだ。報酬なども当然そうなる。
依頼内容の達成難易度も比例してあがっていくが、成功したなら活躍の場を移す機会にもなるだろう。
だから、中央以外から中央へと向かう依頼はそれなりに人気があるし。
やっかみも乗じて、中央で仕事ができなくなった人間を落ちてくると揶揄する文化も出来上がってしまったのだ。
……本当に珍しい。
ゆえに、ビオは心底からそう思って問いかけた。
「差し支えなければ、仕事の内容を教えてもらいたいのだけど」
純粋に興味がわいたからだった。
ただ、応じてもらえるかどうかは微妙なところだと、そう考えてもいた。
……守秘義務とか、面倒なことはあるものね。
しかし、ビオの吹けば消えるくらいの淡い願望は叶えられた。
「少し協力をしていただけるのなら、内容の説明も兼ねて教えてあげましょう」
条件つきではあったが。
「……内容と報酬次第です」
ビオは散々迷った末に、搾り出すような声でそう応じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます