合格祝い
合格祝い
「と言うことで、かんぱーい!」
細かい手続きなどをしている間に夜になってしまったが外の喧噪は変わらずのままだった。
はれて冒険者になれたので記念の宴席を儲けることにするが、どこも五月蠅いので酒場の2階の区切られたちょっとお高い席を借りていた。
そこで今回何が起こったのかを俺達の話をした。
「そんな赤の他人に無償でポーションを提供するなんて!」
いやキミは聖職者、つーか稀少な聖女様でしょうが……それは言ってはいけない台詞じゃないのかね。
「結局主様が攻略したのでは?」
「僕もそう思う」
「いや、いきなり横入りして攻略しましたじゃ悪いしそれで構わないよ。別に目立ちたくもないし」
この世の中、出る杭は打たれるもの。こんなガキが謎の力でブイブイ言わせたなんて快く思わない人間がいっぱい出てくるだろうし。
「主様がいいなら構わないけど」
「よくありません! 収支がマイナスになってます! それに新調したばかりの服がボロボロになってしまいましたしポーションも無駄に使ってしまいました」
デルはローパーの攻撃を受けてせっかく新調したローブを脱ぎ捨てていた。
でも、ポーションの方は無駄ではないと思うのだけど……、それにあのポーションは街で買った分じゃなくて、玉さんの雑嚢に元々入っていた分なんだけどね。
「せっかくだしダンジョンに入って少し稼いでおきたかった」
ふむふむとセレーネの言葉に頷きながらアティウラも稼いでおきたかったらしい。
「それなら大丈夫」
「何が大丈夫なのですか? あの勇者パーティにポーション代を請求なさるとか?」
本当に凄い守銭奴だな。
「そうじゃなくて、実はあのダンジョンって全部の扉を閉めてモンスターやトラップなんかは無効化しているけど、機能はまだ生きているんだよ」
「それって……」
「そう、まだ見つけられていない財宝の類はそのままになっているから、落ち着いたら後でこっそり取りに行けるんだよ」
しかもモンスターもトラップもなく安全にね。
「まあ!」
「まじで!?」
「そうなの!?」
3人は揃って驚きの声を上げる。
「まあね。ダンジョンマスターとしての権限も奪っているから、どうとでもなるよ」
「財宝ってどれくらい残っているのでしょう……1千万……いや1億はいけるかもしれません!」
お金の収支に不機嫌だったセレーネの顔が一気に180度変わってウットリキラキラとなるのだった。
とても聖女様と慕う人々に見せられない顔だった。
「それもいいけど、まだ手付かずのマジックアイテムとかもあるんじゃないかな」
「マジックアイテム!?」
今度はデルとアティウラが目を輝かせた。
3人はなんか嬉しそうに各々話し始める。
「とにかく俺達だけでお宝を独占出来るって話だよ」
「……うわぁ、よくそんな悪魔的な発想が出来るわね」
「がーん……また言われたし……しょんぼりだ」
がっくしと項垂れると、セレーネが頭を抱きしめてくれる。
「デル、それはさすがに言い過ぎです」
彼女の胸に挟まれるように頭が埋めるとその温かさと柔らかさになんだかホッとする。
よかった。今日も生きて戻ってこられたんだな。
「そ、そうか、それはさすがに強欲か……じゃあ一応入口を開放した方がいいかな」
「え!? そ、それはお待ちを! そこは勇者様の機転勝ちだとわたくしは思います。ですからありがたくそれらを享受致しましょう」
「そ、そう! パーティの底上げは大事!」
デルの一言に、セレーネとアティウラが無理矢理フォローしてくれた。
「え……あ、なんかごめん、確かにこの先生きていくのに人間社会ではお金は必要なんだった。こうやって美味しいご飯食べられるのもあんたのおかげなんだね……ほんと、ごめん……あ、新しいアイテムはちょっと楽しみ」
デルが灰色っぽい紋様を浮かべながら、余計なことを言ったとばかりに謝った。
紋様族は貨幣とかも無い民族だから、その辺りの経済観念が薄いのだろう。
「分かった。じゃあもう少し人が少なくなった時期を見計らって中に入ろう」
「ええ、是非そう致しましょう!」
「今日はとことん飲む!」
「おー!」
「仕事の後のお酒は美味いっ!」
なんとも嬉しそうな我がパーティだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます