ダンジョンの入口<Ⅱ>

「どうも、初めまして……」


 一応礼儀とばかりに彼らに挨拶をすると俺とデルを見た彼らは、一様になんでこんな子供がと言った顔を向ける。

 それは仕方がない。何も知らなければ俺もそう思うだろうし。


「え、お……、おまっ!?」


 そこでデルを見た俺様男がやっと気付いたのか、驚いて変な声を出した。


「どうかしたの?」


「い、いや……な、なんでもない」


 変な奇声に女戦士が心配そうな声をかけたが何事もなかったように繕った。


「ねえボクたちは魔術師? この人数だったらもう一人くらい前衛が居るとよかったんだけど……」


「じゃあ僕が前に出ようか?」


「え、君が? そんな無理しなくてもいいよ。ちゃんと後衛でサポートしてくれれば」


 前に出るというデルに女戦士は笑って返してくれた。


「むしろ邪魔にならないように後ろから黙って付いてきてくれ」


 ローブ姿の少し神経質そうな魔術師が静かにそう言ってきた。

 ふむ、仕切りたいのであればそっちに任せておこう。


「さっきまでうるさかったのに妙に静かになったがどうかしたのか?」


「べ、別に……子供は守備範囲外で苦手なだけだ!」


 不審に思ったのか盗賊が声をかけると俺様男は声を荒げだした。


「よく言う……」


 男の態度にイラッとしたのか、デルの身体から薄らと紋様が浮かぶ。


「君はもしかして亜人なの……」


「そうだけど、何か問題ある?」


 女戦士はデルの異変に気付いたらしい。


「な、なんだよ……人間じゃないのか。だからか……」


 それを聞いて俺様男はため息をつきながら、何故か納得したような様子だった。

 思い切り蹴られて伸した小さな女の子が人間ではなかったと分かって安心でもしたのだろうか。


「んだとこら!」


「よせって、あのさダンジョンに入る前に詳しい話を……」


 少し感情的になっているデルを押さえながら、流れを変えようと詳しい話をしようとする。


「あー、そういうのはいいって、どうせレベル1のダンジョンなんだ。お前等はせいぜい足手まといにならないように付いてくればいいから。よっしゃ、じゃあさっさと入ってちゃちゃっと終わらせようぜ」


 か、軽いけど、いいのか? 一応戦闘もあるだろうし、場合によっては怪我や最悪死亡だってあるんじゃ……。


「それじゃあ、このクエストはダンジョンの第一層のある場所に行って、そこにある札のようなものを持って帰ってきてくれ」


 中に入ると床に赤い矢印が案内してくれるのでその通りに進めば辿り着ける。

 第一層でも深い場所でもなく途中に発生するモンスターと数回の戦闘があるだけ。しかも何故かダンジョンなのに明るく松明などを用意する必要もない。


 なんていうか、まさにお使いレベルの試験であった。


「自動沸きのモンスターも貧相なスケルトンだから、これに勝てないと思ったら冒険者は続けられないと思った方が良い」


 そのスケルトンはどうやらアンデッドではなくボーンゴーレムの一種らしい。デルと対峙したときの魔術師が使ったのは結構強かったので別の種類だと思われる。

 それにしても相手に合わせて自動沸きするとかどれだけ良心的なんだ。


 おじさんは淡々と説明してくれるが、新米の4人はあからさまに士気が低く適当に聞き流していてほとんど緊張感がない。


「いいかい何度も言うようだけど、絶対に指定のルートから外れてはいけない」


 念を圧すようにおじさんは言う。


 このダンジョンは攻略目前のせいか深い階層のモンスターが上層で確認されているのでレベルに会わない敵が遭遇する可能性があるという。


「もし見かけたときは速やかに逃げるように」


 彼らはへいへいと適当に聞き流している。


「そしてロープが張っているところは危険な罠があるから注意するように」


 コンソールで確認すれば一発なんだけど、こんなところで拡げたら目立つので黙っている。それにそんなに複雑なルートでもないだろう。


「それにしてもまだ攻略前で運がよかったな。もし攻略されたらここは閉鎖する可能性もあるし、もしそうなると新たな試験が出来るまで待つことになるところだった」


 まじか? それなら確かに運がよかったかもしれない。


「それでは気をつけていってらっしゃい」


 おじさんの話が終わると、俺達はダンジョンの方へと向かう。

 入口を見ると直ぐ下がっていく階段が見える。


「おお……」


 これが本物のダンジョンか。


「君達は後ろにいれば大丈夫だから」


 俺が緊張していると思ったのか、女戦士はヘルメットを被りながら声をかけてくれる。意外と良い人なんだな。

 長剣を抜いて盾を構えて前衛として一番にダンジョンに足を踏み入れる。


 俺様男もそれにならって長剣を抜こうとするが今回も抜けず、盗賊が黙って引き抜いて渡してくれた。

 そして大した構えもせず、のっしのっしと女戦士の横を歩くのだった。


 その後ろに盗賊と魔術師が続き俺とデルは最後尾で付いていく。


 階段をゆっくりと下りながらデルが俺の雑嚢に持っていた本を仕舞う。


「本当にこんな連中と一緒で大丈夫なの?」


 そして耳元でぼそっと呟いた。


(それが試験なんだし仕方がないだろ)


 その呟きに対して俺は念話で返す。


『でもさ、明らかに実力不足なのが前でいいの?』


(彼らから見てみれば、むしろ俺たちの方が実力不足だと思っているよ。子供にしか見てないし大人の対応と思ってそこは素直に従っておこうよ)


『後でそれを恩着せがましくされても嫌なんだけど』


(まあまあ……)


 よほど俺様男が嫌いなのか、かなり不機嫌なデルだった。

 そういえば、まだ謝罪の一つもないんだよね。


 でもある意味あの程度で済んでよかったとかもしれない。なにせ声をかけた相手はこのダンジョンを攻略寸前の手練れパーティだったんだから。


 デルは一応左手にワンドを持つ。何かの時に魔法を使うためだろう。


 俺の方も魔法のダガーは持っているけど俺が使うよりもデルに使わせた方が有用な気がしてきた。

 今後は虚仮威しでもいいから杖みたいのを持った方がいいかもしれない。

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