街についたら当然楽しみは食事です<Ⅱ>
がしゃんっ!!
それはまるでマンガかアニメのように綺麗な弧を描いて飛んできた俺様男は顔から俺達の料理の上にダイブした。
「んな!?」
ほぼ手付かずの料理が吹っ飛び全て台無しとなりデルとアティウラが悲鳴のような声を上げる。
俺だけは予め退避させておいたので手持ち分だけは被害を避けられた。
こういうときは主人公が一番被害が出るものじゃないかって? ふ、俺は意外性をもつ男なのだよ。
そもそも見えているフラグなぞ全て回避出来て当たり前! しないのはワザとか余程の間抜けだけだ! などと勝ち誇りつつ手にある料理を口に付ける。
「うん、美味し」
「ぬおっ!? ……やってしまった」
投げ飛ばしたドワーフはやってしまったといった顔をする。
「こんの野郎!」
机にダイブした俺様男は顔に着いた料理だったものを振り払いながら立ち上がった。
そして腰の長剣を引き抜……けなかった。手よりも剣の方が長くて鞘が引っ掛かったのだ。
おいおい、そんな剣なんて持ってどうするんだよ……。
「お前なんて素手で十分だ!」
引き抜くのを諦め、長剣を鞘に戻すと拳を突き上げてそう言った。
正直に言ってしまうと非常に格好悪い。
「ほう、そうか」
「ぐっ……」
だがしかしドワーフの方は巨大な戦斧を既に手に持っていたため言葉を詰まらせると今度は必死になって長剣を鞘ごと腰から引き抜く。
なんだかなぁ、少し面倒くさくなってきた。
「いいか。これを抜いた以上、引き下がれないからな! 覚悟しろ!」
やっとの思いで長剣を鞘から引き抜くがドワーフの方は余裕そうな顔を浮かべたまま身じろぎ一つしない。
今し方のやりとり誰もが分かるが、この俺様男は自分の実力をまるで分かっていない。剣を持って自分が強くなったと勘違いしている。それくらいの駆け出しなのだろう。
それに男が持っている剣は長さは凄いが細身であり、ドワーフの戦斧と下手に斬り合ったら簡単に折られそうに見えた。
「やれやれ……、困ったもんじゃの」
ドワーフのおじさんは深めのため息の付くと手に持っている戦斧を適当な場所に立て掛けた。
「得物は持たないのか!」
いや、どう見てもお前みたいなバカな駆け出しが勝てる相手じゃないから。
「お前如き素手……ぬお!?」
俺様男の言葉に対して素手で十分と言おうとしたが、何かに気付いたドワーフはギョッとして声を出した。
「ふっ、今更泣いて謝っても遅いわ!」
長剣を構えた男はどうやら自分のことが怖いのかと勘違いをしたらしいが俺には見えていた。その背後に怒り心頭の二つの影が。
「……ふざけんな」
フードを脱ぎ体中赤い紋様が浮かび上がらせながら恐ろしい形相のデル。
ここまではっきりと紋様が分かるということは相当ヤバいんじゃないか。
「落とし前は……殺す」
アティウラに至っては落とし前を付けさせるどころか殺すとかかなり物騒な言葉が出ていた。でも空腹の時に食事を阻害されたら誰だって怒るよね。
「なに?」
長剣の俺様男は、その声に気付いて慌てて振り向く。
「なんだ……ガキかよ。気持ちは嬉しいがこれは男の戦いなんだ怪我しないように下がってな」
いや全然違うだろ。なんだこいつ全く空気が読めないというか状況が分かっていないらしい。
「それに……って、ひゅ、ひゅ、……ヒュー」
アティウラにも気が付いて、お眼鏡に叶ったのか口笛を鳴らしたようだが出来ないらしく言葉で直接ヒューとか言っている。ダサい。ダサすぎる。
余程気になるのか、ずっとアティウラの胸の辺りばかり見ている。そしてその行為がどれだけ火に油を注いでいるのか分かっていない。
しかもその火は火災とかって話じゃなくて全てを焼き尽くす地獄の業火だぞ……。
「こんな往来で何を出してんだ!」
がんっ!
怒りが頂点に達したのかデルは男の手の甲を蹴り上げると長剣を落とさせる。
「うわ!? 痛て! いきなり何すんだ!」
「うっさいわボケ! 人のご飯を返しやがれ!」
デルはその場で跳び上がると180cmを超える男の頭上にかかとを落とし込んだ。
ごっ!
「ふごっ!?」
男の頭に鈍い音がして、脳しんとうでも起こしたのか身体がふらつき倒れそうになるがなんとか持ちこたえてデルの方を見る。
「こ、このガキんちょがぁ……」
だが、その間にアティウラが笑顔で入り込む。
「おっと、何その子は君の娘かなにか? ちゃんと躾けないとダメじゃないか」
ビキッ……。
そんな音が聞こえた気がした。なんでよりにもよってデルを娘扱いするんだ? いくらなんでもそれはないだろ。
さすがのアティウラも笑顔が引き攣っているのが見て取れる。
「もし怪我をしたらどうするんだ。そうなったらそうだな君に相手をして貰おうかな」
ドワーフのおじさんの相手はどうなったんだ?
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