本当にやっと辿り着いたよ大きな街
本当にやっと辿り着いたよ大きな街
難民の集まるボロ家が見えなくなると直ぐに街らしき場所に入った。
明確な入口や門番的な人は居なかったが、この星に来て初めて見る人の数だった。
「さすが王都、人がすげえ居る」
「実はここもまだ王都ではないのです」
どういうこと? 思わずそう言ったセレーネの顔を黙って見た。
「あまりそう見えないと思いますが、ここは壁の外側で言わば貧民街に相当する場所です」
え、まじで? 俺は思わず街を見渡す。
街道から続くメインの通りと思われるここには道沿いに木造の二階建ての建物がぎっしりと詰まるように配置され、場所によっては3階建てと思われる立派なものも見える。
それに道は石畳で舗装されていて歩きやすくなっている。
「本来の王都はあの壁の向こう側なんです」
前を見ると確かに高い石壁らしきものが見えていた。
さすが王都、ドガ砦のスカスカな木の壁とは大違いだな。
「つまり壁を囲って都市を造ったけど、それ以上に人が増えて壁の外側にも街が出来ているってこと?」
「さすが勇者様、ご明察です」
馬車は引っ切りなしに走り、商店が軒を連ね、そこには人々が集まっている。大変活気がある街だった。
「平和が続いているの?」
「ええ長い期間、紛争と呼べるものはいくつかありましたが、大きな戦争は10年以上起こっておりません」
10年程度でも長い間と考えるのか。それほどこの世界で戦争は普通に起こることなんだな。
行き交う人々を見ていると荷物を運び出す奴隷と思われる人々に気付く。
「あれは……」
「いわゆる奴隷でしょ」
言い辛いことをあっさりというデル。
「でも思ったよりも普通の格好をしているんだな」
奴隷って言うから足枷とか付けられて鞭を持った監視役がいてとか思っていたんだけど少し違った。
「勇者様には珍しいのですね」
「ま、まあね。少なくとも俺がいたところに明確な奴隷は居なかったから、物語の中でしか知らないんだけど思ったよりも酷い扱いはしていないんだね」
働いている横で休憩している人も居て、汚いけどちゃんとした服も着ているし、なんか社畜時代の俺よりも待遇が良い気がするんだけど。
昼飯に行けないなんて日常茶飯事だったし、定時に帰るなんて出社初日だけで土日出社も当たり前だったからな。
「奴隷は結構お金かかる」
「そうなの?」
アティウラが首を縦に振る。それもそうか、ご飯代だってバカにならないし。
「安い方でも金貨200枚はかかりますし高価な方だと1000枚以上もあるみたいです。そして奴隷を持つと税もかかりますから言ってみれば財産なのです。ですからあまり酷い扱いはしないのです」
セレーネが妙に詳しく教えてくれる。金が絡む話になると本当によく知っているよな。
それにしても人の命が金貨200枚か。もし金貨一枚が1万程度の価値だったら200万円となる……俺の年収よりも安いのか。
ちなみにセレーネもアティウラも奴隷を見ても顔色一つ変えない。本当にこの世界でこれは日常の光景なのだろう。
だがデルだけは違った。
元々彼女の種族が奴隷目的で生まれたようなものだからかフードの奥から覗かせる顔に赤や灰色が混じった紋様が浮かべて複雑そうな面持ちでそれを見ている。
……ぐぅぅぅ。
「あ、あら……」
ぐぅ。
おっと、どれほど感傷的になろうともお腹は空くものである。すると呼応したかのようにアティウラやセレーネのお腹までなり始める。
「お腹空いた」
「やだもう、お恥ずかしい……」
「やっぱりギルドより先に飯にしようよ」
「そ、そうですね。入会試験で力が出なかったら困りますし」
「え、試験なんてあるの?」
セレーネの言葉にデルは紋様を徐々に薄くさせながら聞いてきた。
「簡単なものですよ。デルなら問題なく合格すると思います」
「そうなんだ」
「不安ですか?」
「そういうのって初めてだからよく分からない」
紋様族のデルは一族の里から出たことがないので何もかもが初めてなのだろう。
「少し頑張ってみる」
「あんまり頑張らなくていいと思う」
「どうしてよ!?」
「今のデルが本気で魔法を使ったらヤバいことになりそう」
ファイアーボールで建物を跡形もなくしたんだから、同じように施設とかを破壊しそうだし。
「そ、そっか……気をつけなきゃ」
「それだけの使い手だからむしろ歓迎される」
アティウラが困惑するデルの肩に手を置いた。
「う、うん、分かった。ありがとう」
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