超大型トロル

超大型トロル

 バキバキバキ! どごんっ! ばきんっ!


 トロルはどうやら高台の建物を軒並み破壊して回っていた。


『ジャマだっ!』


 逃げ遅れた村人を鬱陶しそうに追い払おうとする。そいつはそのつもりだったようだが、手加減が全く分かっていないため物凄い一撃となって襲ってきた。


「悪しきものから護る障壁となれ!」


 ごんっ! バリン! バリン!


『ヌ!?』


 すんでの所でセレーネが張った障壁に阻まれる。

 だが張った4枚の障壁の内二枚を壊し、3枚目にクラックが入ってやっと止められた。


「“ファイアーショット”!」


 デルが放った炎は一直線に巨大トロルの頭部に目掛けて飛んでいく。


 ぼんっ!


 顔に直撃すると花火が弾けたような音がする。


「やっぱりこんなんじゃダメだよね……」


 デルの放ったファイアーショットでは自分の身体を傷つけることは出来ないと理解しているのか巨大トロルは動じた様子もなく、全く動かなかった。


 もちろんデルも最低位の攻撃魔法で巨大トロルをどうにか出来るなんて思っていない。それにこれは予め杖に入れて置いた1倍率の魔法なので人間すら死なない。

 ただ小さいとはいえ炎の塊が顔目掛けて飛んで来たら、普通の生物で張れば反射的に顔を背けたりする。それを狙っていた。


『ジャマだぁ!!』


 それに怒ったのか巨大トロルは、その長くて太い腕をまるで鞭かのように上からしならせながら振り下ろしてきた。


「しまっ!」


 セレーネの障壁の弱点は真上である。障壁は垂直にも斜めにも張ることは出来るが屋根のように張ることは出来ない。

 そのため壁を越えるほどの高さから襲ってくる攻撃を防ぐ術はない。


「避けろ!!」


 俺やデル、そしてセレーネは直ぐさま横に飛び出すが、村人の老人と子供が逃げ遅れた。

 慌てて戻ろうとするが、全く間に合いそうにない。


「お姉ちゃんに任せなさい」


 上からか声がしたと思ったら、アティウラが何処からか飛び降りてきた。


 どすんっ!


 アティウラが静かに着地した直後、彼女の後ろに巨大な物体が落ちてきた。


「じゃなくて……あ、あれ……」


 そうじゃない。慌てて上を見ると巨大トロルの有るべきモノがなく一瞬混乱したが、よく見ると其奴の上腕から下がなくなっていた。


『ぐあああぁぁっ!! コ、コノォ!』


 怒った巨大トロルはもう一方の長い手を伸ばしてアティウラを捕まえようとするが、アティウラは後ろに下がるどころか身を低くして前に出た。

 トロルの伸ばしてきた腕の下をすり抜け一気に間を詰める。


「今の内に逃げ遅れた人を避難させてくれ!」


 デルとセレーネが老人と子供の元に行くと他の村人達も出て来ておぶったり抱っこしたりして逃げていく。

 アティウラの動きは鋭く、すれ違いざまにトロルの脚を思い切り斬り付けた。


 ぐしゃ!


 以前トロルを斬ったときの金属音の様なものでなく、肉や骨を切り裂くような音がすると巨大トロルの脚を見事に深く切り裂いたのである。


『ヌガァア!! お前如きに構っている暇はないのだ!』


 片脚の踏ん張りが利かないトロルはその巨体を維持出来ずに倒れていく。


 ずどんっ!


 地面が揺れるほどの大きな音を立てて巨体が倒れると、間髪を入れずアティウラはトロルの上に乗ると俺が教えた弱点を正確に突き刺した。


 ずぶっ!


『……っ!!』


 息が詰まったような声を上げて身体をビクンと一瞬痙攣させると、そのまま巨大な生物の行動が停止した。


「嘘だろ。な、なんだ……アティウラってこの前は小さいトロル相手に手加減でもしていたのか?」


 超巨大なトロル相手に一歩も引かないどころか完全に圧し返していた。


「最適化したの」


「……最適化?」


 トロルの上に乗ったまま、結構なドヤ顔で語った。


 彼女の言う最適化の意味は直ぐには分からないが、どうやら俺からのMP供給を考えて剣技をどうにかしたらしい。


「……これ以上は無理そう」


 巨大トロルは完全に停止させたはずだが意識はまだ有るらしい。残った手を振るわせながらもアティウラに攻撃しようとしてくる。

 だが、やはり急所を突かれたことで手を上げるのが精一杯だった。


『もしや……オマエ達の仕業か。ワレ等のコドモをさらったのは……』


「え……子供?」


 子供……、それってもしかして。

 悔しそうに力なく話し始める超巨大トロル。


『ワレ等に久しくウまれた大事なコドモ』


「い、いや……子供のトロルなら、あそこで寝ているが……」


『ナニ!?』


 俺は荷馬車で寝ている小さなトロルを指差した。


『おお! ワレ等のコドモよ!』


 どこから力が沸いたのか。それまで横に倒れ込んでいたソイツは俺達のことなど無視して無理矢理起き上がり、小さなトロルが眠る荷馬車の方に向かっていく。


 まだ手も脚も回復しきっていないため、這うようにそっちに向かう。


「お、おい! 話を聞きやがれ!」


 少しは知性を感じさせたが、やはりトロルはトロル。目の前により重要なものが見えればそっちに全て意識が向かう。


「どうするの?」


 アティウラが何時でもOKとばかりにポールウェポンを肩に担いでスタンバっている。

 ディテクトで奴の状況を確認すると再生回数が四桁を超えていた。


「さすがにアティウラ一人じゃ厳しいな。デルにやらせようにもここであれを使ったらまた被害が拡大するし……」


 そう考えている間にトロルの脚が回復してきて、ぎこちないが歩けるようになっていた。


「やば……、ごめん追いかけて!」


 しまったと後悔しながら俺は走り出すと3人も付いて来……、いやアティウラとデルが追い抜いていった。二人共脚速っ!?


 それにしても少しばかり軽率だった。完全にトロルを人里の中に入れてしまった。

 例え超巨大トロルが子供を取り返したところで素直に森に帰っていくとは限らない。


 このままでは農地にまで大きな被害を出してしまいそうだし、止めるにはどうすれば……仕方がない。あの光線銃を使うか。


 俺は雑嚢に手を入れると光線銃を取りだした。

 これで一端テイムして森に戻そう。

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