卿御洲君と話しましょう<Ⅲ>

「もしかして、ここが本当にゲームの世界だと思っているのか」


「え……、だ、だって……」


「君に付き従うこの二匹や村の人々……いや世界の住人全てがゲーム上の作られたNPCだと本気でそう思えるのか?」


「………………」


 少しは思い当たる節があるのか、彼は黙ってしまった。


「ごめん、悪いのはそう教え込んだ神であって君じゃないんだよな。でも少しでも異変を感じられるならこの世界の全ての生き物に“命”があるって憶えておいて欲しい」


「……わ、分かった」


「ありがとう」


 俺は右手を差し出すと、ケイオスくんも手を差し出してきた。

 そのまま握手をしようとした瞬間に……。


「話は終わりましたか?」


 そこへセレーネがやってきた。


「晩ご飯用意するから荷物を出して」


 後ろにはアティウラやデルも一緒だった。


「勇者様、ここにはサウナがあるんですよ! 是非一緒に入りましょう」


「え!? い、今話の最中だから……」


「あ、あら……これは申し訳ありません」


 ケイオスくんは黙ったまま差し出した手を引いてしまう。


「お取り込み中? ……ゴメン」


 アティウラが軽めにケイオスくんに謝った。

 メイド服を着た憧れの存在が目の前にいることに彼は少なからず冷静に見てはいられなかった。


「私は一緒に入ったばかりだから遠慮しておく」


「よろしいのですか? では……、デルはどうなさいますか?」


「ぼ、僕はいいよ。サウナって苦手なんだ直ぐに熱くなるし」


 まあそれだけ薄いからだだとサウナには弱そうだよな。


「い、いや俺もいいから先に入ってなよ」


「そんな! アティウラとは一緒に入ったのにずるいです。人里に着いたら一緒に入るって約束をしていましたのに、それなのに……先に他の女性とご一緒するなんて」


「い、いや、そこはほら……」


 確かにどこかで約束したような気がするけど、そこが怒るポイントなのか。


「わ、わかったよ。一緒に入るから、今はまだ話の最中なの」


「本当ですか! それでは準備してお待ちしておりますね。あ、お話の最中に申し訳ありませんでした」


 セレーネがケイオスくんにお辞儀をする。


「え、えーっと……」


「……お、お、お……」


「お?」


「お、お、お前なんて!」


「うわ!?」


 言葉に困っていると俯いていた顔を上げケイオスが物凄い形相でぶん殴ってきた。

 いきなりの不意打ちだったが、すんでの所をなんとか避けた。


「いきなり何をするんだよ!」


「う、う、五月蠅いっ! お、お前なんて! お前なんて!」


 あまり女性を伴って話すのはダメだろうと思って一人で話しに来たんだが、まさに危惧していた通りになってしまった。

 ケイオスくんの攻撃は俺の目から見てお世辞にも速いとは言えず、避けるのはそれほど難しいものではなかった。俺もこっちに来て結構鍛えられているんだなと変な実感沸いた。


「お、お前なんて! お前なんて! よ、避けるな!」


「ちょ、どうしていきなりケンカになってんのよ!?」


 ケイオスくんの行動にデルが戸惑う感じで止めようとする。


「止めておきなさい」


 だがアティウラがそれを止める。


「男同士のケンカにママが出て来たら恥ずかしい」


「誰がママよ!」


「似たようなもの。毎晩よしよしってしてるし」


 アティウラの言葉に、より怒り心頭になるケイオスくん。


「ふざけるな! ふざけるな! ふざけなぁ!!」


「ちょー! アティウラここでこれ以上余計なことを言うな!!」


「お、お前みたいな、こ、小僧に、こ、これ以上舐められてたまるか! お、お、大人を、舐めるな!」


 何をわけの分からない……って、そうか俺ってそのくらいの年齢に見られているんだった。その挙げ句に自分よりもかなり若い相手にタメ口、そして複数の女の子連れだっていたら確かに切れるわな。


 ぶんぶんとケンカパンチで攻撃してくるので、当たらないように後ろに下がるように避け続ける。


「この! この! このー! あ、うあ!?」


 どんっ!


 殴り続けている間に、ケイオスくんが何かを踏んで滑って転んだ。


「だ、大丈夫? って、臭っ!」


 踏んだそれは何かのウンコだった。そして転んだ拍子に茶色いそれが服やズボンにべったりと付いてしまう。


 うわぁ……さすがにこれはちょっと……。


「……わ、笑った、笑ったな!」


 そのつもりはなかったが、どうやら俺が笑ったように見えたらしい。


「このっ!」


「ぶば!?」


 頭にきたケイオスくんはよりにもよって服に付いたウンコを投げつけてきた。

 まさかそんなことをするとは露程も思っていなかったので避けることもせず思い切り顔に当てられてしまう。


「ぎゃーっ! なんてことをするんだよ!」


 俺は顔に着いたウンコを手で払うと、頭にきて突撃して手に残ったウンコを彼の顔に擦りつけた。


「うわー! な、なにするんだ!」


「うるっさい! それはこっちのセリフだ! 嫉妬するにしても酷すぎだ!」


「黙れ! このリア充! 危うく騙されるところだった!」


 ウンコとウンコを擦りつけ合う。

 思い切り臭い。とにかく臭い。しかも気持ち悪い。


「う、うわぁ……これ止めなくていいの?」


「デルが止めて」


「な!? ごめん、それは無理」


 アティウラとデルは思い切りドン引きしていた。


「勇者様、ファイトですよ!」


 そしてセレーネただ一人何故か応援しているのだった。

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