今更の紹介<Ⅲ>

「これが悩んでいるんだよね。正直なところあの村の住人の態度は好きになれない」


「へぇ、アンタでもそういう風になることもあるんだ」


「おいおい、別に俺は誰彼構わず助ける聖人君子とかじゃないからな。彼らはアティウラに助けを求めてきたくせに支払いを渋った挙げ句、巡回騎士が来た瞬間そっちに乗り変えて、こっちは無視を決め込んだんだぜ」


 社会人のときもたまにこういうことが有ったよな。

 ずっと懇意にしていたのにウチよりも安いところが見つかった途端連絡が止まって無視を決め込む担当とかさ。


「それに報酬が払えない人達ならある程度は分かるけど、凄い豪邸に住んでてどう見ても資産があるのにゴブリン退治と同じくらいに値切ろうとするんだもの」


「あー、それなら仕方がないですね。あそこの主はケチで有名ですし」


 それまで村の安否を気にしていたセレーネが、お金の話をした途端あっさりと諦めてしまった。それに旦那様のことも知っているっぽい。それでいいのか聖職者。


「あの騎士達、トロルに勝てる?」


「さあトライアングルなんとかが決まれば勝てる……わけないか」


「トライアングルって……もしかしてミネディア様達が来たのでしょうか?」


 少し苦い顔で首を縦に振ると、セレーネはなんとも困ったような笑顔を返してきた。


 そう彼らはドガ砦でに現れた役に立たなかった援軍の3騎士。

 意味もなく突っ込んではゾンビを引き連れて戻ってきたりとトラブルメーカー的な部分の方が記憶によく残っている。


「……ふう、でも中には良い人もいたし、それに同郷の人間が迷惑を掛けるのは見過ごせないから、やっぱり助けにいくべきかな」


「はあ? なにそれ結局助けるのかよ。素直じゃないんだから」


 デルよお前にだけは言われたくないのですが。


「わたくしは最終的に勇者様はそうなさると思っておりました」


「そうなの? じゃあセレーネ、デル、悪いんだが頼めるかな」


 最終的に俺に戦う力はない。結局二人の力を借りなければ何も出来ない。


「ええ、もちろんです」


「はぁ……分かったわよ。どうせこうなるって分かってたもの」


 セレーネとデルは二つ返事だった。


「私は?」


「アティウラも手伝ってくれるの?」


「もちろん、今は主様が雇用主だもの」


 確かに雇っているけど契約は護衛であって魔物討伐ではないのだが。

 だが彼女ほど前衛として頼もしい存在はそうはいないだろうし。


「分かった。最悪追加料金も考えるから頼む」


「ほんと!? じゃあ頑張る。あ、追加分は現物支給が良いな」


「現物? そんなに高価な物なんて持っていないけど」


 アティウラはニコニコしながら顔を近づけてくる。


「あのね。子種を現物支給して……欲しいの」


「え……こだね? ……って、それもしかして!?」


 子種って要するに俺の子供が欲しいってこと!?


「主様の子ならきっと可愛い。それに私と違って頭の良い子に育ちそう」


 笑顔でアティウラ俺の鼻先に人差し指でツンツンと軽くつついた。


「ちょーっと待ってください!」


 そこへセレーネの手が二人の間に割って入ってきた。


「今の話、申し訳ありませんがそれには異議を唱えさせていただきます!」


 さすが聖職者、そこの倫理はしっかりしている。


「……本妻さんが出て来ちゃったか」


「勇者様の初めてはわたくしがリザーブ済みですから順番は守っていただかないと困ります!」


 少しでも感心した俺がバカだったよ!


「そう、順番は気にしないから3番でいいよ」


「なんで3番目なのよ?」


 アティウラは何故か2番ではなく3番だという。


「紋様族ってシャイだね」


「もしかして2番目って……僕のこと!? べ、別に、そういう関係になろうなんて全然考えていないから!」


「じゃあ、私が2番でいいの?」


「そ、それは……」


 その場に居る全員の視線が向く。アティウラはなんとも楽しそうにしていて、セレーネはきゃーと顔を手で隠しているが興味津々の目までは隠せていない。

 かくいう俺もデルの反応に興味がないわけじゃなく、つい表情を伺うように見てしまう。


「だ、だから……それは……って、そんなことどうでもいいじゃん! 今は明日のことを話し合うんでしょ!」


 デルは話を元に戻して明日をどうするか決めるのだった。

 報酬の件は急ぐこともないので、いずれという話で勝手に決められアティウラも手伝うことになった。


 相手の目的が不明のためとにかく朝になったら村に向かい、どうするかは俺次第という結構適当な話で決まったのだった。


「村を救っても一銭にもならないけどいいの?」


 アティウラはとても冒険者らしい意見を述べてくれた。


「こればかりはどうにも、打算だけで動けたら楽なんだけどね」


 俺の言葉に静かに笑顔を見せるセレーネとデル。


「……二人が主様に付いていく理由が分かった」


「そうなの?」


「キスが上手だし、それだけでもご褒美になるし」


「な!?」


「ええ、最初の頃に比べると素晴らしい上達ぶりなんです」


 セレーネがアティウラの言葉に同意した。

 ちょっと待て! そもそも、そうさせたのは貴女ではないのかね!


 だが女の子ばかりの今の状態では分が悪そうなので、反論するのは止めておいた。

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