今更の紹介<Ⅱ>

「でも、その前に……」


「とにかく、いいから先に戻ろうぜ!」


 何も言わせないように必死で止める。


「落ち着いて、この後はどうするの」


「もちろん普通に眠るよ。余計なことはしないって」


「そうじゃなくて明日の行動はどうするのって」


 こんな流れだったのでアティウラが変な話をしているのだと勘違いしてしまった。

 二人と再会するのが最大の目的だったのでその後のことをすっかり失念していた。


「普通に考えれば村に戻ることになるけど」


「もしかしたら村が襲われて大変な事になっているかも」


「あ……あー!? 忘れてた!」


 直ぐさま慌ててサーチで勇者と魔物の一行を動向を探る。

 どうやら夜だからか移動はしていないが、村のある方角に向かって移動しているのは明らかだった。


「……そうだった。勇者とトロルが人里に向かっていたんだった」


「あれ、今勇者って言った?」


「あ、うん、俺達を襲ってきたのは勇者を中心とした魔物の集団だった」


「は? はあああ!?」


 デルが驚いた声を上げると身体の紋様が浮かび上がった。

 うーむ、すっかり勇者と聞くだけで一定の拒否反応が出る様になったみたいだ。


「それは事実なのでしょうか。魔物を倒す勇者が魔物を引き連れているだなんて」


「目視とディテクトで調べたから間違いはない」


「そんな!? その勇者は一体何をしようとしているのでしょうか」


「セレーネ落ち着いて、とにかく一度相手の状態を整理して説明をするよ」


 勇者は駆け出しの剣士でレベルは俺と同程度、しかも何故か持っている伝説級の武器が筋力ステータス不足から満足に性能を引き出せていない。

 トロルは大きいのと小さいのの2体を引き連れていて、いずれも何かしらの魔法かアイテムで勇者が支配している状態になっている。


 少し気になるのがオークとノールの二匹が変種らしく知性が非常に高く人間並で支配を受けないで勇者に付き従っていること。


 残りのゴブリンとコボルドはいずれもコモン種で勇者やトロルが強いから従っているだけだと思われる。


 “unknown”アイテムについては言うべきか悩んだが、下手にそんな存在を知って後々大変な事になるかもしれないと考え、あえて伏せることにした。


「そんな感じなんだけど」


「詳細は分かりました。ですがそれでも何故勇者が人里を襲うのでしょう」


「俺もそこはイマイチ分からないんだよね。強力な魔物をテイムできたならそれと協力して魔物退治をするとかなら分かるんだけど」


 セレーネの疑問は俺も感じている。

 ぱっと見た限りあの勇者からそんな悪そうな雰囲気は感じなかったし。


「それに支配していたわりにトロルの行動は自由すぎない? オークとノールが探しに来たくらいだし」


「襲ってきたあのトロルはまだ幼児らしくて、支配はしていても行動の抑制が効かないのかもしれない。大きい方はずっと勇者から離れなかったし」


「子供は自由だから、里でお守りとか苦手だった」


 一瞬アティウラの子供かと思ったが、さっき処女だって分かっているので姉妹とかの子供のお守りをさせられたのだろう。

 俺も地球にいた頃は年の離れた妹の面倒で苦労したのを憶えている。幼い子供って全くこっちの話を聞いてくれないんだよね。


「本当に人里なんて襲うの? もしかしたら近くに着いたら魔物達を残して自分だけ村に行って物資の補給をするとかじゃないの」


 ああ、なるほど。デルの考えは意外と良い線な気がする。

 魔物はともかく地球育ちの人間が森の中で生活をするなんて色々と不便が多すぎるし。


「それは確かに考えられるんだけど……」


「他に何かあるの?」


 それでも一つだけ懸念がある。あの小さい方のトロルは単にこっちを“エサ”と認識して襲ってきたが、後から来た奴らはどうして俺達を探していたのか。

 ただトロルを回収するだけなら、わざわざ俺達がいたところまでやってくる必要はない。


 謝罪しにきた態度には見えないし、支配した魔物が傷つけられた恨みにしては態度が大人しすぎる。

 虐殺目的ではないようだが友好的な感じは全くない。


「ごめん……全然分からん」


「ちょ、なんだよそれ」


 デルがずっこけ気味に突っ込むが、それで少し冷静になったのか身体の紋様は薄くなっていく。


「うーん……、結局何が目的なんだろうな」


 魔物を使って人里を襲うとか、魔王軍の軍門に下るとか色々と考えてみるがどれもいまいちしっくりこない。

 確かにトロルは強いけど数が少ないし、他の勇者……それこそ佐藤君レベルが出てくるだけで全部倒されてしまうだろう。


「それでは勇者様はどうなさるおつもりなのでしょうか」


 そうやって悩んでいるとセレーネが話しかけてきた。

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