メイドを求めて……

メイドを求めて……

「ふわぁぁ……」


 勇者と魔物の一団は森の中を移動していた。

 足に着いたウンコの処理で眠るのが遅くなり彼が目を覚ます頃には日が高くなっていた。


「大将、この辺りでさあ」


 慌てて出発するも昼過ぎにやっとメイドとトロルが交戦した場所に着いた。


「……そう、なんだ」


 川幅は比較的広く流れは緩やかだが日本の川に比べると大分濁りがあるため水深が分からないが、なんとなく深そうに見える。


 川と木以外に変わったものは特に見当たらず、人などがいるような雰囲気は感じられないので残念ながら彼が期待していたメイドさんはいない。


 亜人の里かキャンプがこの近くにあるのかと思ったがどうやらそうではないらしい。


『主よ。向こうからニンゲンの匂いがする』


 ぬか喜びにがっくしと肩を落としているとトロルが呼ぶ。

 どうやら下流の方に、人間らしき複数の匂いがするという。


「……そっちの方」


 小さい方のトロルもその方向に鼻をヒクヒクさせている。

 こいつは子供だがとりわけ鼻が利く個体で、昨日もこっちの命令を聞かずに飛びだしていった。


 結果的には返り討ちになったが、少なくともそれで亜人のメイドさんが見つけられたのだから、少なくともこいつの鼻の探すという部分は信じられた。


 あっちに行けば、メイドさん達がいる!

 既に彼の中でメイドさんは複数形となっていた。


「よ、よし……そ、そっちに行こう」


 トロルの指す先に向けて一行は歩き始める。


「メイドさん……、メイドさん……」


 どうしても心なしか脚が速くなってしまう。


「ウオ……?」


 しかし歩き始めて直ぐに、小さい方のトロルが何かに気が付いた。


「ウオ、ウオゥ!  オオウッ!」


 いきなり興奮し勝手に走り出した。本来テイムされたモンスターはある程度のコミュニケーションが出来るはずだが、幼いからか小さい方のトロルとは会話がほとんど成り立たない。


「あ……、あー……」


 とはいえ彼の方もコミュ障なので、自分から話しかけることなど出来ないのだが。


「おい! トロル戻ってきやがれ!」


 オークが叫ぶが当然話が通じるわけもなく、あっという間に森の奥へと消えていった。

 こういうとき大きなトロルは何も言わないし何もしてくれない。基本的にトロルはお互いの行動に興味がないのだそうだ。


「ったく、大将どうしますか」


 奇行が目立つ小さいトロルだが、えらく興奮していたので何かあるのだろうか。


「あ、もしかしたら……」


 例のメイドさんの匂いに気付いたのかもしれない。

 日は上がったし、あっちも移動していてもおかしくない。


「お、追いかけよう」

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