ようこそ、ここはジャモガ村です

ようこそ、ここはジャモガ村です

 何度か強がってアティウラは一人で歩くがその都度転びそうになり結局、俺がずっと肩を貸す状態で歩いていた。


「情けなくてごめんね」


「気にしなくていいって」


 歩いていて気が付いたが彼女は胸当て以外にもロングスカートからチラリと脛当を着けているのが見えた。

 武器や鎧、そして荷物も含めるとそれは結構な重量であり、それもあり進む速度が遅くなっていた。


 そんな状態で再度歩き出して30分ほど、やっとドガ村以来の久しぶりの人里に出ることが出来た。

 ぱっと見だと規模は似たようなものようだが、それでも人が居る場所というのはホッとする。


 すっかり太陽は傾いており本当にギリギリであった。もう少し遅かったら真っ暗な森の中で立ち往生してすることになっていたかもしれない。


「あれ……冒険者さん、ゴブリンの方は退治出来たんですか?」


 村の中心に向かって歩いていると第一村人に遭遇。


「って、どうなさったんですか!? もしかしてお怪我を?」


 俺に肩を借りて森から出て来たアティウラを見て第一村人は驚いた。


「大丈夫……」


「お恥ずかしい話ですが、少々無理をしてしまいまして」


 説明不足のアティウラに変わって補足する。


「そ、そうなんですか? と、とにかく村長を連れてきますね!」


 村人は慌てて村の中心の方に走っていった。


「なんとか着いた。本当にありがとう」


「それはいいんだけど、そろそろ離れない?」


「分かっちゃった?」


「少し前から歩き方が変わったからね」


 そう言うと俺から離れて普通に歩き出した。やっぱり、もうすっかり回復してたのか。


「心地良かったから……つい」


 ったく、なんだよそれは、まあ命の恩人だから良いけどさ。


 おっと、そういえばセレーネとデルの方はどうしているんだろう。

 もしかしたらまだ俺のことを探しているかもしれない。


 うーん、なんとか連絡する方法はないのかな。テレパシーとかそんな感じで出来るとかさ……。


【念話:誰を呼び出しますか?】


 は、念話? 目の前に呼び出し対象の名前一覧が出てくる。


 セレーネやデル、族長やカトリナ、それにアティウラの名前がリストで表示されている。

 これって俺がMPを分け与えたことのある人達じゃないか。


 原理も理由も分からないが、とにかく使ってみよう。


(“念話”セレーネ)


『え!? はい……もしかして勇者様?』


(あ、セレーネ?)


『ど、何処から話していらっしゃるのですか!?』


(念話っていう遠くでも会話が可能な能力らしい)


『そんなことが出来るのですか!? で、でしたら……』


(今し方知ったんだ。連絡が遅くなってごめん)


『そ、そうですか……あ、今勇者様と話をしてて、え? ああ、無事なのですか?』


 どうやらセレーネは声に出して俺と話をしているらしい。

 そのおかげでデルにもある程度伝わっているようだった。


(俺の方はなんとか。川に落ちて流されたんだけどあの虫がしつこくてさ、それでも追いかけてきて偶然出会った人が倒してくれて、そこから一緒に行動して東南の人間の村に辿り着いたところ)


『川!? ゆ、勇者様は溺れなかったのですか?』


(普通に泳げるから、流れが速かったから大変だったけどなんとか溺れずに済んだよ)


『勇者様って本当に何でも出来るんですね』


 泳ぐくらい普通のことじゃないのか。

 そういえば日本は周辺が海だから水泳の授業がしっかりしているから泳げる人間が多いが、他の国はそれほど泳げる人はいないって話を聞いたことがある。


 つまりセレーネは泳ぐような機会はなかったってことか。


『東南の村ってことは……、もしかしたらジャモガ村でしょうか』


(まだ辿り着いたばかりで名前とかは分からないけど、これから村の人と話をするつもり。とりあえずは俺の方は身の危険とかはないから)


『……川は真っ直ぐに森を抜けるけど、歩いてそちらに向かうと結構距離はあるの?』


 セレーネの隣でデルが説明しているのだろう。

 確かに川はずっと谷間のようなところを流れていたから歩くとなると結構迂回が必要なのかもしれないな。


(そうなると今日中の合流は無理か)


『そうですね……でも勇者様の方は大丈夫なのですよね。よかった……では、わたくし共は大人しくシェルターの方で夜を過ごします』


(済まないがそうして、あ、トロルが出るらしいから本当に気をつけてな)


『トロルですか!?』


(うん、その辺りの詳しい状況が分かり次第また連絡をするから)


『そうですか、それではまたの連絡をお待ちしております』


(ああ、気をつけてな)


【念話:終了】


「どうかしたの?」


 念話に集中していたのを変に思ったのかアティウラが顔を覗き込んでいた。

 セレーネ同様、この人もなんだか距離感が少し近い。


「え、いや少し疲れたみたい」


「そ、そう……無理させてごめんね」


 よしよしとまた頭を撫でるアティウラお姉さんだった。


「それにしても……凄く柔らかい……ちょっと気持ちいい」


 この人、もしかしてこんな思わせぶりなことをするからパーティクラッシャーになったんじゃなかろうか。

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