あっしと俺っち<Ⅴ>
「だ、大丈夫なのか?」
流されてきたからよく分かるが、この川の流れは結構速い。
だがしばらくするとアティウラは川から顔を出してこちらに戻ってくると綺麗な釣り鐘型のおっぱいを惜しげも無く晒しながらこちらに向かってきた。
俺は雑嚢からバスタオル的なモノを取りだして渡そうとすると、彼女は驚いた顔をして素直に受け取った。
「すんすん……、あら……良い匂い」
「ちゃんと洗ってあるから」
臭いを嗅いで少し感心した様子のアティウラ。
「……洗濯? それとも体臭が少ない?」
「それは分からないけど……」
「すんすん……」
「ちょ、ちょっと」
アティウラはいきなり俺の頭を嗅ぎ始めた。それにしても素っ裸なのになんともないのか? まあボク扱いしてるくらいだから男として見ていないのだろう。
「……仄かに良い匂い」
「あの、さすがに恥ずかしいのですが」
「あ、ごめんね。ちょっと匂いに敏感なの」
「そ、そうなの?」
「……ごめんね。すんすん」
謝ってはいるが、アティウラは匂いを嗅ぐのを止めようとしない。
「別に怒ってないけど、だから恥ずかしいんだって」
綺麗な女性に体臭を嗅がれて喜ぶような性癖は持ち合わせていない。
「それに、その格好は寒くないの?」
「寒い……」
「だったら服を着なよ」
「でもトロルが……」
トロルが再度攻めてきたら困るってことか。
確かに嘘くさいくらい強かったもんな。
「つまり、あんなバカみたいな化け物が二体もいるんじゃ、さすがのお姉ちゃんも一人じゃどうすることも出来ないって言いたいの?」
コクコクと首を上下に振る。
一体でもあれだけ苦労したのだ。もし二体同時に襲ってきたら倒すのはかなり難しそうだ。
それにあの二匹の魔物みたいなのがまた出て来て援護射撃などされたら目も当てられない。
「早く村に戻って、説明しないと……」
「村は近いの?」
コクコク。
アティウラはクールと言うよりも口下手っぽい。
「とにかく分かったよ。ほら身体を拭いたらこの服を着て」
「ありがとう。下着は?」
黙って例のヒモみたいなヤツを渡す。
「こ、これ?」
「違うの? メイド服と一緒に出て来たんだけど」
「構わないけど……」
さすがのアティウラも少しだけ恥ずかしそうな顔をする。
どうやら他にも下着はあったのだろう。女性のバッグだし急いでいたから、あんまり確認しなかったのは失敗だったかな。
仕方ないとアティウラはそれを受け取って身に着ける。
ひ、紐パンてそうやって身に着けるのか。片方の紐を結んで脚を通すと反対側を結ぶ。
位置が気に入らないのか最初に結んだ方を結び直す。
「ぶっ!」
なにこれ、めっちゃ紐なんだけど……。これって身に着けてる意味あるのか?
見えちゃいけない部分がちょこっと見え隠れしているし。
ある意味裸よりも卑猥に見えるのは、やはり心がおじさんだからだろうか。
アティウラの方は俺の視線など気にすることなく半乾きのまま髪の毛をアップにすると胸当てや新しいメイド服に手足を通していく。
「一つ質問していい?」
おおよそ着替えが終わったところでアティウラがそう言った。
「ごめんなさい」
「どうして?」
「え、違うの?」
てっきり黙ってガン見していたことを咎められたのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「い、一応、答えられる範囲なら」
「あの力はまた出来る?」
「あの力ってMPを増やすヤツ? まあ出来ると言えば出来るけど……」
「もう一度お願いします」
アティウラは礼儀正しくお辞儀をしてきた。
「いやでも……」
「お願い」
返答に困っていると、そのまま彼女の顔が眼前にまで寄ってきた。
「近いっ、顔が近いって!」
「再度襲われるかもしれない」
確かにその可能性があるか。トロルはともかくあの二匹は頭の良いみたいだし。あれであっさりとトロルに喰われていたら楽だけど、ああいった手合いは結構しぶといんだよな。
もしかしたら、もっと組織的な動きで再度現れるかもしれないし。
「お金の件は要らないから、何卒お願い」
「……う、うーん」
セレーネの金額ならともかく、彼女の金額は相当安いからそれをチャラにされてもなぁ。
おいそれとこの力を与えない方が良いのだが、目的ははっきりしているし問題ないかもしれない。
「じゃあ私を好きにして……いいから」
「はい?」
「私の身体に興味がありそうだったから……」
「ちょ、な、何言ってんの!」
「やっぱり私の身体じゃ足りない?」
「い、いや、足りないとかじゃないから!」
「ごめんなさい。おこがましいことを……」
「だからそうじゃないって! あのデカい虫を倒してくれた恩もあるし、このままこの森に一人にされても困るし、俺としてはお姉ちゃんと同行した方が助かるの」
むしろ本来なら俺が土下座したとしても相手にされないだろ。
「それにお姉ちゃんは、す、凄く綺麗だし……、彼奴らを撃退するのが目的なら力を貸すよ」
「そ、そう? ありがとう! じゃ、じゃあお姉ちゃんが責任を持って案内してあげ……」
指を差して案内をしようとしたアティウラだが、急に体調でも悪くなったのか身体が言うことを利かないようで前に進めないらしく本人も驚いていた。
もしや遅効性の毒でも喰らったのかと“ディテクト”で彼女の状態を調べてみることにする。
【ステータス異常】
【多量の剣技による身体の酷使からの筋肉痛。MPを大量に消費したことによる欠乏症】
【ただし対象は“アマゾネス”のため、しばらくすれば回復する】
アマゾネス? いや今はそこじゃない。俺は彼女に状況を説明する。
「……そうなの?」
「少し考えれば身体に負担がかかるって分かることだったんだけど」
言い訳をするなら剣技の存在を知ったのは今し方だったけどね。
アティウラはタフそうだけど目で追えなくなるほどの動きを繰り返したんだから肉体の負荷だって相当あったのだろう。
「ボクのせいじゃないよ」
無理に笑顔になってフォローしてくれるアティウラ。
「剣技をあんな使い方したのは初めてだったから」
「じゃあ肩を貸すよ。それで歩けそう?」
「大丈夫?」
「なんとか頑張るよ。ここにはあまり長く留まらない方がいいでしょ」
遠慮がちのアティウラに俺は構わず彼女の手を取って肩に通したが、体格差がもろに出て自分の背の低さが身に染みた。
先ほど綺麗な身体を見たけど、本当にあのごつい武器を振り回せたのだろうかと疑問に思えるほどとても柔らかな身体だった。
「村はどの辺り?」
「あっちに1時間くらい」
「分かった。それじゃあ行こう」
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