この世界のメイドさんは戦えるのか<Ⅴ>

「……十分」


「じゃあ、お願いします。えっと……お姉ちゃん!」


「え、お、お姉ちゃん!? お姉……ちゃん……うん、任せて!」


 さっきそういったときに少し驚いた感じがしたのでもしかしたらと思って言ってみた。

 どうやら彼女にはその系統の属性があるらしい。


「あ、もう十秒だけ稼いで」


「は、まじで?」


 グルグルグルグルと威嚇するような声を出してトロルがこちらを見ているのに気付く。


『ダレもイない! ダマした!』


 あらぁ……なんだか凄く怒ってら。

 だが俺も幾度かの死線を乗り越えている。恐怖を感じつつもトロルに対して弱腰ならず話しかける。


「いやいや、よく見てみろって川の中だ。それなら臭いが分からないだろ」


『ナニ?』


 トロルは俺の話を聞いて川の中に手を入れ誰か居ないか探し始める。本当に話が通じるとチョロくて笑い出しそう。

 横目でメイドさん、いやアティウラを見ると目を瞑って武器を構え、集中を高めているようだった。気合いでも貯めているのか?


『イない! ダマした!』


 あらら……。うーん、さすがのトロルを騙し続ける限界のようで怒りを露わに俺の方に向かってきた。


「ちょ、まじ!?」


 あんなぶっとい腕でぶん殴られたら俺なんてマジでワンパンだぞ!?

 トロルは川から出て来ると腕を振り上げた。


 やばい。マジでやばい。


「……お待たせ」


 いつの間にかトロルの背後に回ったアティウラが一言放った。

 あの技、なんか凄え格好いいんだけど俺も使えるようにならないかな。


「はあぁぁぁっ!」


 ぶしゅっ!


 彼女が手にする巨大な武器が怪しい光の軌跡を残しながらぐうんと強烈な風切り音を立ててトロルの首を吹っ飛ばした。

 それまでの石を強く打ち付けたような音ではなく小さく切り裂くような音だけがした。


「まじか……って、うわ!?」


 頭がなくなったトロルの首からは激しい血飛沫が噴き出した。


「なんだったんだ今の……」


 あまりにも一瞬の出来事だったため少しだけ思考が追いつかない。


 噴き出していた血は直ぐに止まり、ヌチャヌチャと濡れた嫌な音を立てながらニョキニョキと何かが生え始めた。

 え、何あれ……もしかしてあれって頭が生えてんの? うわ……すげえキモいんだけど。


 それと同時に身体も少しずつ動き始めた。


「はっ!? そうだお姉ちゃん! トロルのヤツは頭を吹き飛ばしても直ぐに回復する! 胸の下辺りを思い切り突いてくれ!」


 俺の言葉に直ぐさまアティウラは直ぐに動き出した。

 胸にポールウェポンの槍を突き立てた。


「この辺り……“スラスト”!」


 ずぶしゅっ!!


 ポールウェポンの槍部分で岩のような分厚い胸板をあっさりと貫いた。


 するとトロルの身体から力が抜け、上げた長い手がぐったりと落ちてその場に立ち尽くすような形で止まる。倒れないのは身体が石のように固まっているからだろう。


 だが頭だけは変わらず再度生え始めた。


「まじか……どんだけ凄い再生能力なんだよ」


 ぶしゅっ!


 生えかけの頭を切り落とすアティウラ。


「意外と柔らかい……なら、徹底的に斬る」


 どうやら生えかけは柔らかいらしくあっさりと斬れるらしい。


「まじか!?」


 あと何回で死ぬんだよ!?

 俺は首無しトロルにディテクトを掛けるとトロルの頭上に数字が出て来た。


 158回。


 なんだこの数字……。

 更にアティウラの一撃で首未満が飛ぶと数字が157になる。あれはカウンターなのか。


「残り157回だ!」


「……そう」


 それはなかなか骨が折れそうとばかりにため息を吐くアティウラ。

 メイド服のスカートをひるがえしながら、彼女は何度も何度も首になりかけたものを斬り落としていくのだった。

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