ある日、森の中
ある日、森の中<Ⅰ>
「……なあ」
「…………」
「これってちゃんと合っているんだよな」
「…………」
俺とセレーネ、デルの3人は紋様族の里を離れてドガ砦を目指して魔物の森を歩くこと既に数日。
軍隊が付けていった馬車の轍や兵士達の足跡を辿ればいずれは森を抜けられるはずであったが、デルがこっちに近道があると自信満々に言うので案内を任せたわけだが……。
歩けど歩けど、それらしい場所に出ることはなくむしろより鬱蒼とした場所に踏み込んでしまったようで、そこで大きな虫と遭遇してしまう。
大きなといっても地球の昆虫のレベルではなく地球でタメをはれるのは像くらいだろ。
どうやらそこはその虫のテリトリーだったらしく激しい怒りを露わにして襲いかかってきた。
だがどんなに大きくとも所詮は虫、二人の魔法があれば対処は簡単だろうと思ったら、セレーネもデルも一目散に逃げ出していった。
2人とも虫が苦手で魔法どころではなく慌てふためいたのだった。
そのまま俺達はそいつにメチャクチャ追い回され、何とか逃げ切ったときには場所が全く分からなくなり途方に暮れていた。
ただ全員はぐれずに揃っているのは不幸中の幸いと言えるだろう。
このままではこの森で更に一夜を過ごすことになるかもしれない。
まあでも紋様族の里で見つけたシェルターという潜水艦のハッチみたいな入口を展開して別空間にある地下施設に行けるという大変便利なアイテムを手に入れたのだ。
夜はそこで過ごすためそこなら魔物や化け物の襲撃や雨風も防げて安全なのが救いだった。
だがシェルター内は密閉空間故、火気厳禁で料理自体は外でしないといけない。まともな食材がほとんど無いけど、それでもスープ的なモノでもあるだけで大分違う。
「こういうときって早めに野営準備を始めた方が良いんじゃないの」
「そうですね、森の中は直ぐに暗くなるので、早めに薪になりそうな木を集めた方が良いでしょう」
さすがセレーネ、旅慣れしているな。
「あ、あの……」
「どうした?」
申し訳なさそうにデルがいつもよりもトーンダウンした感じで話しかけてきた。
「お、怒らないの?」
「怒ったところで状況は変わらないだろ。そもそも近道の最中にデカい虫に追い立てられただけで近道を使わない意味が分かったんだ。今後はそういう横着を止めればいいさ」
「あ、う、うん……」
近道を提案したデルは責任を感じているようだった。
今の外見と同じくらい若かったときであれば怒っていたかもしれない。だが中身は倍以上の年齢のおっさんである。
人の失敗に怒ったところで問題は解決しないし、怒った側も少し時間が経つと凹むこともある。
それに今は目的が合っても納期なんてないし焦る必要はない。
これが心の余裕やつなんだろう。本当に大事なんだなと改めて実感していた。
「下手に動いても疲れるだけだしな。とりあえず“サーチ”」
えーっと、ここで虫を対象にしたら大変な事になりそうだな。
まあいいや半径5km大きな虫と……。
【巨大昆虫:反応多数】
じゃ、じゃあ2m以上の虫。
【2m以上の昆虫:反応多数】
マジかよ!?
「ダメだな、あの虫の名前って知ってる?」
「虫の名前なんて知らないわよ……見たくもないし」
「申し訳ありません、わたくしも虫はあまり……」
「まあ、そうだよね」
嫌いな人にとってムカデもクモもカマキリも全て同じ“虫”でしかない。
反応多数とはいえ、2m以上のは500m以内にいないみたいだから大丈夫か。
「こういうときのためのシェルターだしな、それじゃあ扉を開こう」
500円玉よりも少し大きなコイン状の金属を握って“展開”と一言。
15MPが消費され、それを地面に置くと大きくなって潜水艦のハッチみたいなものに形が変わった。
取っ手が付いているのでそれを開くと地下に向かって穴が開きハシゴが掛けられている。
前時代人が造った緊急避難用のシェルターとのこと。
紋様族が住むドームの地下を調べている間に見つけたものの一つだった。
扉は転移装置で、この地下は世界の何処かに存在しているようで異世界とかではない。
扉を開く度に結構なMPを要求されるため、今のところ俺とセレーネしか使えない。
デルの場合与えたMPを一気に使うという弊害があり、アイテムなどもどうなるか分からないので今のところ使わせないようにしている。
シェルターの中はおおよそ10畳程度の広さがあり、簡易キッチンやトイレとシャワーが備え付けてある。素晴らしい造りだった。
しかもトイレは水洗であり形状は洋式トイレに近いが石造りで角張っていてお高い椅子のように見える。
シャワーの方は最初滝にしか見えず水道かと思ったが、温かいことが分かりそれで存在の意味が分かった。他にもキッチンのようなモノが付いているがこちらは壊れているらしく今は物置場として使っている。
俺が持っているコットと同じようなベッドが二つ置いてあるが、幅は狭いので寝るのに慣れが必要なのが難点であるが、それでも森の中で地面に野営することを考えたら十分上等な部類だけどな。
何より魔物などに襲われる心配も無いのでゆっくり眠れる。
街に着いたら、シャルター内に必要な物を色々と買いそろえるつもりだ。
っと、のんびりしている場合じゃなかった。
俺は腰に付いている雑嚢を開くと中に手を突っ込んで調理器具を取り出す。
水が入った樽も出す。
出す瞬間は軽いのだが、取り出した瞬間重くなる。
20Lほど入るらしいが俺1人では満タンにすると重すぎるので中身は半分くらいが限界である。里で汲んで魔法で浄化した大変綺麗な水である。
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