第三話

新たな勇者?

新たな勇者?

「きゃいん、きゃいん!!」


「ぐるるるる……ぐおぉぉ!!」


「ぶひぶひっ!」


「うおーんっ!」


 森の中に魔物達の叫び声が響いていた。


「はあ……」


 そんな危険な空気の中で適当な倒木に座りながらため息を漏らす男が1人。


 彼の周りにはその魔物達が闊歩していた。

 ゴブリンにコボルド、直ぐ側にはオークにノール、更にはトロルまで、まさにファンタジー世界でよく見る魔物達ばかり。

 ある一人の人間を中心に彼らは好き勝手振る舞っていた。


 そうこれらの魔物達を束ねているのは他ならため息を漏らしている彼だった。


 ある方法で手勢として増やしたはいいが、どういうわけか魔物ばかりだった。

 彼らはとにかく頭が悪く身勝手であり、そしてなによりも……。


「臭い……臭すぎる……」


 彼の周囲には常にキツい悪臭がしていた。

 魔物達はどうやら自身の臭いに全く頓着がなく、ところ構わず汚物を垂らすのでそれも相まって酷い臭いが寝ても覚めてもずっとついて回っていた。


 この手の臭いはいずれ慣れると聞いたことはあったが、彼が神経質だからなのか何日経ってもその様な兆しはなかった。

 今は森の中の適当な広場でキャンプを張っていた。


「はぁ……」


 数分に一度のため息を繰り返してしまう。


「グフ……」


「わふ? ふぎゃ!」


 彼の後ろに座っていたトロルが近くに居たコボルドを掴み上げると、そのままバキバキと音を立てながらクチャクチャと口を動かして食べた。


「……ああもう」


 目の前で起こった衝撃の出来事に彼は深いため息でウンザリとした気分で見ていた。

 周りの魔物達は、仲間が食べられているのにもかかわらずゴブリンや同族であるはずのコボルドまで指を差してケタケタと笑っている。


 どうやら魔物達にはこの光景が面白い出来事に見えるらしい。


「全く、理解出来ないよ」


 なんで彼らは身内が喰われているのに笑っていられるんだろう。

 彼らの行動はどうにも理解に苦しむものが多かった。


 それを観て興奮したのか交尾を始めるコボルドまで現れる始末。

 その直ぐ近くで、談笑をしなながら誰の目も憚らずに糞尿を垂れるゴブリン。

 トロルが食べ散らかした肉片を拾って食べているヤツもいる。


「もう嫌だ……」


 自分が求めていたモノはこんなものではなかったと目の前が真っ暗になっていく。


 こんな世界に来なければよかった。まさに後悔先に立たずとはこのことだ。


 勇者として異世界に飛ばされてきたが、自信がないので最初こそは断ったが老神が異世界勇者はモテると知らされ、ついガラにもなく魔王を倒そうとこの世界に降りてきてしまったのだった。


 確かにある意味モテているのかもしれない。

 だがこれは自分が望んだものじゃない。


「……でも」


 彼は虚弱で根暗のオタク趣味なうえコミュ障である。

 人一倍、異性に興味があるくせに対人恐怖症でまともに話が出来ない。


「これじゃネトゲと同じだよ」


 ネットを介したゲームですらコミュニケーションが取れずソロプレイヤーになっていたほどである。そのためこの世界に降りてきたはいいが結局他人と上手くパーティが組めずにソロで魔物狩りを細々としていた。


 更にどういうわけか彼の持つ神から授かった伝説の武器は自身の筋力不足から満足に使うことが出来ず、初級クラスの魔物を倒すにも苦労していた。

 何時までもなかなかレベルが上がらず、筋力ステータスも必要分まで辿り着かず、やる気を失っていく。


 そんな負のスパイラルの中で彼の運の悪さは止まらない。いつものように初心者用の森で狩りをしていたところに不運なことに魔王軍の部隊と遭遇してしまいあっさりと捕まってしまったのだ。


 そのまま檻に入れられて魔王城に送られそうになったところ、いよいよかと諦めていたところに突如空から何かが落ちてきた。

 悪運だけはあったらしく、それがその部隊のトップに当たって吹っ飛ばされたことで現場は大混乱となり、彼はこれ幸いと逃げ出すことに成功したのだった。


「……本当に運が良いのか悪いのか……」


 最悪の事態になったが、最悪の結果は避けられた。

 それどころか、そのときにあるモノを見つけ手に入れることが出来た。


 それを手にしてもう一度よく見る。まるで昭和のSFに出てきそうなクラシカルな形をした光線銃だった。


「そう……これさえあれば、俺も……」


 やっと巡ってきたチャンスだと彼は感じるのだった。


「ふふん、ふ~んっ♪ 大将! もう少しで出来上がりやすから!」


「……え、あ……う、うん」


 ちょっと格好付けてモノローグに浸っていたのにいきなり現実に戻されてしまう。

 彼の直ぐ側で、何故か豚……いや、オークが謎の鼻歌を鳴らしながら簡易的なかまどで料理を手際よく作っていた。


 ま、まあいい……。そう、この銃さえ有れば……俺にも……。


「ふごー……! ふごー……!」


 モノローグを再スタートしようとした瞬間、今度は彼の脚元では犬、いやノールが横になっていグーグーと高いびきをかいていた。


「……お前らは」


 さすがに頭にきて怒り出したかったが、コミュ障の彼はそんな魔物相手にすら声を荒げることも出来ず、ボソボソと聞こえないように言うのが精一杯だった。

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