タイマン勝負<Ⅱ>

 俺は止めるべきかと副長さんを見るが彼は特にどうという顔はしていなかった。

 そ、そうか、これはスポーツじゃなくて決闘なのか。どちらかが負けを認めるか死ぬまで続く。

 この程度じゃ止めることはないんだな。


「ぐあっ! ひっあ! ああ! も、もう、ふごっ!」


 それでも一方的にボコボコにされていく魔法使いの勇者を見るのは少し辛かった。

 うわぁ、痛そうだなぁ……、そうか、デルを本気で怒らせたらこんなことになるのか。マジで気をつけないと……。


「……や、止め! ぐっ……止めてくれ!」


 とうとう魔法使いが降参をするかのようにバタバタと手を交差するように動かした。

 それでデルは殴るのを止めた。


「も、もう勘弁してくれ……」


 泣き言を言いながら、デルの攻撃が止まった隙を突いてポケットから何かを取りだして投げた。

 なんだ?


 投げたそれは、光り始め直ぐに大きくなる。


「スケルトン!? デル危ないっ!」


 俺は思わず叫んでしまう。


「な!?」


 長剣と丸い盾に兜を被ったスケルトンらしきそれは件を振り下ろす。

 俺の声に気がついたのかデルは直ぐさまマウントを止め後ろに飛び退き攻撃を避けた。


「こ、この……」


「ぺ……、ふ……」


 あれは卑怯じゃないのか!?

 さすがの副長も腕を組み考えている様子だが、一応その場に留まって黙っていた。


「ふっ、これは自分のアイテムですから問題はありませんよね?」


「大ありよ! 全然一対一じゃないじゃない!」


「いけっ! ボーンゴーレム!」


 どうやらアンデッドのスケルトンではなくゴーレムの一種らしい。

 デルに向かって剣を構えて歩き始める。


 しかし足場が悪いからなのか、ボーンゴーレムの動きは悪く脚を岩の岩の間に挟んだりしてなかなか思うように動けていない。


「ちっ……」


 吐き捨てるようにする魔法使いだが、既に顔は何度も殴られ変形しており、落書きの文字が読めないくらいになっていてなんとも締まりがなかった。


 ちなみにこの世界の文字で書かれているらしいが、俺には日本語にしか見えない。

 どうやら文字にも翻訳機能が付いていることが分かった。


 魔法使いはデルの動きに合わせてボーンゴーレムを盾にして接近戦にならないように距離を取る。


「少々油断しましたが……」


「“スリープ”!」


 魔法使いの顔辺りに靄のようなモノが現れる。


「わっ!?」


 驚きの声を上げるが、それは何事もなく霧散していく。


「バカが! その様なしょぼい魔法など効かないと言っているだろ!」


 その割に驚いていたみたいだけど。


「やれやれ舐められたものです。この杖がある限りその様な魔法は一切効かないのですよ!」


 ボコボコにされた顔で何を言ってもちょっと格好悪く見えるのだが。

 魔法使いの言葉に全く何も返さないデルは、ボーンゴーレムを避けようと横に走って接近しようとする。

 だが逆方向に動いて接近させないようにする魔法使い。


「“スネア”!」


 デルは杖に入っていた魔法を使った。

 魔法使いの足元に小さな落とし穴が発生すると、それに足元を取られ転びそうになるがギリギリ持ちこたえた。


「ふう、危ない危ない……」


 ぶんっ!


 魔法を使ったことでほんの一瞬の隙が生まれ、ボーンゴーレムが攻撃をしてきた。


「痛っ……」


 避けきれなかったデルの細い腕に赤い線が走り、その衝撃で杖を落としてしまう。


 慌てて大きく下がって傷口を手で押さえるがその手から一筋の血が滴った。


「ふう、これでやっと戦いやすくなった」


 それまでビクビクしながらボーンゴーレムの背後に隠れていたが、やっと前に出て来た。


「ヴェンデルっ! 負けないで!!」


「ガンバレ!」


 デルを応援する紋様族の人達の声が響く。


「そんなの負けるなっ!」


「イケるイケる!」


 魔法使いが杖を構えた。

 くそ……どうする?


「“ファイアボール”!」


 炎の玉が現れると、それはデルに目掛けて……。

 いかない!? それは谷の上にいるデルを応援していた紋様族達のところに飛んでいき破裂する。


「な!?」


 どごんっ!!


 大きな衝撃音と暴れる炎。


「おっと……これは自分としたことが外してしまったようだ」


 デルはそれを驚いた顔でそれを見ている。


「……こ、この野郎」


「どうかなさいましたか?」


「ふざけるな! この糞野郎! ぶっ殺してやる!」


 怒りに激しく吠えるデル。だが何か違和感を感じる。


「はっ! 自分をでありますか? たかが経験値の分際で殺すと? ははっ! そんなショボい魔術どうするというのです?」


「どうやろうと絶対に殺す! 殺してやる!」


 なんだ……紋様の色が……全く変わっていない。

 むしゃらに走り回るデルだが、魔法使いは直ぐにボーンゴーレムの背後に回ってしまう。


「殺す! 殺す!」


「おお、怖い怖い。さあどうするのです?」


 魔法使いはなかなかデルに攻撃をしようとしない。おそらくデルが疲れるのを待っていたぶるつもりだろう。

 やはり……止めるべきか?


 だが、一見自暴自棄になっているかのようなデルだが、何か様子がおかしい。


「ほら! 来てみろ! ほら、ほらっ!」


 ボーンゴーレムを盾にして、左右に動き回っている魔法使い。

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