タイマン勝負<Ⅲ>
「おっと!?」
足場の悪い場所なので間欠泉などで濡れた岩に足を取られて滑る魔法使い。しかし転ぶまでは至らなかった。
「ちっ……ここは足場が悪い……え?」
岩と岩の隙間に脚が滑り込んではまったのか動けなくなっていた。
「く、くそ! ストーンゴーレム!」
「今だっ! “ストーンピラー”!」
紋様が一際強く輝くとデルは地面に手を置いた。
「ばかめ! そんな魔法に何の意味が……って、うわぁっ!?」
いきなり魔法使いの周辺が隆起すると石の柱となって一気に伸びた。
「あ、脚が! しまっ! 何故だ!? 魔法防御が……!」
魔法使いは逃れようとするが脚を挟まって動けず、そのまま柱と共に上がっていく。
ああそうかっ、デルは杖から出した魔法……物理攻撃、睡眠攻撃、補助攻撃とどれが効くのかを調べていたのか。
物理と睡眠は効かなかったが落とし穴は効果があったから、今度は石の柱で一気に高いところに上げて動きを封じたのか。
落ちないように必死でしがみついている魔法使い。
そして石の柱は10mくらいまで伸びたところで止まった。
柱はそこまで太くなく、ちゃんとしがみついていないと落ちてしまいそうだった。
凄え奴だな……魔法の使い方というものがよく分かっている。MPが少ない彼女はそれだけ様々な創意工夫を繰り返していたのだろう。
攻撃魔法一辺倒で切り替えるだけでももたついた魔法使いの勇者とはえらい違いだ。
だが石の柱はそれでは終わらず、まるで暴走したかのようにいくつもがデルの周囲に生え続ける。
しかも垂直だけでなく斜めにも生えて、このままだとデルにまで当たりそうでかなり危険を感じる。
「もう大丈夫だ! 止めろって!」
大声で言うが、デルは必死の形相だった。
もしかして……止められないのか? だったら俺が魔導柱を落としてしまうしかない。
「“サーチ”! 周囲のあらゆる生物1万MP分!」
使って直ぐさま落とせるわけではない。俺は決闘など構わずデルの元に走り始めた。
デルの足元がグニャグニャと歪み始め柱がそこから生えた。
デルは身動きが取れないのか柱と共に上がって行ってしまう。
よりにもよってそれは斜めに生えていき、彼女の身体が徐々にずれていく。
「くそっ!」
身軽な紋様族でもこんな硬い岩場で10mの高さから落ちたら深刻なダメージを負うだろう。
「ダメだったか……あれ?」
と思ったら柱は2mも伸びずに止まってしまう。そこで気を緩めたデルは脚を滑らせるのだった。
なんとか魔導柱を落とすのが間に合ったらしい。
「わ、わわわ!?」
そしてそのまま柱から落下する。
「危ないっ!」
ギリギリのところで彼女をキャッチ出来た。
「……おお、すげえ」
驚きの声を上げるデル。
「ったく、危ねえなぁ」
「ご、ごめん……、もしかして魔導柱を落としたの?」
「そうだよ」
「だからか……途中で全部止まったのは、おかげで助かった」
抱え上げられたまま、少し恥ずかしそうに素直に謝った。
なんだ……少しは、可愛いじゃないか。
「……ったく、それにしてもなんだこれ。神殿とか造れそうな数の柱だな」
「ふう……ぐっ……」
俺の腕の中で魔法が終わったデルは直ぐに苦しそうに呻き声を上げる。
「大丈夫か?」
「ぐっ……、ま、まあ……慣れないけど……って、後ろ! 危ない!」
デルの言葉に振り向くといつの間にか直ぐ目の前に骨のゴーレムが剣を振り上げて立っていた。
こいつ、いつの間に……。
どうしてこういつもこんな感じになるんだよ!?
「くそっ!」
俺は彼女を庇うように強く抱きしめて背を向ける。
ずしゃ!
からんからんと軽い音がする。
「え……」
「あ、あれ!?」
目を開けると足元に骨が転がり煙になって消えていく。
そしてゴーレムがいたところに長剣を手にした副長さんが立っていた。
副長さんがボーンゴーレムをぶった切ったのだった。
「ど、どうして!」
最初に言葉を放ったのは魔法使い。味方のはずの副長が自分のボーンゴーレムを斬ったことが信じられないという声だった。
「もう既に二度決着が付いています」
「ふざけるな!」
「ふざけるな? ふざけているのは貴方の方でしょう。既に戦いが決していたところに、この様なモノを出して無様もいいところです」
「騙されるのが悪いんだろう! そんな経験値に荷担するのかよ!」
「だまらっしゃい! いくら勇者とて決闘を挑んでおいて最低限のルールも守れない貴方に何か言う資格がありましょう! もしこれで勝ったと言うのであれば見届けた私も末代まで笑われてしまいます!」
「んだとこら! NPCの分際でプレイヤーに何様だ!」
此奴の認識だと未だに、デルは経験値を吐き出すモンスターで副長達はただのNPCなのか。
これだけリアルに動いているのに偽物だと本当に思えっているのか。
「我らにもプライドはあるのです。ただ勝てばいいというわけではない。この件はポータルにもしっかりと報告し抗議するつもりです!」
おおう……。さすが格好良いぜ。無精髭だけど。
「お前ら……全員殺してやるからなっ!」
細い柱の上で吠えているが、しがみつくのに精一杯で魔法など使える状態ではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます