結局進軍
結局進軍<Ⅰ>
次の日の朝早くに進軍が開始された。
昨夜は魔物などの襲撃はなかったので静かな夜だった。
2時間ほど歩くと森が開け岩が露出している例の場所近くに辿り着き、ここで今後の方針を話し合うと同時に休憩に入ることになった。
俺の方はサーチで見つけられないと話をしたら軍監が役に立たない人間を軍議に入れるなとのことで兵士達と同じく普通に休憩をしていた。
そろそろ昼飯の時間なので兵士達が料理を始めていた。
この世界って早めの昼と夕方の2食だけで、特に昼はがっつり食べるので兵士達にとって数少ない一つの楽しみである。
俺も日本にいた頃から、忙しいと朝を抜くのが日常だったのでこのサイクルは意外と問題がなかった。
だが夕方というか夜ご飯は簡単な食事というのにまだ身体があんまり慣れておらず、夜中に目を覚ましたりする。
セレーネが芋料理と豆スープに硬いパンをもらってきてくれ、それを受け取る。
うむ、いつもながら抹茶色一辺倒だな。
現代の料理が如何に見た目を気にしているのかがよく分かるな。
それでもドガ砦の料理よりも豪華ではあるのだが。
この国では野菜は生で食べることはないし肉らしいものは思いの外少ない。
そしてなにより温かい料理は期待出来ない。寒いので出来れば温かいといいのだが……。
だが味そのものはそんなに悪くはない。意外と出汁っぽいのは利いているし、塩加減も良い感じである。
「でも……パンが硬いのは変わらないんだよな」
「場所が場所ですから仕方ありませんね」
「まあ、そうなんだけど」
「やはり肉は高いのだろうか」
スープの中に入っている申し訳程度のソーセージを切ったと思われる存在をスプーンで掬う。
「そうですね。お肉は特別なときにしか食べられませんので」
「そっかー……あれ? なんか向こうの方で光が……」
ひゅんっ! ひゅんっ! ぼんっ! ぼんっ!
「え? うわ!?」
遠くの方で何かが光ったのが見えたと思ったら、それは高速で飛んでいき荷馬車などに当たって小さな爆発が起きた。
最初は二つだけだったが、数瞬の後に次々と飛んで来ては破裂する。威力は打ち上げ花火を強くした程度で近くに居た兵士が被害を受けている様子はない。
「荷駄が燃える! 早く火を消せ!」
馬車に破裂した火花が燃え移り、兵士達が慌てて火を消し始める。
「……い、今のは一体?」
「“ファイアーショット”の魔法です! 危険ですから下がってください!」
「いや大丈夫、この魔法は人間を狙っていないから」
「え? あれ……あっ!?」
周りを見渡すセレーネ。
飛んで来た10以上の炎の魔法は全て人間には当たらず、荷馬車や積み卸していた荷物などに当たっていただけだった。
「ひぃいいい!! わ、わたしの、わたしの馬車がぁ!!」
あらら、どうやら軍監専用の馬車も燃えたらしい。
「そんな馬車よりも、わたしの馬車の火を消すのが先です!」
などと必死で言っているが、混乱した現場では誰も取り合ってくれない。
そもそも彼らにとって最も大事なのは自分達が食べるための食糧なのだから。
俺は飛んで来た方を必死で凝視する。
遠くの方でおそらく100mはない距離に赤系の輝いている頭部が確認出来た。
やはり紋様族か……。
驚くべきことに彼らの方から奇襲をしかけてきた。
「思っていたよりも戦いそのものは否定しないみたいですね」
セレーネが俺を守るように立つ。
「いや、なかなかいい判断が出来ているみたいだと思うよ」
なかなかの手際だなと何故か感心をしてしまう。
彼らは弓などの飛び道具でなく炎の魔法を使って確実に当てたい場所に当ててきた。人を狙わず、荷の方を確実に当てて燃やしていくことで兵士達は攻めることよりも火を消す方に専念をせざるを得なくなる。
「敵か! 経験値いただきっ!」
そんな中で、全く被害を気にしないのが二人いた。
勇者佐藤君と無口な魔術師が飛び出して行く。
「お、おいっ! 無茶するなって!」
「うるせえっ! お前なんかに経験値はやらん!」
佐藤君は俺の制止など気にもとめずに走って行く。そしてその後ろに黙って付いてく魔術師。
「行ってしまった……」
「勇者様!」
確かに紋様族が心配だ。
「しょうがない……、追いかけよう!」
「“ストーンブラスト”!」
「バカめっ! 私に魔法は通じない!」
「そんな程度の魔法が効くわけないだろ!」
勇者二人が接近すると紋様族の少女は昨日と同じく目眩ましの魔法を使って、大きな砂埃が発生して視界が遮られてた。
「なにっ!?」
「ひっ!」
攻撃魔法だと思っていた二人は虚を突かれたのか驚きの声が聞こえる。
砂埃は彼らを完全に包み隠してしまい俺達からも見えなくなった。
「こんのやろう!!」
佐藤君は大声を上げ、びゅんびゅんと何度も剣を振り回す音がした。
「あ、危ない。こっちに当たったらどうするんだ!」
「うるせえ!! この! この! このぉ!!」
砂埃の中から攻撃でもされるのかと思ったのか二人の必死な声が聞こえる。
紋様族の子達はその様子を岩の上から見ている。
遠いのであまりよく見えていないが、まるで子供が喜んでいるように見える。
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