そして現場へ<Ⅱ>

「ぎゃいんっ!!」


 副長の鋭い一撃が胸に深々と突き刺さり、ノールは悲鳴を上げて力なくその場に倒れる。


「これで最後か……」


 戦いは意外とあっさり終わった。

 副長さん達は、ノール4体相手に無傷で勝利した。


 なかなかの手練れで派手さはないが陣形を固め攻撃を受け流した後反撃で確実に相手の急所を攻撃していた。

 いやむしろ、これが正しいくて佐藤君やヘルナイトがおかしいのか。


『な、なぜ……、ヘルナイト、裏切った……』


 死の間際でノールはそう呟いていた。


「おい、ヘルナイトに裏切られたってどういうことなんだ?」


『……い、なくなった』


「危ないですから近づきすぎないでください」


 副長に肩を掴まれながらも何とか情報を得ようとしたが、ノールはそれ以上話すことはなかった。というか事切れていた。

 魔物といえど、こうやって強い者達に振り回されて死んでいくのは少しばかり可哀想に見えた。


 まあなんだ。お前達魔物の神とはどういうものか知らないけど、無事に神の元に行けることを願っているよ。


「……勇者殿?」


「あ、ごめん」


 思わず祈っていた。


「勇者様はとうとう魔物にまで、そういう気持ちを持ってしまうのですね」


「分かるのか……まあ、理由とかはどうあれ一応彼らも一つの命だと思うからさ……」


「ですが魔物とは邪悪な存在であって魂は救われないと言われておりますぞ」


「俺にはそういう難しい話は分からないけど、それでも出来れば死後に救われるといいなと思ってさ」


 副長以下、兵士達は目を白黒させて俺を見ている。


「え、俺何か変なことを言った?」


「いえ……非常に珍しい方だなと思っただけです。ですがその考え方、我々現場はともかく、教会のお偉い様に知られたら問題にされるかもしれません」


 剣を仕舞いながら副長はそういった。


「そうですね確かに非常に危険です。ですからあまり人前では見せてはいけません」


「え、えーっと……」


「どうかなさいましたか?」


 不思議そうな顔をしているセレーネ。


「いや君はその教会のお偉いさんじゃないのかね」


「わたくしは勇者様の考え方が嫌いではありません。汚れた魂が絶対に浄化出来ないなんて今は思っておりませんから」


「え、そうなの?」


「汚れた魂を浄化した張本人が何を仰っているんですか」


 浄化って……、あああのアンデッド達のことか。

 確かに浄化したかのように消えていったもんな。


 実際のところは浄化とは違うんだけど……。

 そう彼女に説明をしたとしても、きっとそうだとしても救われるものはあると言うんだろうな。


「もしかしたら勇者様の祈りなら効果があるかもしれませんね」


 いや、それはない。


「ひゃあぁいああ!!」


 などと心で突っ込んでいたら、遠くの方で甲高い悲鳴が聞こえた。

 敵前逃亡した軍監だろう。声からしてどんだけ遠くに逃げたんだよ。


「た、た、助け……ひいぃ!!」


 最初は転んだのかと思ったが、どうやら様子が違うっぽい。

 慌てて副長達は走り出す。俺やセレーネも付いていく。



・軍監の危機?


 ほんの少し前、ノールと戦っているとき彼は一人森の中を奔っていた。


「はぁはぁ……はぁ……、じょ、冗談ではありません……あ、あんなモンスター……はぁはぁ……」


 敵を前にして逃亡をした軍監は息の続く限り走り続け、やがて森が切れて岩が多く露出する場所に出た。


「……こ、ここは……、はぁはぁ……」


 ここまで来ればと一旦脚を止め呼吸を整え出す。


「聞いていた話と違うでは……ありませんか……はぁはぁ……」


 もっと簡単な話だったはずなのに、亜人共の巣を潰すだけのはずだったのに、まさか本物の魔王軍が出るなんて……。

 こちらは念を入れて大枚はたいて勇者を二人も用意したというのに思った以上に役立たずだし。


 ちょろちょろちょろ……。


「おお……これは天の恵み……」


 一際大きな岩の隙間から透明な水が涌きだしていた。

 慌てて手で水を掬い、それを飲もうと……。


「それ毒だから飲んじゃダメだよ」


「へ?」


 水を飲もうとしたら水が湧き出す岩の上から子供の声が聞こえ、目線をそちらに向ける。

 そこには10~12歳くらいの女の子だろうか。何故この様なところにと一瞬思ったが、相手は刃物のようなものを持ち、手や脚にアザ……いやあれはもしや紋様……?


「も、も紋様族!?」


 こ、殺される!!


「ひゃあぁいああ!!」


 悲鳴を上げて逃げようとするが腰が抜けて、その場に尻餅をついてしまう。

 一人かと思ったら、岩場から数名が顔を出してきた。


「た、た、助け……ひいぃ!!」


「うわっ、超失礼だなぁ……せっかく水飲んじゃダメって教えてあげたのに」


「や、やめ……」


 気が動転しているのか、話を聞いていない軍監。そのまま這々の体で逃げ出そうとする。


「痛っ!!」


 逃げだそうとしたが、脚に強い痛みが走り動けなかった。


「大丈夫?」


 最初に声をかけてきた少女が岩から飛び降りてきた。


「や、やめ! こ、殺さないで……」


「え? 殺さないってば」


「軍監殿!」


 副長の声が聞こえると、軍監ははっとなった。


「た、助けてくれぇ!」

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