そして現場へ
そして現場へ<Ⅰ>
「この辺りですか……」
陣地を出て徒歩でおおよそ1時間ほどの距離。
道中、面白いほど分かりやすい大きな足跡があったので迷うこともなかった。
これだけの足跡が出来るって、どんだけ重いんだ?
そりゃスレイプニルも騎乗拒否をしたがるわけだ。
「ヘルナイト達の反応が無くなったのはこの辺りなんだけど」
辿り着いた場所は森が少し開けて広場みたいになっていた。
「確かに勇者殿の言うとおり何かがいた痕跡はあるな……」
副長さんと彼直属の兵士が周囲を注意深く調べている。
それ以外には俺とセレーネ、そして軍監が来ていた。
「毛に……糞……、そして食い散らかした後……、これは蹄の跡……」
ここまでの道中、ずっとサーチで魔物や化け物の類を調べながらここまで来た。
残党と思われる数体のノールとコボルドの反応があったが、運が良かったのか遭遇することはなかった。
俺もコンソールを出して痕跡がないか調べるがそれらしきものは見つからなかった。
「勇者殿、やはり夜襲に現れた魔王軍がここにいたようですな」
「そうですか」
「しかし長く滞在していた様子はありません。ここではない場所に拠点があるのかもしれません」
「ほら見なさい! やはりこの奥の亜人共がかくまっているのですよ!」
軍監さんは道中ずっとビクビクしながらここまで来ていた。
今でもさっさと終わらせて早く帰りたがっている。
「しかし、これだけの足跡がここで途絶えて何処かに移動した様子がないのは実に不可解ですな」
軍監の言葉を無視して副長さんは周囲を見回しながら、少し困った顔で俺に言う。
「そうなると、何かしらの魔法などで瞬時に移動したってことかな」
「あれだけの数を移動させたというのはにわかには信じられませんが、魔王軍の力ならそういうことが出来るのかもしれませんな」
「セレーネは何か分かる?」
セレーネも周囲をキョロキョロと見渡していた。
「わたくしも現状だと勇者様の意見が一番合っていると思います」
「だよな……あれ?」
サーチに反応が出た。
「どうなさいました?」
「ここから、森の奥にノールの反応があった……数は4体」
なんでこんな近くまで反応がなかったんだ?
洞窟にでも入っていたのか。
「その数なら問題ないでしょう。何か手がかりがあるかもしれませんし行ってみてはどうでしょうか」
まじか……。
出来れば、魔物とは出会いたくないんだけどなぁ。
「あっちの方角だけど大丈夫なの?」
「我らが前に行きますので後ろから付いてきてください。音は極力出さないようにお願いします」
「わ、わたしは嫌ですよ! 冗談ではありません!」
軍監だけは嫌がり行きたくないと言い出した。
この人と意見が一致するのは嫌なんだけど俺も出来れば行きたくない。
「では軍監殿はここで一人お待ちください」
「な!? ひゃあっぁ!」
驚くと変に甲高い声が出るのは何とかならんかな。
耳に響いて嫌なんだけど。
「あまり大きな声を出しますと、魔物を呼ぶことになりますよ?」
「ひゃあ!?」
セレーネの警告に、またも大きな声を上げて驚く軍監。
本当に人の話を聞かない奴だな……。
とりあえず慎重に反応のあった近くまで辿り着くとノール達は予想通り洞窟の入口辺りで何かをしていた。
なるほど距離が遠くなると洞窟の浅い部分でも反応が出づらくなるのか……まあ原理的には合っている気もするのだが、説明書とかがないのは本当に困るな。
「って……何あれ……」
洞窟の入口近くの木に吊されている何かにノール達が噛み付いている。
「あれは……おそらくですがコボルドを吊して食べているのではないかと」
まじかよ……。
説明しているセレーネもあまり気分のいいものではないとあまり見ないようにしている。
ノールの見た目は犬っぽいが、実のところ鼻も耳はそれほど良い方ではないらしい。
実際目視出来るほど近くにいるが全く気づいている様子はない。
「あの吊されたコボルドって昨夜一緒に戦っていた奴らだよね……」
「そうだと思います。あの2種族は元々相容れませんのでヘルナイトというトップがいなくなればこうなるのは当たり前ではないかと……」
「なるほど……って、すげえ食べてるし……うわぁ……」
ダメだ。さすがにエグいエグすぎて見ていられない。
「何時までこの様なところにいなくてはならないのですか!」
ちょ、な!?
少し後ろで待っていたはずの軍監が、遅いからと前にやってきた。
「軍監殿、静かに!」
「わたしに命令をするとは偉くなりまし……って、何を見て……ひゃおうううぅ!!」
この人バカだろ……軍監はノールの食事を見て戦慄して、あの妙に甲高い声で悲鳴を上げやがった。
『なんだ!?』
当然の如くその声にノール達が気付いてこちらを警戒する。
「どうするんだ」
思わず咄嗟に副長に聞く俺。
「逃げるに決まっているでしょう! ひいっぃ!!」
「ノール相手に人間の脚では勝てません。それほど多い数ではありませんからここで迎え撃ちます! お三方は下がって!」
副長達は剣と盾を構えてノール達を迎え撃つ陣形を取った。
「勇者様はわたくしの後ろに!」
「え、いや!? 俺が守られるの?」
セレーネはメイスを出すと、俺の前に守るように立った。
「ひ、ひいぃい!」
軍監は人の話を聞かず、走って逃げていく。
「お、おいっ!」
守ってくれる副長達から逃げてどうするんだよ……。
「いくぞ!」
「はっ!」
だが今は軍監などに構っている暇はなくノールを迎撃するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます