作戦は遂行

作戦は遂行

 朝になると討伐軍の幹部は今後について話し合いを始め、そこには俺とセレーネも呼ばれていた。


「勇者殿があの黒い騎士を追い払ったのだから、ここは一度砦に戻って様子を見るのが正しいのではないか?」


「相手の戦力も分かったことだし、ここは無理をせず迎え撃つ体制を整えるべきでしょうな」


 昨夜のヘルナイトの強さに慎重論が出ていた。

 隊長さんは黙ってそれに耳を傾けていた。


 ちなみに俺はその意見を支持する。相手が分かったのだからさっさと危険な森から出たほうがいい。


「撤退なんて冗談じゃない! やられっぱなしで帰れるか!」


 うるさいなぁ……勇者サトーは昨夜のテンションのまま吠えていた。

 朝になってよく見て分かったが、おそらく中学生かよくて高校生くらいの若いヤツだった。

 魔術師の勇者の方は、それより少し年齢が高く大学生くらいに見える。彼の方は特に興味がないのか黙って状況を見ているだけだった。


「しかし勇者サトー、貴方もそれなりの怪我を負っているではありませんか」


「こんな怪我直ぐに治る!」


「おやおや、勇猛として名の通った我が国の軍とは思えないほど弱気な発言ですな」


 副長さんの言葉に佐藤君(?)が激昂したところで、遅れてきた人物の開口一言がそれだった。

 入ってきた人物は、鎧らしいものは着用しておらず見るからに兵士ではないと分かった。


「これは軍監殿、むさ苦しいところに何かご用でしょうか?」


 軍監? それはお目付役ってところだろうか。


「私抜きで軍議などされては困るのですよ。よろしいですか。私は領主様の代理であり、目と耳となって全てを見聞きしなくてはならないのです」


「お呼びに伺いましたが、軍監殿は眠っていらっしゃったようですので起こしては悪いかと思った次第です」


「ふんっ、口の減らない……」


 副長さんと軍監と呼ばれる男はどうやら反りが合わないらしい。

 軍監て監視役は見て分かるけど戦いにも参加せず偉そうだから気に入らないんだろう。


 実際ここにいる兵士達はみな行軍や戦いで色々と汚れているが、軍監と呼ばれる男はシミ一つない綺麗な衣服を身に着けており一切の戦いに参加してないのがよく分かる。


「まだ我らは魔王軍の拠点を見つけたわけではありません。少なくともそれくらいはしないと国に戻ることはかないませんぞ」


 結構な無茶を言うなこいつ。

 拠点ねぇ……。


「あー、それなんだけどさ」


「貴方は誰です? ここは貴方のような小間使いがいていい場所ではありませんよ」


 なっ……、小間使い扱いされてしまった……。


「そのお方は昨夜魔王軍の奇襲から助力してくれた勇者殿ですぞ」


「こんなのが? ふっ……いや失礼。あまりそう見えなくて、つい聖女様の小間使いと間違えてしまいました」


 なんか失礼なヤツだな……。

 横でセレーネが怒り出しそうだったが彼女の手を握って制した。


「俺の方で、あのヘルナイトを“サーチ”でずっと追っていたんだけど」


「なに、なんだその魔法?」


 魔術師が驚いていた。

 まじか、“サーチ”の使い方はよく分かっていないらしい。

 魔術師のくせにと思ったが、どうせ攻撃系ばかりで探索系が疎かになっているんだろう。


「ある場所で一緒にいたノールやコボルドと共々反応が消えたんだ」


「勇者殿、それはどういう意味なのでしょうか」


 副長さんが興味を持って俺に聞いてきた。


「詳しいことはよく分からないけど、消えた場所に行けば何か分かるかもしれない」


「ならば全軍でそこに向かうべきでしょうか」


「俺の考えとしては、距離にしても数kmだし大人数で動いても目立つだけだし腕のいいを集めて少数で見に行く方が良いんじゃないかと思う」


「なるほど、他でもない魔王軍を撃退した勇者殿の案だ。その場所に行って調べるのもいいかもしれないな」


 それまで黙っていた隊長は俺の話に同調してくれた。


「そのような話どうでもいいではありませんか。そんな魔法が必ずしも正しいとは限りませんし当初の予定通り、森の奥の怪しい亜人共の巣に向かうべきです」


「そうだ! 偵察なんぞじゃ経験値が稼げない! それじゃあここまで来た意味がない!」


 軍監とヘルナイトに二度も負けた佐藤君だけが反対した。


「では軍監殿は、魔王軍を放置しておけというのですか?」


「そ、それは……」


「魔王軍に協力しているかが定かでない件の亜人達か。魔王軍そのものか。どちらが重要かはお分かりでしょう」


「ぐ……、ならばさっさと行ってくればいいではありませんか」


「何を仰います。全てを見聞きして領主様にご報告するのがお役目なのでしょう? 当然軍監殿も同行していただきます」


「ひゃあ!?」


「よろしいですね? それともお役目を放棄なさいますか」


 副長さんの言葉に軍監殿は妙に甲高い声を上げた。

 確かに入って来て早々偉そうにそう言ってた手前、否定も出来ず顔を真っ青にさせていた。

 そもそも自分で戦えず守ってもらう立場のくせに偉そうにしているからそうなるんだよ。


「それでは、お二方も同行願えますか?」


「ふざけんな! 経験値が入らないようなことするかよ!」


 佐藤君は経験値が入らないことはしたがらないらしい。


「それって自分がする必要ありますか?」


 それまで黙っていた魔術師の一言も凄かった。

 まさに平成生まれの言葉って感じで驚いた。


「はぁ、俺が同行するよ。戦うのは無理だけどモンスターが近づいたりしたら分かるから」


「もちろんわたくしも同行します」


 当然とばかりにセレーネも同行すると言い出した。


「それはありがたい。この森ではどこから敵が現れるか分かりませんからな」


「では今から1時間後に出発しましょう」

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