再会<Ⅲ>

「も、申し訳ありません……久しぶりでつい感極まってしまい……」


 お互いの口元が互いの唾液でベタベタになってタオルのような布で拭きながらセレーネは謝った。


「あ、ああ、うん……いや、俺も人の温もりが懐かしかったから」


 確かに驚きはしたが、それ以上に人の温もりに俺も嬉しかった。


「天界とはどのような場所なのでしょうか?」


 あそこを天界と言っていいのだろうか。

 説明が難しい。


「多分俺が居た場所は神様や天使が普段いる場所ではないんじゃないかな。空も床も真っ白な空間がずーっと続く殺風景なところだったから」


「女神様や天使はいないのですか?」


「呼べば来てくれるけど普段はいないんだ」


「その話を聞いている限りだと、なんだかとても寂しそうな場所ですね」


「仕方がないって本来人が踏みいる場所じゃないんだ。たまたま俺が特殊な能力を持っていたから例外的に呼ばれたのだし」


 話し相手といえば無機質になってしまったリトルグレイと女神くらいしかいなかったし。

 それに話す内容も、業務的なことばかりで日常会話もほとんどなかったしね。


「では勇者様のおかげで未然に女神様の危機を回避出来たのですよね」


「そこまで大袈裟なものじゃないよ」


 何故、あそこまで古いシステムの修復に俺が選ばれたのか。

 もう少し年齢の高い人だったら詳しい人が色々といそうなものだと聞いたら、リトルグレイ曰く、詳しすぎると余計なことをされても困るからとのこと。


 だったら抜本的に作り直せばいいのにと言い返したが、すると予算とか納期とかどこぞと変わらない話をブツブツ言い出したのでそれ以上は止めておいた。


 確かにもう少し詳しかったら余計なコードを入れたりとかしてみたかったけど、俺が出来たのは正常に動かすところまでが限界だった。

 代わりに“コンソール”の詳しい使い方をばっちり憶えられたのは大きな収穫だったけどね。


「あれ……」


「どうかなさいました?」


「いや、サーチで追っていたヘルナイトの反応が消えたんだ」


 コンソールを開いて表示する。


 サーチで5分に一度対象を再感知するマクロを組んであって、ヘルナイトの動向を追っていたがいきなり反応が消えた。


「こ、これは一体……勇者様の能力なのですか?」


「うーんと“サーチ”の魔法の一種なんだよね。この指輪で使えるんだ」


「そうですか……」


 物珍しそうにコンソールを見ているセレーネ。


「これがレーダー画面で、ここについさっきまでヘルナイトの反応があったんだけど消えてしまったんだ」


「その様なことが分かるのですか……なんか凄いです……」


 感心しているセレーネ。


「それではヘルナイトは誰かに倒されたとかそういうことでしょうか」


「確かにそれでも反応は消えるけど、範囲外に一瞬で移動したとか地下深くに潜ったり、魔力のある空間や物体に囲まれた場所などでもこれの範囲外になるんだよね」


「魔物の森には前時代に掘られた洞窟が沢山あるって聞いたことがあります」


「そうなの?」


「ええ、それで魔物が沢山棲み着くような場所になったというのが賢者達の見解です。魔物は洞窟などを住処にするのが好きなようですし」


「なるほど……、でもあのヘルナイトが洞窟深くに入るかな」


 あの大きさで深くまでは入れる洞窟なんてあるのか?


「魔法で隠れてこちらに密かに向かっている可能性は……」


「ああいう騎士然とした連中は、そういうのは好まないと思う。それに向こうの方が強いんだから、そんな姑息な手を使う必要もないだろうし」


「確かにそうですね」


「そういう意味で奇襲はしてこないだろうし今夜はとにかく寝ておこう」


 セレーネと川の字になってテントで寝るが、久々に女の子と身体が当たるほどの狭い空間に眠れるかどうか心配になる。

 まあ予想通り、結局なかなか寝付けずにいたのだった。

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