3ヶ月後<Ⅱ>
「いやっはー!!」
森の中、真っ先に飛び出して行った長剣を持った勇者が犬の頭のような魔物に斬り付けた。
「“サンダーボルト”!」
バチバチバチ!
暗闇の中に迸る青白くスパークが走り、それに触れた数体の魔物が身体を激しく痙攣させ黒焦げにしていく。
「凄っ、凄っ、経験値がいっぱいじゃねーか!!」
経験値に狂った二人の勇者が暴れ回る中、一般の兵士達は勇者と共に森の奥に飛び出さず自分達の野営地で防御陣形を張って構えていた。
派遣された軍の司令官は、出来た人物でここ数日の間にすっかり勇者二人の使い方を憶えたのだった。
勇者達は味方の被害などほとんど気にしない。彼らの興味はただ一つ、敵を倒して経験値を得ることのみ。
ヘタに加勢しようものなら経験値が減るからと怒られかねないので、最前線は二人に任せきりにして自分達は被害を抑えるために少し後方で防御の陣形を取ることに専念していた。
相手の魔物はどちらも犬みたいな頭を持つコボルドとノール。
コボルドは人間の半分くらいの高さで、ノールは人間よりも大きく2mを超える。
どちらも軍隊レベルで言えばさほどの脅威ではないが、ある程度夜目が利くため森で戦うとこちらが不利なる可能性がある。
そして不可解なことに、この二種の魔物は通常共存しない。
「簡素とは言え武器と鎧も装備していますので、おそらく目的の魔王軍だと思われます」
「それでは何処かに指揮をしている存在が居るかもしれませんね」
共存しないはずの種が共に行動をする理由、それはそれを束ねる強い存在がいるということ。
森の奥で勇者の剣と魔法の閃光だけがよく見えるだけで、それらしい相手は確認出来ない。
「勇者様達がボスクラスを倒してくださると助かるのですが、そう簡単にはいかないでしょうな」
むしろ勇者が二人もいることに驚いて本隊は後方に下がってしまったかもしれない。
いずれにせよ、このまましばらく戦闘が収まるまで待っているしかない。
ヒヒーンッ!!
そうやって少しばかり傍観モードに入ろうとしたところで、耳をつんざく嘶きが走った。
「なんだ今のは、馬なのか?!」
「あそこっ!」
森の道、その奥側に蠢く大きな黒い影が見えた。
それはゆっくりとこちらに向かってくる。
森の木が切れ間の月明かりに照らされたその影は、真っ黒な全身鎧を纏った騎士だった。
「なんだあれは……」
その騎士が跨がる黒馬は、通常ではあり得ないほど巨大であり、よく見ると八本脚だった。
それに跨がる者も負けず劣らず体躯を持っていた。剣は普通の人間からすると両手剣のサイズであるが、そいつは片手で軽々と持っていた。
「ボス発見! いただき!」
森の木々から、経験値の匂いを嗅ぎ付けてきたのか剣を持った勇者が出て来た。
勇者は直ぐさま鎧騎士に向かって剣を横に一閃。
「もらった……なにっ!?」
仕留めたと思った瞬間、巨大な馬はその見た目からは想像出来ないほどの高さに飛び上がり斬撃を避けたのだった。
騎士の後ろの巨木が音を立てて倒れていく。
黒い馬は着地と同時に前に跳んで勇者を飛び越えると、勇者の肩から激しく血が噴き出した。
「ぎゃああっ!!」
悲鳴を上げ、慌てて傷口を手で押さえる勇者。
おびただしい量の血が吹き出してながら、力なく倒れていく。
騎士の持っている両手用並の剣にいつの間にか血がたっぷりと付いていた。
飛び越える一瞬であの巨大な剣で勇者を斬ったらしい。
「所詮駆け出しか、他愛のない……」
剣を振って血を払いながら、余裕そうにこちらに向かってくる。
「ば、化け物か」
それを観ていたセレーネや兵士達に戦慄が走る。
あの黒い騎士1人でこちらは全滅するかもしれない……いやする。
「……どうするか」
逃げようにもここは魔物の森、敗走したとしても今度は他の魔物に襲われる可能性が高い。しかし正面から戦えるとはとても思えない。
「だから言ったんですよ! 魔王軍相手にこれだけの軍じゃ勝てないって!」
兵士の1人がそう叫んだ。
「今それを言ったところでどうしようもない」
しかし、黒い騎士はそれ以上近づいてこようとはしない。
何かを待っているのか……。
「もしかしたら話し合いを求めているのかもしれません」
「魔王軍とどのような話があるというのです?」
「分かりませんが……、わたくしが行ってみます」
「え、ちょ!? 聖女様!」
セレーネは陣から出て黒い騎士の前に向かう。
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