そして朝になる<Ⅱ>
「大丈夫っ、勇者様なら直ぐですよ」
ニコニコ笑顔のセレーネ。
何が直ぐなんだよ……ったく。とはいえセレーネには色々と助けられているからいいけどさ。
しかし何なんだろう。おしっこしているところを見られた迷惑料を要求されたのに、同じベッドに半裸で抱きついて寝ているのは何ともないのか。
本当に女心というのは全く分からん。まあ確かに女の子と付き合ったこととかないけど。
日本じゃ生きるのに必死で、そういう余裕もなかったからな。いやモテなかっただけだけど……。
そういう意味で考えたら、こんな綺麗な女の子と旅が出来るのは有りがたい話かもしれない。いや大いに有りだな。おっぱい大きいし。嫌われている感じでもないし。
「でも……ちょっと臭いんだよなぁ」
「な!? も、もう! し、失礼です。失礼ですよ!」
「じゃあさ、まずはそのポータルがあるってところよりも先に風呂のある街に行こうぜ」
「もう……そうしたいです」
「さてと……痛っ……そうだった。まだ完治はしていないんだった」
「そうでしだ。それでは身体を見せてください」
「え、ああ」
「慈愛に満ちし大地の女神よ。このものの傷を癒したまえ……」
新生魔法の奇跡で治療をしてくれる。
仄かな光が当たるとその部分がほんのりと温かくなり痛いが引いていくのが分かった。
回復魔法って本当に凄い。
こればかりは地球の外科手術よりも安全で早く回復する。
これってどこまで回復が出来るんだろうか。病気とか例えば癌とかも治せるんだろうか。
もし出来るのなら、まさに万能の力で医者要らずだな。
でも皮肉なことに、そのせいで戦争にたくさん使われて制限をかけられたんだけどね。
「……おお、アザとかほとんど見えなくなってる。本当に凄いな」
「勇者様のレアスキルに比べれば微々たるものです」
「そうかぁ? 多種族と会話が出来る程度の能力じゃないか。他者を癒やせるセレーネの方がよほど凄いだろ」
「勇者様の能力は戦いや戦争を未然に防げる可能性があるのです。そうなったらどれだけの命が助かるか……だからこそ凄いのです」
「話し合いなら別に戦争の前に必ず起こることじゃないの?」
「人同士ですら言語の違いで誤解が生じます。ましてや亜人や獣人、魔物などまともに話が通じないケースは多々あるわけです」
「でもそれって結局通訳がいいところじゃないか」
「ほぼネイティブに話し合いが可能というのは非常に大きなアドバンテージです。感情が伝わらない場合もありますから」
「そういうものか」
日本という島国に居ると他国語に触れる機会があまりないからなかなか実感がわかないな。
「それに勇者様は交渉事に長けているようにも見えますし」
そこはまあ日本にいたときに営業経験があるからかな。
「今回の死者を出さずに全てのアンデッドを還すなんてとんでもないことですから」
「そこまでのことでもないだろ。たまたま上手く行ったってだけで」
「わたくしが知る限り、複数のアンデッド相手にここまで被害の少ない戦いは聞いたことがありません」
「冒険者なら何とかなるんじゃないのか?」
「これだけの数を相手だったら中堅以上の勇者クラスがいないと難しいと思います。なにせアンデッドは死を恐れないので脅しも牽制も効かない。ですがこちら側は破壊するしか方法がないので非常に厄介なんです」
「確かに砦の人達もスケルトン数体に結構苦労してたみたいだし」
モンスター的な強さで考えればスケルトンは弱い方なんだろう。だが破壊しない限りその動きは止まらないから強くはないがとにかく時間がかかるし、頭数が揃うと確かに厄介になる。
「それに勇者様の魔力分け与える力。これはもう“神”レベルの力と言っても差し支えがないでしょう」
「大袈裟だろ」
「決して大袈裟ではありません! 勇者様から分け与えてくれたMPがなかったらわたくしではワイトに手も足も出ませんでしたし」
「だとしてもワイトで“神”レベルはないだろ」
「そんなことありません。あの状態なら更に上位の“リッチ”や“ヴァンパイア”の魂を浄化することも可能です」
リッチとヴァンパイアってゲームの種類にもよるけど結構ボスレベルのアンデッドモンスターだったよな。
それをターンアンデッド一発で終わらせられるというのなら、確かに凄そうだ。
「それは確かに凄そうだ。じゃあもうこれって俺もセレーネも凄いってことだな」
俺の言葉に、セレーネはぱちくりと驚いた顔をした。
「た、確かにそうですね。……勇者様のように言う人は初めて見ました」
「こういうのは謙遜しすぎても嫌味になるし、だったらせっかく手に入れた能力なんだし受け入れて存分に使えばいいじゃないか」
「手に入れた能力を受け入れる……」
「そうそう」
「ふふっ、やっぱり勇者様は面白い方ですね」
「面白いのか?」
「はいっ♪」
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