決着

決着<Ⅰ>

 ひゅーん!


「ん? 何の音?」


 遠くの方で機械音みたいな少し高めの音がしたが、今の俺はそれどころじゃなかった。


「あー、痛ぇ……」


「勇者様!!」


「早!? もう戻ってきたの?」


「全てターンアンデッドで追い払いました」


「マジか……」


「少しだけそのままでいてくださいね。……慈愛に満ちし大地の女神よ。このものの傷を癒したまえ……」


 セレーネが俺の胸辺りに手を置いて、呪文を唱え始めた。

 痛いのは腕と脇腹なんだけど……。そこでいいか?


「“クリティカルキュア”!」


 その言葉と同時に俺の身体全体が輝き始めた。

 焼かれたかのように熱かった身体から、熱が抜けていくような感覚がする。


「わ、マジか……全然痛みがなくなった……」


 呼吸すら辛かったのに、身体の痛みが全て消えたのだった。


「ふう……助かったぁ……。ありがとう」


「これくらいは当然のことです。ですが完全に治癒されたわけではありませんのでご無理はなさらないでくださいね」


「そうなんだ。わかったよ」


「うおっほん、さてでは……」


 手を祈るようなポーズに笑顔のセレーネ。

 だが、なんだか……。


「怒っているような?」


「いきなりキスをされた理由を伺ってよろしいでしょうか」


「ですよねー……あ、あれは思いつきとかヤケクソでしたわけじゃないから、ちゃんと意味があったんだ」


「それはなんとなく分かってます。それでも、あのキスの意味は何だったのか教えていただけますか」


「ちょ、ちょっとセレーネさん、なんだか怖いって、せっかく綺麗な顔なんだから」


「な!? き、綺麗だなんて、そんなこと言っても騙されませんよ」


 赤くなる頬に手を置いて隠そうとしているのか恥ずかしそうな顔のセレーネ。


「原理とかは全く分からないが、どういうわけかキスとかをすると俺のMPを分け与えることが出来るんだ」


「MPを分け与える? あ、あのキスでですか?」


「済まない。ちゃんとした方法とかは分かっていないんだけど、初めてセレーネとキスした時にステータスみたいなのが出て来て、MPを貸与しますかって表示されたんだよ」


「それは勇者様のスキルなのでしょうか」


「そうかもしれないけど全く説明がないし、MPが足りない場合、精神に障害が云々て警告が怖くて最初は思わず拒否したんだけど」


「足りないってどれほど分け与えることになっていたのですか?」


「MPを500も使うって書いてたからさ。足りないと精神に異常をきたすなんて怖いじゃないか」


「あの……勇者様は確かにMPが高かったと憶えておりますけど、500はなかったような……」


「ああ!? そうだ。俺どうなるんだ!?」


「それにワイトのエナジードレインはMPを奪われていたようですけども」


「まじか!? うそ、じゃあ俺、もしかして頭パッパラパーになるの!?」


「全くその様には見えませんけども……」


「じゃあ何とかなったのか? それにワイトのエナジードレインも大したことなかったみたいだし」


「ワイトクラスのエナジードレインは人間クラスのMPなら全て吸い尽くすって聞いたことがありますけど」


「マジで!?」


「もしかしたらMP異常になっているかもしれません」


「そうなの!?」


「危険かもしれません、とにかくステータスを見てみましょう」


「そ、そうだな……、す、ステータス!」


 職業 :無職

 レベル:1

 HP :011

 MP :716


「HPは減ってるけど、そりゃそうか。MPの方は……あれ増えてるんだけど?」


「異常とかは書いてありませんか?」


「書いてないな……」


「増えるなんて変な話ですね……、とりあえずステータスを詳細表示をしてみてください」


「詳細? えーっと……詳細表示」


 名前 :卯路睦久(うろむく)

 職業 :無職(勇者)/サブ職無

 レベル:1

 HP :009/013

 MP :64716/65536


 だから無職ってのは止めてほしい……。サブまで職無ってなんだよ。


「え……あ、あの……見えてますけど……」


「見ていいよ」


「よろしいのですか?」


「セレーネは見せてくれるじゃないか」


「それでは失礼します……」


 詳細表示にしたらどうやらセレーネにも見えるらしい。

 どういう原理なのかさっぱり分からん。


「え……、あ、あの……わたくしの目がおかしいのでしょうか。それとも表示がおかしいのでしょうか……」


「いや、多分表示が壊れるとかではないと思うけど」


「で、ですが……、MPが6万超えって……6万ですよ! 古代種の竜でもここまでではないはずです。これでは神々のクラスだと思います」


「え、そんなにか?」


 もしかしてあのクソ宇宙人が言ってたおまけってこれだったのか? あ、いやなんかちょっと違う気もする……。


「なるほど……、これならエナジードレインを受けてもワイトの方が許容オーバーになったのでそれ以上吸い込めなかったのでしょう」


「ああ、なるほどそういうことだったのか」


「これって勇者様達によく言われるチートってやつでしょうか」


「そこはちょっと分からない。全く説明がないからさ」


「能力にしては少々……いえかなり高すぎる気はします」


「確かに数値としては凄いかもしれないけど、俺自身はこれを扱う方法が今のところないんだよね」


 せいぜい今回みたいにエナジードレインくらっても死なないってくらいか。

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