目を覚ますと昼でした<Ⅲ>
「制限てどんななの?」
「回復系と呼ばれる奇跡には各ランクに回数制限があり、一番初歩ならわたくしでも日に5回は使えますが、先ほどのランク3だと日に1度しか使えません」
「なるほど、あのTRPG方式か……」
「はい?」
「イヤなんでもない」
「もちろんそれとは別にMPも消費されますので残りを常に気を付けねばなりません」
「なんだか結構面倒くさいな」
「ターンアンデッドやバリアなどの奇跡に回数制限はありませんがMPが消費されます」
「なるほど、簡単には回復させないって方式になったんだな」
「その様です。神の奇跡は戦争の道具ではないと仰りたいのかと思われます」
「でもさ。それでもある程度人数を集めれば、なんとかなるんじゃないのか」
「それがその……奇跡を行える聖職者はほとんどいないのです」
「どういうこと?」
「それはその……」
セレーネは口ごもり少し視線を泳がせる。
「話しにくいことなら無理しなくても構わないぞ」
「今は神聖魔法は神に選ばれた者にしか使えない。とても稀少な技術なのだ」
気がついたら直ぐ側に女騎士がいた。
「それぞれの教会に、奇跡を行使出来る人間は数えるほどしかいない。その中の一人が、この聖女様だということだ」
説明はありがたいのだが、この人まともに話が出来るんだと驚いてしまう。
「へぇ、そうだったんだ。聖女様と呼ばれていた理由はそこから来ているんだ」
「そうだ。だからお前が例え勇者だとしても馴れ馴れしくするな!」
「まじか!?」
「だから貴様もこれからはちゃんと、聖女様とお呼びするのだぞ」
他者の聖女様は本当に尊敬の念を持って呼んでいると思えるが、どうも彼女がいう“聖女様”には侮蔑を含んでいるように感じるのはどうしてだろうか。
ちらりとセレーネを見ると、うつむいた顔をしている。
どうも、何かがあるっぽいな。
「なるほど、話は分かった」
「そうか! さすが勇者は話が分かる」
「俺は彼女からは直接名前で呼んで欲しいと頼まれたから今まで通りに呼ぶよ」
「なんだと!?」
「勇者様……」
「貴様不敬だぞ! そういうことは作法を重んじろ!」
「あー、あいにく俺はここにまだ一日しか経っていないから、不作法ですまんな」
「ぐぬっ! だから勇者は粗忽者ばかりでイヤなのだ!」
怒り出して、何処かに行ってしまう。
「あらら、行っちゃったよ」
「ゆ、勇者様……よろしいのでしょうか」
「あー、いやなんかちょっと態度がむかついたっていうかさ。それでついね」
「わたくしのせいで申し訳ありません……」
「いや、悪いのは俺だろ」
「ですが、その……」
「気にするなって、あ、もしかしてセレーネって呼ぶのはあまり好きじゃなかった?」
「そのようなことはありません! 是非今のままでお願いします」
「だよな。今更呼び方変えてもな。じゃあ今まで通りセレーネでいいよな」
「はいっ!」
「あ、そうだ。昨日あれだけのことをしたんだから俺もしかしてレベルとか上がってないかなな」
「ステータスで見れば分かりますよ」
そういってセレーネはステータスを表示して見せてくれる。
職業 :聖職者(アデル教)
レベル:27
HP :020
MP :025
昨日はちらりと見せて直ぐに消したが今日ははっきりと見せてくれた。
それだけ俺のことを信用してくれているのだろう。
表示はそれ以外にも細かく経験値などが書いてあるが詳細は不明。後で調べよう。
レベル27やHP20が高いのか低いのかはよく分からんな。俺より高いのは事実だけど。
「わたくしは昨晩の出来事で一つレベルが上がりました」
「まじで? じゃあ俺も上がってんじゃないかな」
俺もステータスを表示する。
いつ見ても、ここだけは未来的で格好良い。
職業 :無職
レベル:1
HP :013
MP :435
経験値は6と書いてある。
だから無職とか止めてくれと言いたい。まるでニートみたいだ。
つーかレベル1のままじゃんか!
「アンデッドと一晩過ごしたけど確かに戦ったわけじゃないからか」
「も、申し訳ありません、ターンアンデッドが経験値になってたみたいでして」
「お、おう……」
まあ、仕方がないか。
「本当に降りてきたばかりなのですね」
セレーネがマジマジと俺のステータスを見る。
「だろ。レベル1のまんまなんだよ」
「あ、ですが……、このMPの高さは凄すぎます」
「そんなに凄いものなの?」
「我々の様ないわゆる普通の人間は高い方で50位、魔法使い系の勇者様が大体400が上限だと聞きます」
「まじで? じゃあ上限超えじゃないか」
「ええ、凄いって言うか凄すぎです。これだけでも勇者様の証だと思います」
これが言っていた特典ってやつなのか。
「でもさ。こんなにたくさんのMPがあっても俺は魔法が使えないんだよな」
「あ、あら……そういえばそうですね」
「職業欄が無職になっていますから、ポータルで職に就けるはずです」
「そうしたい。無職はさすがに勘弁して欲しい」
これでも一応、病気になるまでは頑張って働いていたんだからさ。
「やはり魔法使いでしょうか」
「うーん、まあ戦士向きの身体じゃないしな」
このあまりに余ったこのMPを存分に使ってみたいってのは確かにあるしね。
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