3バカ爆誕<2>
「い、一体何が起こるんだ?」
その場にいたほとんどの人間が騎士の3人を見ていた。
馬の勢いは止まらず、そのまま、そのまま……。
「ってぇ、何処に行ったんだよ!?」
宵闇の中飛び込んでいった彼らはあっという間に見えなくなってしまった。
「…………ぅわぁぁあ!?」
しばらくすると遠くの方で、女性の悲鳴が聞こえる。
「こ、この声ってもしかして……」
「あれはミネディア様の声……、ミネディア様!?」
……………………。
「うわぁあああ!!」
あ、やっぱり……。
しばらくの静寂の後、悲鳴を上げながら砦に走って戻ってくる3人の騎士。いやもう3バカでいいや。
「死んでも退かないんじゃないのかよ!」
「いーやー!! 助けてぇー!!」
しかも、それぞれ脚や肩などにゾンビがしがみつかれたり、噛みつかれたままこちらに向かってくる。
「ってなにやってんだ!? そんなのくっつけてこっちくんな!」
「うおー!! ゾンビを振り払え!」
砦長の一言に兵士達は大慌てで3人にくっついているゾンビを追い払いに走って行った。
「はぁはぁはぁ……し、死ぬかと思いました……」
砦長や兵士は一気に疲れた顔をしていた。
「あうあうあう……うう……、もうなんなのぉ……、あんなにいるなんて聞いてないぃ……」
何とか砦に戻ってきた3人の馬鹿者は広場に縮こまるように座っていた。
女騎士はすっかり士気を挫かれ普通の女子みたく泣いていた。
残った二人も疲労困憊とばかりにぐったりしている。
此奴らは本当にバカなのか?
勇んで飛び出して行った結果がこれですよ。
それにトライアングルフォーメーションとは一体なんだったのか。
あれだけのことがあったのに大した怪我もなかったのは高性能な鎧のおかげ以外の何ものでもなかった。
甲冑って凄いんだな。ごめん、俺ゲームだと重戦士より身軽な軽戦士系ばかり使ってたわ。改めて再評価してしまう。
それでも所々に歯形や爪の後らしきものが付いているけど、相当な力で噛んだり引っ掻いたりしているってことだよな。
俺みたいなまともな防具を着けてない状態だとまともに食らったら一撃で致命傷かもしれない。
うわぁ、なんかばっちい液体がいっぱい付いているんだけど。
これ下手に触ると病気になりそうだし、何より臭そうなので遠くで見ているだけにしよう。
「それでは門を閉じます!」
門の前を警戒していた兵士達が動き出す。
とりあえず、これで一度落ち着けそうだな……。
「え? あ、あれって……、人じゃないか?」
「はい? ……あっ!」
暗がりの中、砦と村を繋ぐ道にうっすらと見える人影。
動きからしてゾンビではない。
だが門は閉じていく。
「ちょっと待てって、あそこにまだ人が残っているじゃないか!」
「ぐっ……だめです! もしアンデッドが中に入ったら、この砦全員に被害が出るかもしれません」
「そ、それはそうだけど」
「“ホーリーライト”!」
いきなり呪文を唱えると手から光の球が現れ、彼女の近くで浮遊していた。
「それでは、わたくしが!」
そう言ってセレーネが門から外に飛び出していった。
「聖女様!?」
ちょ!? お、おい!?
「老人一人のために貴女が助けに行ってどうするのですか!」
砦長が叫ぶがセレーネは聞く耳を持たず、そのまま走って行く。
「おい、誰か止めろ!」
だが先ほどの3人を救ったときの恐怖があるからだろうか。誰も彼女を追いかけようとしない。
彼女はお人好しすぎだ。ど、どうする。どうする俺。
「勇者殿!?」
どうするなどと考えながら、既に脚は動いており砦から飛び出していた。
自分でも驚きだった。
外の空気は寒いはずなのに、何故か独特の生温かさを感じる。
薄暗い中にゾンビが直ぐ近くにいる気配がそう思わせるのだろうか。
だが、どうする。
って、俺素手じゃないか!? せめて武器くらい持って来いよ。
……いや武器持ってたからって戦えるとも思えないけど。
仕方がない。とりあえずアンデッド達の気を引いてみよう。
「おい! 化け物共!」
「ゾンビに声が聞こえるわけがありません! 勇者殿早く戻ってきてください!」
砦長が後ろで何かを言っている。
「ほら! こっちだよ!」
なんでもいい。とにかく今はセレーネと老人から気をそらせばいいんだ。
昼間のゾンビみたいに話が聞こえればいいんだが。
走りながらゾンビ達にに大声で話しかけ続ける。
『コエ……声ガスル……」
『エ、マジ!?』
徘徊していたゾンビ共が一斉に俺の方に向く。
『マジでハナシ聞イテクレるのカ!』
『ヤッタヨ!」
でも? なんか反応が軽いんだけど……。
アンデッドがそんなんでいいのかよ?
『ヒャッハー!』
『今夜ハパーティダァ!』
声が聞こえたゾンビ達は嬉しそうな声を上げて続々とこちらに向かってきている。
「ちょ!? まじかよ!?」
どうやらこの辺り全てのゾンビがこちらに向かってきているようだった。
軽く二桁のゾンビと思わしき人影を感じる。
「怖えよっ!」
ゾンビ達の脚は昼とは全く別物で腐った死体のクセに妙に速かった。
「怖っ! めちゃ怖!! ぎゃーっ!!」
意を決して外に出たモノの、さすがに俺は怖くなる。
セレーネの方を見ると、老人と他3人くらいを連れて砦に向かっている。
逃げ遅れがまだ居たのか……、くそ……さすがにまだかかりそうだな。
……仕方がない。ここはセレーネ達が砦に戻れるまで、ここからゾンビ事離れるしかあるまい。
「おら! ゾンビ共、パーティしようぜ!」
『イエーイ!』
『ヒャッホウ!』
何故かセリフだけは軽いゾンビ共が俺の方に向かってくる。
それを確認して俺は一気に砦から離れるのだった。
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