3バカ爆誕

3バカ爆誕<Ⅰ>

 付いていった先は砦の裏門だった。俺も中に入るときに通ったところだ。

 ちなみに表門は魔物達の住む森に向いているらしい。


 砦の大きな門が開くと、農民と思われる人々が続々と入ってきた。

 一様に疲れた顔をしていて、セレーネはその一人一人にお疲れさまですとか、頑張りましょうなどと声をかけていく。


 その間、俺は砦を見ていた。

 砦の城壁の高さは2mを超えたくらいだろうか。丸太を立てて密集させたような造りで急造なんだろうとよく分かった。

 壁の丸太の先は尖っておりとげとげが並んでいるように見える。高さや太さに差があり不格好で所々隙間が空いているが、人が通れるほどではない。


 城壁に通路のようなものはなく物見の塔らしきものが複数立っており、そこには見張りが立っている。


 昼に外から少し見た限り堀らしきものはなかった。だが砦は小高い場所に建っているので攻める側は登りになるので結構大変だろう。


 砦の中には至る所にテントが張っていて最初は兵士が使うための物かと思ったが、入ってきた村人達がそれぞれのテントに入り始めた。


 これは一体どういうことなんだ。

 村人がここに住んでいる……わけないよな。

 それほど広くもないこの砦にこんなに人が入ってどうするのか。


「本来こんな小さな砦で村人全員を収容するのは難しいので、ああやってテントとかも使っているのです」


 どうやら俺が不思議そうな顔をしていたのが分かったのだろう。砦長が説明をしてくれた。


「じゃあ夜はここで過ごすんですか」


「ええ、夜になると彼奴らがやってくるので」


「奴らって……、アンデッドのことですよね」


「貴方が聖女様から守ったと言っているあれですよ。夜になるとどこからともなく出てくるので砦に籠もる以外方法がないのです」


「素人質問で申し訳ないのですが、森から攻めてくるのは魔物ですよね。何故アンデッドが?」


「そこはこちらが知りたいくらいです。ここは10年以上平和だったのですが、まさか私の代になってこうなるとは思いもしませんでしたよ」


「マジか……」


「そろそろ彼奴らが出てくる頃です。おい、村人を急がせろ!」


 どうやら思ったよりも村人の行動が遅いらしい。

 昼来ないなら、こっちから攻めることとかしないのか?


「まともに戦えるのは40人に満たないのです。アンデッド共は涌いて出てくるので大元を特定出来ていません」


「そ、そうですか……」


 何も言っていないのに、疑問に応えてくれるとは砦長は俺の考えが分かるのだろうか。


「それにもし魔物の森が大元だった場合、下手に攻め入ったら我々は魔物達の餌になってしまいかねません」


「むう、こっちから仕掛けるの無理なのか……だったら援軍を頼むとか」


「援軍なら本日到着しました」


「そうなんですか? それなら勝てるんじゃ……ってそんな人が何処に?」


「……あのお三方です」


 昼間俺を罪人扱いした騎兵の3人だった。

 人の話を聞かない女騎士と、偉く大柄のとわりと小柄の全身甲冑の二人。

 質はともかく、数が少なすぎじゃないか。


「あの人達だけ?」


「お恥ずかしい話ですが、ここの領主は本国から防衛費の助成金を横領しているらしいのです。まともに回していれば100人くらいは詰めていたはずなんです」


「なんだそりゃ、この世界でも横領とかするヤツは多いんだな」


「勇者殿の世界でも多いのですか」


「こちらも恥ずかしい限りだけど、人間の欲望ってのはどこに行っても変わらないんだな」


「そのようですな。……おっと、言っているそばから来たようです」


「え? あ、あれか」


 太陽はほぼ落ちて、かなり暗くなった平原の先にうっすらと人影らしきものが見えた。

 最初は一つだったが、徐々に増えていく。

 その影はこっちに向かって歩いてくるのが見える。


 あれ、そういえば、眼鏡していないのに凄くよく見えてるじゃん!

 若返って近眼まで治っているのか。この世界で生きるにはこれはこれで有り難い。


「よし時間だ! 火をたけ! 全員所定の位置に付け! いいか、お前らの後ろには女子供老人が居る。死んでも死守しろ!」


 よくある保身に走る人とは大違いだな。

 なかなか格好いいおっさんだった。


「いや、死んだら敵が増える! 絶対に死ぬな! だが死ぬ気で戦え!」


 どんっ! どんっ! どんっ!


「うおっ!? なんだこの音?」


「ゾンビ共が壁を叩く音です! くそっ、もう取り付かれたか! 今すぐ門を閉じるんだ!」


「この程度の敵に臆病者共が! ライトン、サレフト行くぞ! 我らの力此奴らに存分にみせつけようぞ!」


 3人は各々武器を手に取り、馬に跨がると門の方に向かっていく。

 もしかして、あの人達って実は凄く強かったりするのか?


「相手は所詮は死体だ。もう一度死体に戻してやればいいだけのこと! いつも通りに行くぞ。トライアングルフォーメーション! はっ!」


 そして彼らは馬で一気に走り出す。


「な!? ミネディア様、お戻りください!!」


「我ら三騎士っ! この命散ろうとも決して退かぬ!」


 砦長が叫ぶが3人の騎士は聞く耳など持たず出て行ってしまう。

 女騎士を中央にして、男二人が前に出て左右に広がり三角形を描いていく。これがトライアングルフォーメーションなのか。

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