いつでも出会いは突然です<Ⅳ>

「はい? そうですね、見ようと思えば12……いえ15歳くらいでしょうか」


 15歳……は多分、年齢を気にしていると思ってさばを読んでくれたのだろう。

 おそらく12歳の方が正しいだろう。


 そういえば声も妙に高いし、声変わりってどれくらいのときだったっけ。記憶が古すぎて憶えていないな。


「そうやって幼さをアピールされても金額は一切まけませんので」


「ぬぐ……」


 そこはしっかりしていらっしゃるのね。


「顔に付いたこれっておしっこだけじゃないよね。なんか妙に粘っこいし……」


「え? あ、あのそれはその……」


「いーのかなぁ、聖職者なのに結構お盛んなようですけど」


「わわっ!? し、失礼、失礼ですよ!!」


「今だってパンツを履いていないだろ。露出が趣味だったり?」


「わー!」


 慌てた拍子に彼女は立ち上がり、またも俺に見せてはいけないところを見せてしまう。

 残念なのは着直していたため先ほどより暗くなってしまいよく見えなかった。


「冗談だって」


「も、もう……」


「まあほら人間なんだし、トイレが近くになければ聖職者だって野ションくらい仕方がないことでしょ、そんなところに突然降ってきて悪かったよ」


「な、なな!? そ、そのようなう気のつかいかたなんてしなくていいです!」


「いや本当に悪気はなかったんだ。いきなり落とされて全く制御も出来ないし、なるようにしかならなくて」


「その様に謝られましても許しません」


「うーん」


「もう少しデリカシーの配慮くらいはしていただきたかったです」


「これでも配慮したつもりだったんだが」


「もう……、それで、貴方は一体どうしてこんなところに?」


「さっきから言っているとおり落とされたんだよ」


「それはそうですけど、そうではなくてどうしてこの世界にいらっしゃったのですか?」


「一応、魔王がなんとかって言われて……だったんだけど」


「やはりそうなのですね!」


「い、いや……それが」


「ですが勇者様というのはポータルから降りてくるはずですよね」


「なにそれ」


「あら、分からないのですか」


「そこはイマイチ分かっていないんだ。もしかしたら俺は勇者なんてものじゃないかもしれない」


「いえ……、見放された存在だとしたら、わざわざ女神様がわたくしの元に堕とすなんてあかったと思います。やはり何かの思し召しなのかもしれません」


 思し召しねぇ……。

 もし本当なら、完全に仕組まれているわけだが。


「そういえばさっき魔法みたいのだけど、この星にはそういうのがあるの?」


「ありますよ。わたくしのは神聖魔法と言いまして、他にも魔術はありますけど……あの、星とは夜空に輝いているもののことでしょうか?」


「え、あ、あれ?」


 どうやら彼女は自分たちがいるこの場所を星と認識していない様子。

 どうやらここではまだ天動説的な考えが当たり前的なのか。


 そうなると俺が宇宙から落ちてきたなんて説明しても分かってはもらえないな。

 じゃあ魔法ってなんなんだ。神秘の力なんて存在しているのか?


 いやいやいや、見た目はファンタジーだけど、ここはSFの世界みたいなものだからな。

 ここは異世界じゃない。異星なんだ。だから物理法則だって同じのはず。

 もしここで魔法が使えるのなら地球でだって魔法が使えるってことになる。


 となると、あのツルピカのおっさんやその仲間が魔法みたいに見える何かしらのギミックを仕込んでいるって考えるべきか。


「うーん……」


「あ、あの……やはり大丈夫でしょうか。あれだけの高いところから相当な速度で落ちたわけですからどこかお加減が……」


「あ、ごめん。また少し考えごとをしてただけなんだ。今自分がどうなったか分かってなくてさ」


「では、頭がぼーっとするとかはないのですね?」


「ああ、おかげで様で、どこも痛くないし意識もしっかりしているよ」


 もしかしてこの子って結構良い人だったりして?

 いや当たり前か、落ちてきた俺を助けてくれたし。普通は気持ち悪がって逃げてもおかしくないもんな。


 でも、ぶん殴られて結構な金額を請求されたけど。

 いやまあ、それは俺が一言余計だったんだけど。


「……本当に大丈夫でしょうか」


 心配そうに顔を近づけてくる。

 わっ、めっちゃ顔が近いんですけど。

 きめの細かな肌まで分かるほどで、ああ、なるほど化粧で誤魔化す必要がないくらい若いのか。


 彼女は俺の目線に気がついて笑顔を向ける。


「……だ、大丈夫だって」


 綺麗な顔をしている彼女の笑顔はとても可愛らしく、それをあまりにも真正面に向けてくるので、俺の方が思わず目線を外してしまう。


「それにしても面白いお召し物ですね」


「え、そうかな?」


 俺が着ているのは寝間着代わりに使っていたジャージである。

 しかも靴すら履いていない。


「ええ、この様な材質の服は見たことがありません。とても鮮やかな色ですし、よほど高価なものなのでしょうか」


「こんなのただの安物だよ」


「そうなのですか? あの少し触ってもよろしいですか」


 俺は首を縦に振る。


「少し失礼します……。わっ、薄い生地なのに伸縮性があるんですね」


 どうもこの娘は人との距離が近いんだけど。

 これだけの美人がここまで簡単に距離を詰めてきたら勘違いする男が結構居そうだな。

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