いつでも出会いは突然です<Ⅱ>

「これでも一応年頃の女ですので……」


 周囲を見渡すが、どうやら人影らしきものはない。

 この辺りなら問題なさそうだと、さっと下を脱いで用を足し始めた。


「ふう……せめて女性用のトイレくらいは用意していただきたいですよね」


 ここなら近くに人が居たとしても川の流れる音に紛れて聞かれる心配もない。


「……ん、すんすん……もしかして、少し……臭ってます? あうー……お風呂に入りたいです……」


 砦には風呂などあるはずもない。

 兵士達はため池の水などを浴びて洗っているがさすがに同じことは出来ない。


「今は不謹慎な気はしますけど……」


 とはいえさすがに少しばかり気になった。


「それに……」


 身体をもじもじさせ始めた。

 ここ最近ずっとしてしない。そう考えるだけでなんだか身体が熱くなってくる。


「す、少しの間、なら……いいですよね」


 悶々としている彼女の遙か上空できらりと光る何かが近づいていた。


 ひゅーっ……。


 どこからか何かが落ちてくるような音が聞こえる。


「ひゃ!? い、いったい何の音でしょうか?」


 慌てて衣服を整え始めながら立ち上がる。

 何処からの音だろうと周りを見渡すがそれらしきものは確認出来ない。


「どこから……あ、もしかして上?」


 まさかと思いつつ上を見ると、空の彼方に小さな点のようなものが確認出来た。

 それは徐々に大きくなっていき、落下音も大きくなり笛のような甲高い音に変わっていく。


「はい? あ、あれは一体……な、何……でしょうか」


 何かがこちらに飛んでくる様な……。


「鳥……にしては大きい感じですね。も、もしかしてドラゴンとかでしょうか!?」


 もしそうだとすると襲われたらひとたまりもない。

 少し焦りを感じたが、徐々に輪郭が見えてくると違うことが分かった。


「え、あ、あれは……人?」


 上空から人が飛んで、いやどう見ても落下してきている。


「ウソ……ですよね?」


 しかもその落下している人物は真っ直ぐにこちらに向かって来ている様子だった。


「ど、どうしましょう!?」


 うまくキャッチすれば助けられるだろうか。

 いや、さすがにそんなことをしたら自分も危ないと思われる。


 などと考えている間に、もうすぐ側に迫ってきていて避ける暇もなくなっていた。


「きゃっ!」


 咄嗟に防御姿勢を取って目を瞑る。


 どこーんっ!!


 物凄い爆音を響かせながら彼女の直ぐ側に落ちた。

 巻き上がる埃。あっという間に周囲を覆って何も見えなくなる。


「ごほごほごほっ! い、今のは一体……」


 一瞬ぶつかると思ったが、少しずれた場所に落ちた様子。

 少しだけホッとする。


「あ、そうです! 落ちてきた人は!?」


 巻き上がった埃で視界は全くなく自分の身体すら見えない。

 だが衝撃音からして尋常じゃなかったのでおそらく生きているのは絶望的だとは思われる。


 やがて徐々に視界が晴れてくると自分の下腹部に何かが当たっていることに気がつく。


 まさか何かが当たった? その場所をそっと見ると脚と脚の間に黒い塊が見えた。


「ひゃ!?」


 何事かと驚かされたが、黒い塊をよく見るとそれは人の頭だった。


「え、こ、これ……」


 その頭はよりにもよって彼女の股の間に顔を埋めるように挟まっており、しかも強烈な衝撃波で祭服のスカートが思い切りめくれているのだった。

 更に先ほど慌てて衣服を整えはしたがパンツを履いている余裕はなかったため、そこは剥き出し状態であった。


「きゃあっ!!」


 驚いた彼女は思わず頭を掴んで放り出してしまう。


 ごいんっ!


「あいたぁ!!」


 放り出した拍子に、頭が地面の石に当たり大きな音がして死体だと思っていたそれが痛みを訴えた。


「あ……」


 どうやら生首などではなく一応身体と繋がっていたようである。しかもちゃんと生きていた。


「も、申し訳ありませんっ!」


 慌ててその人物の側に行くと心臓の辺りに手を置くと心臓の鼓動を感じ、ただ気絶しているだけだと分かった。


「良かった……あ、え、えっと気絶しているのは、もしかしてわたくしのせい……だったりするのでしょうか……」


 どうしましょう……。

 あれだけの高さから落下してきたのにどうして生きているのでしょう。


「いや、今はそれどころではありませんね」


 他に怪我などはないか気絶している彼の身体をよく見てみる。

 細かな擦り傷はあるようだが、致命傷となる様なものはなかった。

 よく見ると、意外と若い……いやむしろ幼い?


「亜人……の方ではないですよね」


 亜人の中には人間よりも背が低い種族もいるため、見間違えることもしばしばある。


「あら、頭に大きなコブが……こ、これはわたくしがやってしまったのですね」


 思ったよりも大きいコブになっていたので痛そうだなと優しくさすってみる。


「痛ってぇ!?」


 頭部に激しい痛みが走り、俺は目を覚ました。


「わぁ!? も、申し訳ありませんっ!!」


「え、あ、あれ? いきなり何が?」


 起きると同時に謝られた。

 そして目の前には綺麗な女性が、またAI女神様ってやつか?


 あ、いや……それにしては何かが……一体どういう状況なんだ? そっと周囲を見回すと、青空……川……、あれ。もしかして俺は地球に戻ってきたのか?


「だ、大丈夫ですか?」


 心配そうな顔をするAI女神。

 だから作り物のくせに、そういう顔をされると本当に生きているんじゃないかと勘違いするっての。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る