異星界物語 ~異世界転生かと思ったらアブダクションでした~

澱晩茶

第一話

第一話:ここは漆黒の空間

 バタンッ!!


「え、おわ!?」


 真っ白な床に丸い穴がいきなり空いた。

 それはまるでアニメかマンガのトラップみたいだなと思いながら俺はその穴に落ちていく。


「ふう……面倒なのは星に落とすに限る。ちゃんと言質を取って同意は得たから問題ない」


「てめ! 今の言葉しっかり聞こえたからな! お、覚えてろよぉ!」


 穴から落とされ真っ暗な空間に放り出されると変な浮遊感に気持ちが悪くなった。


「な、なんだここ……って宇宙空間!? まじか! うわっ、うわぁぁぁあぁぁ、し、しし、死ぬっ、死ぬぅ!!」


 真空の中に放り出されたら直ぐに死んでしまう。藻掻くように無重力の中で暴れるが手や脚は空しく空を切るだけだった。


「え、あ、あれは……」


 藻掻いていると自分の身体が明るい方に流されているのが分かった。

 その光源の元は……球体だった。


「あれは、星か!?」


 その星はテレビや映画などで見る地球にそっくりだった。いや……なんだか所々地形が違う気がするけど……。


「なんか徐々に大きくなってないか? ウソだろ……もしかしてあそこに突っ込むのか」


 やはり星が徐々に大きくなっている。


「うわっ! うわあああぁぁぁ!!」


 悲鳴を上げながら俺は漆黒の空間を超高速ですっ飛んでいる。

 イヤ違う。これは飛んでいるんじゃない……落ちているんだ。


「あ、あれ……そういえばなんで俺は苦しくないんだ?」


 不思議なことに宇宙空間にいるはずなのに息苦しかったり熱くも寒くもない。真空で起こりそうな恐ろしい現象は全く起こっていない。


「もしかして宇宙には常温で空気もあるのに、それを知られたくない誰かがひた隠しにしていたのか!?」


 って、そんなわけないか……。

 もう適当に足掻いたところで、もうなるようにしかならない。


 周囲は漆黒の空間から徐々に色がつき始め青みがかっていく。

 目の前には雲が見えた。どうやら垂直ではなく斜めに落ちているようだ。


 ゴゴゴゴゴゴー!


 風切り音がし始めるが、身体に風圧のようなものは感じない。

 どうやらバリアのようなモノで俺の周囲を保護しているらしい。


「なんか、すげえな……」


 だが揺れが激しいので恐怖を感じる。

 いきなりバリアみたいなのが壊れたりしないよな?


 その心配を余所に空はすっかり青くなっていた。

 地表の形もよく見え始めると現実感がわいてきて自分の動いている速度に別の恐怖を感じ始める。


「こ、これ……、ちゃんと着地出来るんだよな?」


 こんな速度で落ちたらさすがに死ぬだろうか……いや、確実にやばいだろ!


 もしかして、これは処罰か? 処刑の一種か!?

 こうやって最大限の恐怖を与えて殺すつもりなのか。


 むしろただの廃棄処理だったりして。でもそれならこの保護機能は不要のはず。

 真空に飛び出せば勝手に死ぬし、そのまま大気圏に入れば綺麗に焼けて終わるし。


 何かと希望的観測で考えてしまうが、出来ればそうであってほしい。


「いや、た、頼むから、そうであってくれぇ! あ、でも海の真ん中とかだったら洒落にならんし、ジャングル奥地とかも勘弁なっ!」


 地上には森林と思わしき一面が緑に覆われたところや海と思われる青い場所などが見える。


「本当に勘弁してくれっ! いや、してくださいっ!」


 俺、転生したらスローライフを送るつもりだったんです。

 あ……今俺、考えちゃいけないことを考えちゃったかも。


「嘘っ、嘘です! 生き延びられるのならなんでもしますっ!!」

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