第48話 探索しよう

 水晶をそのままにしておくと良くない気がしていたので鉄で包んで集落まで持ち帰ることにした。私とミサキは平気なのだけど、これがあるとミカエルの調子が悪くなってしまうみたいだし、さっきみたいな魔物がまた出てきても困ると思うからだ。持ち帰ったところでどうすればいいのかわからないけれど、ここに放置するよりはいいのだろうということになった。


「ねえ、これから屋敷を探索する時間があるかな?」

「急いで戻ればなんとかなると思うよ」

「急ぐと言っても、走るのは限界があると思うんだけど」

「大丈夫、あたしに良い考えがあるんだ」


 私たちはミサキに連れられて、最初に降り立った穴の底に移動した。ミサキは何やら壁を調べているようだけれど、目的の場所があったようで私達をそこへ誘導した。ミサキから出た鉄の人が小さな部屋の形になると、私達はその中へと入りこんでいつものように椅子に腰かけてリラックスしていた。しばらく経つと、ほんの少しだけ振動して、エレベーターに乗って上に行くような感覚に襲われた。小さな窓から外をのぞくと、窓から見える壁が凄いスピードで下へと下がっていくのが見えた。

 あっという間に窓の外が明るくなったのだけれど、いつの間にか地上へと戻ることが出来たようだ。あまりにも早い時間で穴の底から地上に戻れたのだが、不思議と気持ち悪い感じはしなかった。私は乗り物にそんなに強くない方だけれど無事だった。ミカエルは動きについてこれなかったようで顔を真っ青にして気持ち悪そうにうつむいていた。


「天使君がちょっと気持ち悪そうだし、少しここで休憩してから移動しましょ」

「よかったらなんだけど、二時間くらい仮眠とっていいかな?」

「マヤちゃんは眠くなったの?」

「うん、今日はちょっとしか寝ていないから外に出た安心感で、睡魔に襲われてしまったよ。ごめんね、でも、少しだけ寝かせてね」

「わかった。あたしも少し寝ようかな」


 ミサキは私の意見を取り入れてくれて、鉄で出来た小屋を作ると、私達それぞれに小さい部屋を割り当ててくれた。横になれるスペースがあるだけでもありがたいのだが、嬉しいことに用意されたベッドは柔らかくて全身を包み込むようで、寝心地の良いモノだった。一体どういう仕組みなのか気になっていたけれど、そんなことを考える間もなく私は眠りに落ちていたようだった。


 目が覚めて外を見ると、まだ日は高い位置にあるようで安心した。私は部屋から外に出てみたのだけれど、すがすがしい天気で木の間からさしている日差しがとても気持ち良かった。ミサキもミカエルも姿は見えないのだけれど、森の中にある小さな小屋が異彩を放っているのは間違いなかった。

 どう見ても金属の塊にしか見えない色合いなのでどうにかならないかと考えているときに、ちょうどミサキが中から出てきたのだった。


「ねえ、この家ってすごく便利で助かるんだけど、ちょっと目立ちすぎていると思わない?」

「確かに、こうしてみると遠くからでもわかりそうなくらい目立ってるよね」

「目立つのは悪いことばっかりじゃないと思うけど、今の状況だったら目立たない方がいいよね」


 ミサキはいまだに気分の優れていなそうなミカエルを起こすといったん外に出し、鉄の男に何か話しかけていた。鉄は木や草をその身に取り込むと、周りの色に溶け込むような色に変化していった。徐々に徐々に変化していったのだけれど、変わっていく様子を見ていないと気付かないくらい森の風景に同化していた。

 ここまで綺麗に紛れ込むことが出来るのだったら、私達が寝る前にそうして欲しかったなと思ったけれど、ミサキにも鉄の人にも自然の中に隠れるという発想はなかったそうだ。襲われたとしても問題なく撃退できると思うのだけれど、休んでいるときに襲われると気が気じゃなくなりそうだと思った。


「よーし、みんな集まったところで、あの屋敷を調べに行こうか」


 ミカエルも寝ていたようなのだけれど、寝起きで不機嫌な感じでもなくいつものミカエルに戻っていた。私たちはをのまま森を抜けて街道に沿って丘を上ると、目の前にとても大きな屋敷が飛び込んできた。学校よりも大きく見えたのだけれど、それはきっと気のせいなんだろう。そう感じてしまうくらい謎の圧迫感に襲われていたのだ。


「ねえ、この屋敷ってちょっとだけ不思議な感じしない?」

「あたしもそう感じていたよ。どこからかわからないけど、ずっと見られている感じがするんだよね」

「自分もその視線は感じているっス。どこからかまでは断言できないっスけど、とにかく見られている感じがするっス」

「じゃあ、鉄の人に頼んで門を開けてきてもらおうか」


 固く閉ざされた門の前にミサキが立つと、背中から鉄の人を出して門の隙間から中に送り込もうとしていた。送り込もうとしていたのだけれど、見えない壁に阻まれるように鉄の人はその場で止まってしまった。門の隙間だけでなく、塀の上も、地中も、全てバリアによって覆いつくされているようだった。


「今まで見てきたバリアと違って、鉄の人の事を完ぺきに拒絶しているんだよね。普通のバリアだったら丸ごと包み込めるんだけど、このバリアって覆いつくそうにも触れることも出来ないんだよ。包み込むことが出来ないんじゃ呑み込めないよね」

「よくわからないけどそういうものなんだね」

「じゃあ、自分が空から見てくるっス」


 ミカエルが背中の羽を使って空を飛んで行った。結構時間が経っていたので、屋敷の周りを一周してきたようだった。そう思っていたのだけれど、ミカエルは屋敷の周りを一周してきたわけではないみたいだった。


「大変っス。空からこの屋敷を見ようと思ったんっスけど、空から下を見ると、そこには何もなかったっス。ミサキたちがいるのは見えていたんっスけど、空から見るとただの平原になっていたっス。鉄の人がやってた擬態をこの屋敷全体がやってるのかもしれないっスよ」

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