第20話 拷問に使ったスライムは催淫効果があるそうです

 天使に尋問しようとした翌日、私はこの天使が悶えている様を見続けることになってしまったのだ。それは何故なのかと言うと、全て正樹が悪いのだ。それも、みさきの為にしているという事の意味もわからなかった。


「サクラさんは最近漫画描いてないですよね?」

「ええ、ここ最近は忙しかったり、こっちの生活に慣れなきゃいけないと思って漫画は描いてなかったかもしれないな」

「それじゃダメなんですよ。みさきはサクラさんの漫画を見たいって念仏のように唱えているんですよ。僕はサクラさんの漫画を読んだことが無いのでそんなに依存性が高いなんて信じられないですけど、みさきが言うには僕が見てもそんなに楽しめないだろうって話なんですよね。それって僕に理解力が足りないって事なんですかね?」

「いや、理解力が足りないって言うか、そういうジャンルに興味が無いって言うか、正樹が見ても楽しめないんじゃないかなって感じなだけだよ」

「そうなんですね。でも、この世界から元の世界に戻る事になったら真っ先にみさきに見せてもらいますからね。何も知らない状態で批判なんて出来ないし、サクラさんの作ったものにも興味ありますからね」

「いやぁ、興味を持ってもらえるのはありがたいんだけど、私の事を嫌いになるのだけはやめてね」

「嫌われるような作品なんですか?」

「なんて言うか、男の人にはあんまり勧められないのもあるからね。あ、全年齢のもあるからそっちは見て欲しいかな。ってか、そっちは自信あるから絶対に見てね」


 そんな事を話していると、わずかではあるけれど天使が震えているように見えた。一時になってしまうとそれが本当に起こった事なのか気になってしまう。昨日はしっかりと目を見てきたと思うのだけれど、今日は終始うつむいてこちらを向こうとはしなかった。それは構わないのだけれど、心なしか息遣いも荒くなっていた。気温は適温だと思うし、天使は基本的に飲食しないので排泄などもしないそうだ。いったい何があったのだろうかと思ってみたけれど、どう考えても正樹がつけさせた袋のせいだろう。


「ねえ、あの袋の中って何なの?」

「あれですか、あの中にはちょっと特殊なスライムが入っているんですよ。でも、人体にダメージを与えるタイプじゃないんで安心してください。用法容量を守れば問題ないって聞いてますからね」

「その用法容量ってどれくらいなの?」

「両手に一つずつ袋がついていると思うんですけど、あれ一つで百人分くらいは楽しめるって言ってましたよ」

「完全に容量オーバーしてんじゃん!!」

「人間の場合ですよ。天使だったらそんな事も無いかなって思ってたんですけど、良い感じに決まっているみたいですよ」

「あの天使の様子がなんか変です。急に動かなくなったけど、命を奪う系の袋じゃないんだよね?」

「直接命を奪うことはないと思うんですけど、事故とか家庭の事情とかでこの世から消えることはあるみたいですよ。ま、それも用法容量を守っていれば解決出来るんですけどね」

「でもさ、天使の足元に水溜りが出来てるんだけど、あれは大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないですかね。天使って飲み食いしない分大気から水分をとれるみたいだし問題ない事ですよ」


 何だか気持ち悪いなと思っていたんだけど、問題ないと言うならそうなんだろう。というか、あの袋の中身が死ぬほど気になってしまう。


「ねえ、あの袋の中身って何なの?」

「あの中身ですか?」

「そう、あの袋の中身。そんなに危険なモノなの?」

「僕はあの中身が全く効かなかったんですけど、お風呂で色々な人が試してみたとのを聞いたところ、効果が出る人が大半でしたね」

「それは何かって聞いてるのよ」

「ああ、あの中身なら催淫効果のあるスライムらしいですよ」

「なんでそんなものを貴方が持っているのよ。それに、そんな物騒な物をどこに隠していたのよ?」

「僕がアレを手に入れたきっかけなんですけど、サキュバスの人達が何をやっても僕が反応を示さなかったので使いだしたんですよ。でも、スライムは僕に反応を示さなかったんですよね。だから、僕もその効果が分かってないですね。ただ、あのスライムは人体に悪影響を及ぼしたりはしない素材で出来ているんで気にしなくていいからってサキュバスが言ってましたよ」

「正樹にそう言うのが効かないってのは選ばれた勇者ってやつだからなのかな?」

「その点はよくわかってないんですけど、実際はそう言う事じゃない理由らしいです」

「正樹が神官だからかな?」

「いや、他にも神官の人は何人かいたけど、僕みたいに無効化していたのは他にはいなかったかもね。スライムで遊んでいるだけでも白い目で見られそうなんだけどね。それに、神官で大丈夫なら巫女である私にも影響ないでしょう」


 どんな効果があるのかはっきり言ってくれないんだけど、サキュバスという名詞が出てきたのは私にとって誤算だった。どんなに一途な男でもあのスライムの手にかかればいちころで堕ちてしまうのだろう。だが、本人の同意なしでそのような事は試さないと思うのだけど、実際どうなってしまうのか興味はあった。


「あの中にいるスライムってどれくらい生きていられるの?」

「さあ、よくわからないんだけど、カサカサになっても水分を与えたら戻るって聞いた気がするよ。サクラさんはアレに触れない方がいいと思うけどね」

「それってどういう意味なのかな?」

「サクラさんにはあの天使が悶えている姿をヒントに新しい漫画を描いてもらいたいってだけなんだよ」

「自分が読むわけでもないのにそこまでしてくれるんだね。私は嬉しいよ」

「あげ餅味噌煮先生の新作が読めるならみさきも嬉しいと思うんですよね。だから、新しい作品の制作をお願いしますね」


 何と言っていいのかわからないけれど、正樹がみさきの事を好きなのは知っていたけれど、そこまでだとは思わなかった。それにしても、サキュバスと普通に会話している男子ってどうなんだろう。


「ちょっと待って、何で正樹はサキュバスと普通に会話してたの?」

「多分なんですけど、僕がみさき以外に興味を持っていないからじゃないですかね。今はみさきが大事なのは変わらないですけど、サクラさん達の事も大切だって思ってますよ」

「うん、それは嬉しいんだけど、サキュバスって強制的にそういう気分にさせるもんなんじゃないの?」

「そうらしいんですけど、僕はサキュバスに全然興味がわかなかったんですよね。そう言う事もあるっぽいんですけどって言われましたけど、そう言ってたサキュバスも僕以外にそういう人は知らないって言ってましたね」

「じゃあ、私があのスライムを触ったら大変な事になっちゃうかな?」

「サクラさんはそういうのに興味が無さそうだから大丈夫じゃないですかね?」

「私だって普通にそう言う事には興味あるんだけど、実際に体験したことも無いからわからないだけさ」

「いつかサクラさんにも良い人見つかるといいですね。あ、あの天使の様子だとそろそろ良さそうなんで、アイカさんと変わりますね。あとはお二人に任せますよ」


 正樹が部屋から出て行った直後にアイカが走って私の前までやって来た。とても息を切らせているのだけれど、私を見るその瞳はいつも以上に輝いていた。


「ねえ、あの天使の痴態が見れるって聞いたんだけど、ここで見てればいいの?」

「痴態かどうかはわからないけど、ここで見守っても何も起きないと思うよ」

「何も起きないって言っても、あの天使の足元に物凄い水溜りが出来ているのは何なのさ?」


 先ほどよりも水溜りが広がっているように思えたけれど、一体あの水溜りは何で出来ているのだろうか?

 私はその疑問を解決しようとは思わなかった。きっと知らなくていい事もこの世界にはたくさんあるのだろう。そんな中、私とアイカは物凄く悶えている天使の姿を見ていた。見ているだけでは飽きてしまいそうだったので、少しだけ頬に触れてみると、天使の足元にあった水溜りがさらに大きくなっていた。そのまま天使は小さく痙攣していたけれど、天使の体に触れるたびに痙攣していたのが面白くなってしまって、何度も何度もその反応を確かめていたのだけれど、しばらく繰り返していると天使は動かなくなってしまった。

 それでも続けていると、天使の体が急に反りだして完全に動かなくなってしまった。私は死んだのかと思って不安になってしまったけれど、どうやらそうではなく失神しているだけのようだった。私とアイカはその様子もしっかりと記録することが出来たのであった。


「ねえ、この天使の意識が戻ったら、もっと敏感なところを触る事にしない?」

「それってアイカの趣味でやるの?」

「ち、違いますよ。これは知的好奇心で確かめたいだけなんです。イヤらしい意味なんてないんですからぁ」

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