第31話 枯れる薔薇ですが、何か?
~ダリルside~
少しずつ冬の足音が聞こえてくる頃、我が家では盛大な婚約発表パーティが行われていた。
主役である私、王国騎士団団長の長男である、ダリル・アンダーソンと、今を時めく恋愛小説家、ヴィヴィアン・ヴリュンデの婚約発表。
ジュリアス国王陛下及びリコネル王妃からも祝われ、会場は祝賀ムードに染まっている。
ヴィヴィアンさんの隣には護衛として立つミランダ。
彼女は多少動きやすいドレスでヴィヴィアンさんの隣に立ちつつも、二人が手掛けた小説が年明けには歌劇になると言うのもあって、人だかりは凄いものがあった。
そして、貴族の方々が一番驚いたのは、私がヴリュンデ伯爵に婿入りすると言う事だった。
しかも、破格の条件を此方がつけての婿入りなのだから、私とヴィヴィアンさんがどれほど愛し合っているのか周囲が気づかない筈はない。
そんな会場の一角には、アリィミア・ダライアスが恨めしそうな表情で睨みつけてくるし、別の一角には黒薔薇の会に所属していた女性たちが群がっている。
その輪の近くには、リシア・シャルルの姿も見えて、彼女は小さく頷くと私に合図を送ってきた。
――黒薔薇の会の女性たちが全員会場に入ってきたことを知らせる合図。
私も笑顔で頷くと、家の者を呼び、独身貴族の男性陣に一通の手紙を手渡していくように伝えた。
無論それは、ジュリアス国王陛下及びリコネル王妃にも手渡すように頼み、数分後には会場は別の意味で騒めいていた。
そして――。
「アリィミア・ダライアス伯爵夫人及び、黒薔薇の会に所属していた者たち。前に出てきなさい」
凛として、それでいて怒りを含むジュリアス国王陛下の声に会場が震えた。
ジュリアス国王陛下がお怒りになるのは仕方ない事よね。此処も想定済みな事だわ。
けれど、理由もわからず国王が怒っているのなら誰もが「どうなさったんだ?」と思うだろうけれど、先ほど手まわした【お手紙】のお陰で、騎士団に所属する方々はアリィミア・ダライアスと、固まって震えている黒薔薇の会に所属していた女性たちを、厳しい眼で見つめている。
「聞こえませんでしたか?」
「アリィミア……? 一体何をやらかしたんだい?」
ジュリアス国王陛下の怒りに震える声色、そして困惑するアリィミアの夫の困惑した声が会場に響き、彼女は何処か諦めた様子で国王の許へと歩いていく。
では、他の令嬢たちはどうかと言うと、一か所に固まったまま動けないでいたのだ。
もう一度ジュリアス国王が「黒薔薇の会に所属している、または所属していた者たち!」と叫ぶと、彼女たちからは悲鳴が聞こえた。
そして――。
「誰でもよいです。黒薔薇の会に所属していた女性たちを知っている者はいませんか」
怒りを抑え、そう会場に問いかけたジュリアス国王陛下に、リシア・シャルルが手を上げて「発言をお許しください」と謝罪したうえで、彼女の周りにいた女性たちを指さす。
「国王陛下、此処で固まっているご令嬢たちが、黒薔薇の会に所属していた令嬢たちです」
「な!!」
「わたくし達を売るつもり!?」
「なんて酷い方なの!!」
「国王陛下から呼ばれているのに、何故あなた方は前に出ないのです? 何かいけぬ理由でもありますの?」
リシアが呆れた様子で告げると、彼女たちは震えあがり、足が竦んで動けなくなったようだ。
そんな様子に周囲を警護していた騎士団は彼女たちを取り押さえると、国王陛下の許へと連れていかれた。
それを合図に、国王陛下は私が用意していた手紙を読み上げる。
彼女たち、黒薔薇の会の活動は作家へ対する誹謗中傷活動、そして、リコネル王妃を陥れるための活動や、ヴィヴィアンさんに死んでもらおうと話していた事まで、事細かに書かれた手紙を読み上げられ、更に――ヴィヴィアンさんを亡き者にした後、どう私を慰めるべきかを語り合っていた記録までも。
「この内容に、身に覚えは?」
ジュリアス国王陛下の問い掛けに、震えていた彼女たちは吹っ切れたように笑い出した。
その光景は、あまりにも不気味としか言いようがない。
「わたくし達、黒薔薇の会は純粋に作家への手紙を書いていただけですわ!」
「作家なのですから、多少の誹謗中傷があるのは当たり前じゃありませんこと!?」
「それが例え国母であっても、同じことですわ!!」
「同意できない事に対して文句を言って何が悪いんですの?」
「本当に!」
「そもそも、ご趣味で執筆してらっしゃるんでしょう? お仕事ではありませんものねー?」
「お仕事でしたらお叱りを受けるのは仕方ないですけれど」
「ご趣味でやっていることに対して文句を言いたくなるのは仕方ありませんわよねぇ?」
「まぁ、お仕事でも文句の一つや二つ、言いたくなりますわよ」
堰を切ったように饒舌に喋りだした令嬢のご家族は顔面蒼白。
貴族達からは白い目、侮蔑の目を向けられても、彼女たちは言葉を止めることはしない。
「誹謗中傷を受けると言う事は、それだけ才能がないっていうことではありませんの?」
「才能のない小説を世に送る方が悪いですわ」
「そういう方々の鼻っ柱を折るのが、本当に面白くって楽しくって!」
「泣きながらアトリエを出ていく作家をみたことありましてよ?」
「羨ましいですわ~!」
最早、彼女たちは言い逃れのできない事を言っているとは気づいていないのだろう。
女子会でもしているかのように、作家が筆を折る姿を見るのが楽しくて仕方ないと語りだす彼女たちに、貴族たちを含め、この場にいる全員が敵意を向けている。
「そもそも、わたくし達アリィミア様のサロンで集まって書いていたんですもの」
「アリィミア様が主な活動を、わたくしたちにお話になってましたわ」
「一番の目標はリコネル王妃の筆を折らせることみたいですけれど」
「リコネル王妃がしぶといっていってましたわね」
「実際しぶといですけど」
「フフフ! 本当に!」
――此処までくると、最早、国への反逆行為としてみなされる事すら、彼女たちは気づいていない。
そして、耐えきれなくなったのでしょうね。彼女たちの親は泣き崩れるか、彼女たちに駆け寄り自分の娘を拳で殴り飛ばす父親すらも出てきたわ。
あちらことらであがる悲鳴。
あちらこちらで泣き叫ぶ母親らしき女性達。
そんな彼女たちを侮辱した表情で睨みつける独身騎士の方々に、貴族の男性陣。
その刹那だった。
「ザマァ見ろヴィヴィアン!!」
「あなたの婚約発表を台無しにしてやりましたわ!!」
「大事な婚約発表に泥がついて、お可哀そうに~!」
「あはははははは!!!」
狂ったように笑い出す令嬢たち。
そんな彼女たちは反逆罪として騎士団に縄を掛けられ、連行されていった。
では、アリィミアはどうなっているのかと言うと、俯き、青い顔をしたまま震え、固まっていたわ。
「……アリィミア」
――そんな彼女の名を呼んだのはリコネル王妃だった。
リコネル王妃は、全ての情報を把握していたのでショックは無さそうだけれど、ガクガクと震えるアリィミアを見つめ、小さく溜息を吐くと静かに口を開かれた。
「あの令嬢たちが口にしていた事は、事実ですの?」
「……ぁ」
「国への反逆罪ですわよ。それを理解して黒薔薇の会として活動しておりましたの?」
「それ……は……」
「そこまで作家が嫌いですの? ヴィヴィアンさんを殺そうと思う程に、憎かったんですの?」
そう冷たく口にすると、リコネル王妃はパンパンと手を鳴らすと、奥から一人の騎士が暴れる男性を押さえつけながらアリィミアの前に男性を突き出す。
暴れて服はヨレヨレになり、髪も乱れた老人――エバール伯爵が縄にかけられて床に転がった。口を押さえつけていた布を騎士が取り払うと、エバール伯爵は血走った眼をアリィミアに向け叫び声を上げる。
「お前の所為で!! お前の所為で全部、全部!!!」
「ヒッ」
「お前は俺に約束した!! ヴィヴィアンとの婚約は上手くいくと!! あの娘の首を絞めて好きに殺せばいいと唆した!! 俺はなぁ……楽しみにしてたんだよぅ……っ 若い娘の首を絞められると思って……楽しみにしてたんだよぅ!!! 責任を取れ! お前の首を差し出せぇぇぇええええ!!」
まるで呪詛のように口にした言葉に、アリィミアは顔面蒼白で汗を吹き出し、伯爵から距離を取ろうとしてその場に倒れこんだ。
「この通り、証言もありましてよ?」
「ぁ……り……リコネル王妃! 違うの!! これは何かの間違いでっ」
「黒薔薇の会の方々は皆さん本音で喋ってらっしゃったわ♪ 貴女も本音で話されては?」
「――……っ」
「そもそも、どうやってエバール伯爵の事を知りましたの? 一部では有名らしいですけれど、貴女はその手の方々とは連絡を取ってなかった筈ですけれど?」
「それは……私の所為ですリコネル王妃様」
「あ……あなたっ!」
リコネル王妃の質問に対し、前に出て行ったのは――アリィミアの夫である、ダライアス伯爵だった。
=======
――断罪の時!!!
ダライアス伯爵は、次回何を伝えるのかはお楽しみに!
★★連載情報★★
月曜~日曜=「エロ小説作家の婿ですが、何か?」更新。
土曜=「異世界転生審査課」更新。
日曜=「転生魔王は寺に生まれる」更新。
※子供の体調などでの変動はあります。
応援よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ
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