第32話 刃物と、やめられない事ですが、何か?
~リコネルside~
「それは……私の所為ですリコネル王妃様」
「あ……あなたっ!」
わたくしの質問に対し前に出て行ったのは、アリィミアの夫である、ダライアス伯爵だった。
彼は深く頭を下げた後、わたくし達へ何故エバール伯爵とアリィミアが接点を持ったのか教えてくださいましたわ。
「婚期を逃しそうな知り合いの令嬢がいると言われ、危険な男性には近づけたくないからそういう男性を教えて欲しいと……彼女に言われ話しました」
「その中で一番危険な男性を彼女は選んだ……つまり、そういう事でして?」
「はい……」
「アリィミア、それは事実ですの?」
そう問いかけると、アリィミアは震えながら小さく頷きましたわ。
ダライアス伯爵は手が真っ白になるほど拳を握りしめ、怒りを抑えているようですわ。
「作家活動を妨害するために誹謗中傷の手紙を黒薔薇の会で書いていた事も、事実ですのね?」
「……」
「ちゃんとお答えしてくださる? そうなのか、否なのか」
わたくしの厳しい声にアリィミアは最早声が出ないまでに震えあがり、顔面蒼白で今にも倒れてしまいそう。
けれど、それ以上の精神的苦痛を作家たちに行った罪は、許すことは出来ませんわ。
「……さぞかし、作家たちの筆を折るのは楽しかったでしょうね?」
にこやかに彼女へ伝えると、周囲の貴族や騎士団の方々は厳しい表情でアリィミアを見つめ、ついにダライアス伯爵は片手で目元を多い涙を流し始めた。
「こんな事をして……っ 何て情けない女を後妻に貰ったのかっ」
「あ……あなた……」
「私は常々貴女に言っていたでしょう? 人の不幸を笑うような女性出なくて良かったと。けれど貴女はそんな私の心までも踏みにじり、裏切った!」
「――……っ」
「今この場で貴女に離縁を申し込みます。貴女のしたことはダライアス家では許せることではない。まだ不倫された方がマシだ!」
そう叫んだダライアス伯爵に、アリィミアは力なくその場に倒れこみ、呆然としている。
それもそうでしょうね……。だって彼女の家はダライアス伯爵のお陰で男爵家をやっと回している状態。
その援助すらも白紙に戻され、更に伯爵家から離縁されて男爵家に戻ったとして、どういう扱いを受けるかは分かったものではありませんもの。
「お……お許しください!! 心を改めます!! どうか離縁だけは!!」
「触るな! お前はそれだけの事をしたんだ! 自分の行動に責任も取れぬものをダライアス家に置くことは出来ない!」
「改心致します!! また貴方の信頼を得る為に努力も致します!! ですからどうか離縁だけはお許しください!!」
「そう言うのは家でやってくださる? 問題は解決してませんわ」
わたくしの言葉に、涙と鼻水で化粧は落ち、ぐしゃぐしゃの顔のアリィミアと、怒りで真っ赤に染まった顔のダライアス伯爵がこちらを向きましたわ。
「先ほどの黒薔薇の会の方々が口にしたことは、事実ですのね?」
再度優しく問いかけると、アリィミアは小さく頷いて「はい」と答えた。
その瞬間、彼女の頬にはダライアス伯爵の手が飛び、彼女はその反動で少しだけ吹き飛んだ。
激しい音が会場に木霊し、アリィミアは鼻水だけではなく、鼻血まで出して呆然としている。
そんな彼女を置いて、わたくしたちに一礼するとダライアス伯爵は足早に去っていった。
――もう、彼女は御終いね。
そう内心呟くと、未だに呆然としているアリィミアに話しかける。
「さぞかし楽しい時を過ごされたでしょうけれど、これでもう、終わりですわ」
「……」
「わたくしへの嫌がらせも、ね?」
ニコリと微笑んでアリィミアを見つめると、彼女はわたくしを見つめ、震え始めると奇声を発したかと思いきや、わたくしに向かって襲い掛かってきた。
けれど、彼女の伸びた爪はわたくしに届くこともなく、その腕を掴んだのは――ミランダさんだった。
「放せぇええ!! ミラノ・フェルン―――!!」
「おやおや! 名前を憶えて貰えて居たことに驚きを隠せないよ! だが申し訳ないね! 君から溢れ出る殺気がリコネル王妃に向いているのを感じて先に動かせて貰ったよ!」
「はなせぇぇええええ!!!!」
「ははは! どうだい? 辛いかい? 悔しいかい? だがね、筆を君たち黒薔薇の会に折られた作家たちも同じくらい苦しかったのだよ。 ――責任を取りたまえ!」
そうミランダが口にすると、アリィミアは宙を舞い床に叩きつけられた。
一本背負いって凄いのね。寧ろドレス姿でそれをやったミランダさん凄いわ。
痛みで動けないでいるアリィミアを騎士団が掴み上げると、彼女は叫び声を上げながら連れていかれた。
静まり返る会場だったけれど、ミラノ・フェルンはワザと大きな吐き、舞台女優のようにわたくしに語りかけてきたわ。
「折角の婚約発表が台無しだ。全く、素晴らしきお祝いの席だったというのに。リコネル王妃もジュリアス国王陛下もそうは思いませんかな!?」
「全くもってその通りですわね」
「ですが、素晴らしいご判断と素晴らしい一本背負いでした。流石、もと魔物討伐隊副隊長ですね」
「お褒めに預かり光栄です」
「折角のダリル・アンダーソンとヴィヴィアン・ヴリュンデのご婚約ですもの。泥を塗る事になってしまって本当に申し訳ありませんわ」
「最も、今ここで彼女たちを食い止めなくては、ヴィヴィアンは殺される可能性があった事を考えると、一網打尽に出来た方が二人の為だったと私は思うがね」
「それもそうですわね! 危険な芽を摘めて良かったですわ!」
そうわたくしが口にすると、他の貴族たちも「まぁ確かに」「確かにそうだ」と同意を得ることが出来ましたの。
その後は国王夫妻から、ダリルさんとヴィヴィアンさん両家に謝罪をし、後日改めて何かしらのカタチで示すことを伝え、その後も数時間、婚約発表会は続きましたの。
黒薔薇の会に所属していた娘を持つ親御さんたちは、先に会場を後にされ、今後は騎士団とのやり取りがご家族で為されるでしょうね。そして黒薔薇の会に所属していた彼女たちは地下牢に一人ずつ入れられ、今は狂ったように叫び声が上がっているとの事でした。
そして、アリィミアは大勢の前で王妃を襲おうとした罪は決して許される事ではないとして重い罪をした者が入れられる地下牢に入れられたと報告が来ましたわ。
「小説活動も含め、何かしら活動をしていれば、感謝の気持ちやお褒めの言葉を貰う事は沢山ある。だがそれと同じくらい、妬みや恨みを知らず知らずに貰う事があると言う事が判明しただけでも、大きな収穫だろう」
「それが、紆余曲折して誹謗中傷になりますのね。まぁ、本当に気に入らないと言う感情もわからなくないですわ」
「でも、人を傷つけるような言葉とは、刃物と同等であると、私は思うね!」
「流石ミラノ・フェルン作家ですわね! わたくしも同じ考えですわ!」
「俺としては妻が大勢の前で、まだ伯爵夫人のアリィミアを一本背負いしたことに、驚きとショックを隠せないっすよ……」
「ミラノの一本背負い……素晴らしいキレ味でしたわね……」
「まぁ、魔物相手じゃないから手加減はしていたみたいだし、骨が数本いったくらいじゃないかしら?」
「失礼だね、ヒビ程度に抑えたに決まっているだろう?」
「「「鬼だった」」」
「私とて、多少の思念が入ることもあるさ」
そう言って遠い目をしたミランダさんに、わたくしも同じように遠い目をした。
確かに、人の心とは多種多様で、面白いと思える作品だったり、つまらないと思う作品だったりするのは当たり前の事。
絵に対しても、思う事は皆さん違ったり、好き嫌いがあるのと同じだわ。
けれど、それらを「嫌いだから」と言う理由だけで傷つけていいものではない事を、黒薔薇の会の方々は知ることが無かったのね……。
――嫌いだから傷つける。
――気に入らないから傷つける。
――思ったのと違うから傷つける。
それは、刃物を振り回して無差別に、無作為に傷つけていることと変わらないのに。
実際に刃物を使って傷つけている訳でない。
相手が血を流している訳でないから、加減を知らずに痛めつけることもある。
だからこそ、文字とは、言葉とは、とても難しい……。
「まぁ、悩んでも仕方ない。だって、私は小説を書くことが好きだ! 好きな事はやめられないのだからね!」
「……ええ、そうですわね。好きな事はやめられませんわね!」
「わたくしも、小説を書くことが好きだと、今は大きな声で言えますわ! これもミラノのおかげかしら?」
「だとしたら光栄だ!」
こうして、波乱があったものの、ダリルさんとヴィヴィアンさんの婚約発表は終わりを迎え、後日アトリエにて再度、ささやかながらも婚約発表会をすることになった。
そして、後日のアトリエでの婚約発表会ですけれど――。
=========
断罪!!!
途中からミランダが、つょい。
でも、彼女だからこそ、まとめるには向いていたかなと思っています。
なんだかんだと正義感が強そうなミランダさんなので。
次回からは、またオスカー視点に戻る予定です。
応援よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ
(終わりも見えてきました)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます