第29話 ダリル姐さんは平常運転のようですが、何か?
~ダリルside~
「あの……ダリルさん」
「どうかしたの?」
「この婚約披露パーティの出席者たちの名簿ですけど……」
私達が婚約したことを大々的に知らせるためのパーティは、一週間後に迫っていた。
そして、色々バタバタとして気が付かなかったようだけれど、やっと出席者の名簿を見たヴィヴィアンさんは、私と名簿を交互に見て困惑しているように見えるわ。
「この方々……黒薔薇の会の方々ですわよね?」
「ええ、あの方々全員に招待状を出しましたもの。きっとお家では騎士団団長の家と繋がりが持てるとさぞかし喜んでいらっしゃるでしょうね」
「でも、その実は違うのでしょう?」
そう言って少し諦めモードのヴィヴィアンさんに私はクスリと笑うと、彼女をソファーにエスコートして隣に座り頭を撫でた。
「婚約発表の場を汚したくない気持ちは解るわ。けれど、これはリコネル王妃様からのご命令なの……別の日にまた親しい人たちを呼んでパーティをするから、それで許してくれる?」
「以前言っていた事ですの?」
「ええ、一網打尽にするというお話ね。今回が一番手っ取り早く一か所に集められて、今を時めく小説家であるヴィヴィアンさんと、今まで謎の人物とされていた私の婚約パーティですもの。その上多種多様の高位貴族達も出席するパーティで、黒薔薇の会の皆さんの首をキュッと絞めてしまいましょうって言う話になったのよ」
「息の根まで止めてしまいそうですわね」
「まぁ、黒薔薇の会所属の方々は、多少なりと自分の人生に汚点を残すことになるし、そんな娘を妻に貰いたい奇特な男性は早々いないとは思うけれど、まぁ、仕方ないわよね。リコネル王妃に喧嘩を売ったのが、そもそもの間違いなのよ……あの方、優しそうに見えて本当に恐ろしい方よ?」
流石、悪役令嬢と呼ばれていた過去を持つ女性。
昔、まだジュリアス国王陛下の前の国王様が国を治めていた時は、悪魔とさえ囁かれた女性でもあるのよね……。
けれど、献身的な国民への働きや、国民を守る為の、そして弱者を守る為の法律の整備等、精力的に働き続け、今では国母となり、数々の実績を築き上げた素晴らしい女性でもある。
――ジュリアス国王陛下が国の盾ならば、リコネル王妃は国の剣。
二人が一緒にいるからこそ、この国は平和で他国の戦争にも巻き込まれずに済んでいる。
「そして、婚約発表パーティでは、ヴィヴィアンさんに護衛が付くことが決まったの」
「わたくしに……護衛?」
「何が起きるか分からないもの。笑顔のままで人を刺してくる人間だっているわ。そ・こ・で♪ ミランダが貴女の護衛に選ばれたの~!」
「ミラノが!?」
想定外だったのだろう。
けれど、事実、ミランダは喜んでこの護衛を引き受けてくれたのよね。
「ミラノが危険にさらされてしまうのではなくて!?」
「安心して。ミランダが魔物討伐隊副隊長だったのはご存じよね?」
「ええ」
「彼女が使っていた武器をご存じ?」
「いいえ?」
「フフフッ ミランダはね、拳と蹴りが武器なの。彼女は刃物なんか使わなくても、拳と脚でモンスターを倒していた女性なのよ♪」
「うわぁ……」
思わず想像してしまったのか、ヴィヴィアンさんはちょっと顔を青くしながら口元に手を当てて驚いていた。
まぁ、実際驚くわよね。
勇猛果敢な冒険者や、騎士団、魔物討伐代だって武器を手に戦うって言うのに、彼女は拳と脚だけで魔物を屠ってきたのだから。
「肉体強化……彼女の武器の一つよ。しかも洗練された肉体強化なのよねコレが」
「洗練されてますの?」
「そうなのよ。彼女が速筆なのは知っているでしょう? あれ、筆を持つ手と腕に身体強化を僅かにかけながら一気に脳内に繰り広げられる物語を一気に書き上げてるの。身体強化を入れすぎると紙が破れてしまうから、本当に少しだけ、でも長時間続けられるのよ。ある意味変態ね」
「プッ」
真顔で告げた言葉にヴィヴィアンさんは吹き出し、私も思わず苦笑いしてしまったわ。
けれど事実 「締め切りは二か月後です! 一本小説仕上げてくださいね!」 なんて言われたら、出来る人間がどれくらいいらっしゃるかしら。
書くだけなら出来るかもしれないけれど、そこから手直し、書き直し、書き足し、セリフの追加……考えただけで頭が痛くなりそうだわ。
「まぁ、話を戻して――今回の黒薔薇の会でご招待した家は、皆さん来られるそうよ。そりゃそうよね、娘がいくら行きたくないと言っても、ご両親が行きたがるに決まってるもの」
「そうですわね……話題の人物の婚約パーティともなれば、招待状を欲しがる貴族なんて考えるのも恐ろしいくらいの人数いそうですわ」
「でしょう? その上、リコネル王妃とジュリアス国王陛下も来られるのよ? 今我が家も急ピッチで会場を磨き上げている所だけれど」
「本来であれば我が家がしなくてはならない事なのに……申し訳ないわ」
「気にする必要はないわ。花婿道具は全部、私が一式揃えてそちらに行くんですもの♪」
「花婿道具……」
「ウエディングドレスも作ったことが以前あるの♪ 持っていくわね♪」
「フフフッ もう、本当にダリルさんったら困った人ね」
「そこが好きでしょう?」
「ええ、勿論!」
そう語り合いながら過ごす時間は、とても幸せな事。
それに、沢山の貴族の好奇な目にさらされるのは、黒薔薇の会の人たちで間違いないのだけれど、万が一、猟奇的な目でヴィヴィアンを狙う者が現れた際、咄嗟に動けるのは、私ではなくミランダの方。
魔物と長く戦ってきた彼女は、相手のふとした動作や、ちょっとした殺気ですら嗅ぎ取るだけの経験は積んできている。
そんな彼女がヴィヴィアンのそばに居てくれれば、どれだけ安心か。
本当に良い友人を持ったと思っているわ。
「最初の大規模なお披露目パーティは前夜祭。本当のお祝いは小さいながらも幸せな空間を用意するわ♪」
「ダリルさんに全てをお任せするわ。わたくしの為に、人生一番の思い出を作ってくれそうですもの」
「責任重大ね♪ でも、腕が鳴るわ!」
そう語り合い、互いの唇を合わせるとドアをノックする音が聞こえ、妹のメルが入ってきた。
手には黒薔薇の会についての報告書。
妹から受け取った書類に目を通すと、やはり予想していた通りの事態が起きていた。
――まぁ、大きな失態をしたリーダーの元には誰もいたがらないわよね。
けれど……もう遅いわ♪
「メル、この報告書の裏は取れているかしら」
「勿論ですわ」
「じゃあ、バラバラ散った薔薇が行きつく先は何処かしらね?」
そう言って一通の手紙を見せると、名前を見てメルは「なるほど」と口にし、私から手紙を受け取ると部屋を出ていった。
「誰からのお手紙でしたの?」
「ああ、アレは私の友人からのお手紙よ」
「パーティには来られますの?」
「ええ、もちろん」
バラバラに散った花びらを引き連れてね♪
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アクセス頂き有難うございます。
ダリルさんの友人、誰でしょうね。
物語の初期の方に少し名前だけ出てきてその後登場していませんが
満を期して登場してきます(笑)
どちらにしても、ダリルさんを敵には回したくないなーとつくづく思った次第です。
うん、彼は怒らせたらダメだ、恐怖である。
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