第28話 崩れ行く黒薔薇の会ですが、何か?

 ~アリィミア・ダライアスside~



「結婚にお勧めしない男性かい?」

「ええ、お知り合いの娘さん、婚期を逃しそうなの。でも、おススメではない男性っているでしょう? どんな方がお勧めではないのか知りたくって……下手に危ない男性をご紹介するわけにも行かないもの」



 誰か結婚的定期の男性はいないか――と言わんばかりに相談してみたわたくしに、老いた夫は暫く考え込んでから、幾人かの男性の名を口にしたわ。

 その男性たちは各自、本当に奇抜と言うか、変態性が凄いと言うか……聞いているわたくしの方がぞっとするような男性ばかり。

 ――この中からヴィヴィアンさんの夫を探すのは苦労するわね。

 そんな事を想いながら夫の会話を聞いていると、その中でも一際危険な男として紹介されたのが、エバール伯爵だった。

 ヴリュンデ伯爵と年も近いその伯爵は、女性の首を絞めながら行為に及ぶことに、何よりも興奮し、それで亡くなった婚約者、及び、娼婦は数知れず。

 娼婦に至っては、生きて帰ってくる者がいない……そう言われている男性らしい。



「まぁ! なんて恐ろしい男性なの! とてもご紹介できませんわ!」

 ――まぁ! なんて素晴らしい男性がいたのかしら!!


「そんな男性と結婚しては、何時殺されるか分かりませんわ!」

 ――そんな男性と結婚して死んでくれれば、とっても素敵!



 恐怖におののく様にそう告げると、夫はわたくしを支え更に言葉を続けた。



「そうだとも、とても危険な男だ……いいかい? 君も絶対に関わりを持ってはいけないよ? 相手を下手に刺激すればこちらとて何を報復されるか分からない程に危険な相手なんだ。君が傷つく姿は見たくはないよ。だから、ご友人の令嬢の結婚相手を探しているのであれば、彼らを外して良き相手を探すようにね」

「ええ、是非そうさせて頂きますわ」



 心配する夫から良い情報を聞き出したわたくしは、その日の内にエバール伯爵へ手紙送り、数日後には「一度お会いして話を聞きましょう」と返事が届いた。

 我が家で会えば、夫がどれだけ驚くか分からない為、エバール伯爵の屋敷へと向かい、彼に淑女の挨拶をすると、前もって用意させていたヴィヴィアンさんの姿絵を手渡す。



「おやおや……ひひっ ヴリュンデ伯爵の一人娘か」

「まぁ、ご存じでしたの?」

「そりゃぁ、あの伯爵にしては出来の良い娘だって評判だよ。父親の所為で男性恐怖症なのも有名だねぇ……そうかいそうかい、この子を娶ったら、さぞかし楽しいだろうねぇ。一体何日生きて居られるかねぇ」



 ゾクッとする言葉。

 エバール伯爵にとって女性とは、首を絞める相手であって、それ以上でもそれ以下でもない。

 部屋に転がる首のちぎれた人形たちは、とてもリアルで……狂気に満ちたこの部屋は、エバール伯爵の兄が用意し、彼を閉じ込めておくための場所。



「この年になってもお人形遊びなんて飽き飽きでねぇ……ひひっ あぁ、久しぶりに温かい首が触りたいなぁ……首を絞めあげてもがく女がみたいねぇ」

「その為の結婚ですわ。どうかしら、ヴィヴィアンさんとご結婚する気はおありになりまして?」

「結婚? たった一人の首を絞める為に結婚までするのは、中々に骨が折れるねぇ。しかも婿入りだろう?」

「娘が死ねば、あちらの伯爵と二人、屋敷で好き放題できましてよ?」

「――好き放題」



 この言葉にエバール伯爵は顔を上げて、ニチャリと笑った。



「誰からも咎められることなく、二人で楽しめば宜しいでありませんの」

「それもそうだなぁ……いくらかの資金はこちらで用意して持っていけばいいしなぁ」

「そうでしょう? 素晴らしい結婚になりますわよ」

「まずはお見合いして、彼女の首触りを確認したいなぁ……そうだよ、首だよぅ」



 そう言ってわたくしの首を見つめるエバール伯爵に、持っていた扇をパンと広げて顔と首元を隠すと、とても残念そうな表情をされたわ。

 気味の悪い男。

 でも、ヴィヴィアンさんに、とっても相応しい男性だわ。


 こうして、エバール伯爵も乗り気になってくれて、その日の内にヴリュンデ伯爵に素晴らしい男性とのお見合いがある事、そして、いくらかの金銭的な援助があることも伝えると、あとはとんとん拍子に進むと思っていた。

 それなのに――……。



 城で行われたパーティで、わたくしたち黒薔薇の会も参加して今後どう動いていくのか様子を見ましょうと、ヴィヴィアンさんを観察していたら、見たこともない美しい男性が常に彼女の隣にいた。

 彼女についての情報は常に新鮮なものを入れていたはずだけれど……。

 そして、ヴリュンデ伯爵がヴィヴィアンさんの許に行き、今回のお見合いの話を切り出すと、彼女は家長の命令でもあるお見合いを断った。

 その場で叩かれる。馬鹿な女、床に這いつくばればいい。


 そう思ったのに――。



「まぁ落ち着いてください伯爵」

「なんだ貴様は!」

「お初にお目に掛かります。私はダリル・アンダーソン。騎士団団長の長男と言えばお分かり頂けるかと」



 その言葉に、わたくしたち黒薔薇の会の皆さんは息を呑んだ。

 騎士団団長の長男……国の中枢に存在する伯爵家の一人で、更にその長男!?



「エバール伯爵とご自身の大事な一人娘であるヴィヴィアンさんを結婚させるおつもりならば、その役目、是非私に譲っていただけませんか?」

「え!?」

「なんだと……? ははは! アンダーソン家の長男が我がヴリュンデ家に婿入りするとでも言うのかね!? 面白い冗談だ」

「ええ、家督は弟が継ぎますから、私は婿入りしても構いません」



 その一言は最早声にならない悲鳴が出た。

 それは黒薔薇の会の皆さんも一緒で、それぞれが顔を赤くしたり青くしたりと忙しいの。



「むむぅ……確かにエバール伯爵よりは君の家の方が確かに上だが……」

「私は父に好きなようにして良いと言われております。恋愛結婚しても良いと。なので、素晴らしいこの機会ですし、是非、ヴィヴィアンさんと私の結婚を視野に話を進めませんか? お家にとってもマイナスになることは一切無いかと思いますし、何より騎士団長の家と繋がることを考えれば、プラスしか無いかと思いますが?」

「ダ……ダリルさん」

「話は後でしよう、ヴィヴィアン。だが君にも決めて欲しい。私と結婚する気はあるかい?」

「もちろんですわ」



 ――待って!! ダメよ!!

 そう叫びたくても叫べない。

 夫は隣で拍手をしているし「なんて素晴らしい」と感動してしまっている。

 そんな夫を睨むことしかできないけれど、まさか騎士団団長の長男と付き合っているなんて情報は一つも入ってきてないわ!



「しかし、エバール伯爵は我が家に多大なるお金を用意してくれると言っていた。君が用意できるのは確かに……追々それ以上の素晴らしいものになるな」

「そうでしょう? アンダーソン伯爵家から婿を取れば、嫌でも家に箔がつきます。しかも、大事な一人娘が恋愛小説を書いていて誉れを貰った、そのたった一人の愛娘が恋愛結婚するんですよ。こんなにも恵まれた結婚は他に無いでしょうね。誰もが羨む結婚です。どうです? 一度考えていただけませんか?」

「ふはははは!! アンダーソン伯爵の長男にそこまで言われては断れないでは無いか!」

「では、明日にでもお伺いし、話を詰めていきましょう」

「そうしよう! エバール伯爵には申し訳ないが、我がヴリュンデ伯爵家はアンダーソン伯爵との繋がりを喜んで受け入れよう!」



 ――あのバカ伯爵!!!!

 わたくしからの縁談を断り、アンダーソン家との繋がりを持ってしまったわ!

 こんなことをエバール伯爵が知ればどれ程お怒りになるか……。

 顔色を青くするわたくしとは違い、夫は割れんばかりの拍手を行い、その後突き刺さる視線を感じてハッとした。

 そこには、黒薔薇の会の皆さんが立っていて……まるでわたくしに落胆したような表情を浮かべていたの。



「アリィミア様……」

「わたくしたち気分が優れませんので帰りますわ」

「わたくしも」



 一人、また一人とわたくしの元さって行く黒薔薇の会の皆さん……。

 帰りたいのは、わたくしの方よ!!

 余りにもショックで。

 今後の事を考えると不安で。

 でも、どうすることも出来なくて!

 わたくしが苦しそうにしていると、夫が気づき医務室へと運ばれた……。


 ――精神的なものからくる過呼吸。


 そう診断されたわたくしは、安定剤を貰うことになり、夫に支えられながら家に帰った。

 そして二日後、エバール伯爵からの呼び出しの手紙が来たけれど、体調不良を理由にお断りして、あんまり芳しくない体調のまま黒薔薇の会に参加する。


 参加者は……とても少なった。



「あら? 他の皆さんは?」



 そう問いかけても返事はない。

 数人は困った表情を浮かべ顔を見合わせているばかり。



「それが……」

「脱会はまだしていないみたいなですけど……」

「ヴィヴィアンさんの事が皆さんショックだったみたいで」



 そう申し訳なさそうに口にしたのは男爵家の娘だったかしら。

 確かに、まるでシンデレラストーリーを見たような気分だったものね。

 自分たちが散々馬鹿にした女が、この上なく幸せになるシーンを見てしまっては、精神的に来るのは仕方ないわ。



「それであの」

「何かしら」

「私たちも……黒薔薇の会を脱会しようと思うんです。すみません」



 そう言って脱会届を机に置く彼女たちに、わたくしは「好きになさい」とだけ言うと彼女たちは去っていった。

 ――あんなにも賑わっていたのに。

 ――あんなにも、他人を陥れることが楽しかったくせに。

 いざ、その相手が、自分たちでは手の届かない男性と結婚が決まったとなると、手のひらを返すように、原因を作ったのをわたくしに押し付け去っていくのね。



「忌々しい……ヴィヴィアン・ヴリュンデ!!」



 わたくしは持っていた扇を折り、床に投げ落とすと肩で息をし、落ち着くまでその辺にある物と言う物に当たり散らしてから、気分が少しだけ良くなり部屋を後にした。

 それから数日後の事だった。

 ――我が家に、ダリル・アンダーソンとヴィヴィアン・ヴリュンデの婚約記念パーティの招待状が届いたのは……。





=====

登り詰めた階段を転げ落ち始めました。

人生、悪いことは重なっておきますよね……私も経験あります。

信号無視の車に撥ねられた挙句、大事にしていた筆箱が壊れるとかね、

懐かしいですが、当時はショックだったものです(遠い目)

ちなみに、自転車はお亡くなりになりましたが、私はかすり傷でした。


さて、此処までは書き溜めが出来ていたので予約投稿です。

今から執筆頑張って、続きを頑張ろうと思います(`・ω・´)ゞ


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