第26話 基本的なやり方のようですが、何か?
~ダリルside~
――嫌とは言わせない様に言い回しを考えるのは得意だった。
――NOを言えぬように、立ち振る舞い、気分を高揚させ、大勢の居る場で言質を取った。
――逃げ場は潰す。追い込む、必ず得る為に。
それが、私の基本的なやり方。
父も、そういう私の性格を理解していて、騎士団よりは諜報部に向いていると言ってくれているし、私の趣味を理解して、家督はシッカリ者の弟が継ぐことを許可してくれた。
――理解ある家族。
それは、今回私が結婚を決めたことについても同じだった。
「お兄様、ご結婚されるんですのね」
「お兄様はやめて頂戴! お姉さまって呼んで欲しいのに~」
「ふざけるのは後にして下さい。お兄様、本当にヴィヴィアン様とご結婚されるんですね?」
「今日のアレで理解出来なかったのかしら?」
「そういう訳ではありませんが、婿に入ると言うのも本気なんですね?」
「勿論よ」
「では、僕は止めることはしません。ヴィヴィアン様と末永くお幸せになってください」
「義理のお姉さまが今を時めくヴィヴィアン様なんて素敵ですわ~!」
と、弟のアランと妹のメルにお祝いされる家の中。
あのパーティの後、ヴィヴィアンをアトリエに送り届け、私は久しぶりに家に帰って今日の出来事――主に、私が結婚を決めたことについて盛り上がっていたの。
無論、お仕事をしながらだけれど。
黒薔薇の会に入っているのは、我が妹、メルだった。
諜報部でもフットワークが軽く、偽名を使い、あの手この手で情報を得てくる出来た妹は、書類を私に手渡すとニコニコした様子で嬉しそうにしていた。
頼んでいた依頼。それは、今回のヴィヴィアンさんへ対する結婚に関する情報を纏めて欲しいと言う事。
以前からヴィヴィアンさんに関する事については、気を配っていて欲しいと頼んでいたので、あのパーティの後でも直ぐに書類に纏めてくれたのは助かったわ。
今回のヴィヴィアンさんのお見合い相手、エバール伯爵は【首絞め伯爵】として有名な、ある種の殺人鬼。
彼に呼ばれた娼婦は必ず死体になって帰ってくると専ら有名な老人。
そんなご老人との結婚を、一体誰がヴリュンデ伯爵に紹介したのか……それは調べるまでもなかったけれど、一応こちらでも確認を取っておきたかった。
私は書類を読みながら珈琲を飲み、書かれている調査報告書を机に置くと、とてもいい笑顔でこう口にした。
「本当に、黒薔薇の会は素晴らしい場所ですのね」
「そうですわね。作家の筆を折らせることが主の目的でしたのに、今ではどう相手を殺そうかと躍起になっているように思えますわ」
「そうなのね♪ 愚かな彼女たちを、ちょっと懲らしめましょうか♪」
「ふふふ! お兄様がそうなってるときって、怖いですわ♪」
「ええ、本当に」
「そりゃそうでしょう? 愛する次期妻に対して牙を剥いたんですもの。それなりの覚悟があってなさったことなんでしょう?」
ニッコリ微笑んで口にすると、弟と妹は顔色を青くしていたけれどなぜかしら?
そんな事よりも、今日我が家から使いを出して、明日にはヴリュンデ伯爵が我が家にお越しになられるし、私も暫くは長男とて男らしい口調と服装でいかなくてはならいわね。
その前にヴィヴィアンさんをお迎えに行って、早めに彼女を我が家に呼んでおかねばならないし、家長同士が婚約を決めてしまえば、特に我が家のような家柄との結婚を断る事は無いとは思うけれど、万が一を考えてガッチリと決めるところは決めないといけないわ。
それにしても――私が結婚か。
こんな性格と趣味だからか、何人かと婚約したことはあっても、全員からお断りされたのが懐かしいわね。
まぁ、どの女性も素敵ではあったけれど、やっぱりタイプではなかったわ。
その点、ヴィヴィアンさんは全てにおいてパーフェクトな女性。
見た目もそうだけれど、彼女の持つ内面性……あれは尊いものがあるわ。
彼女を理解すれば理解するほど、沼に入るように逃げられなくなるの。
彼女を欲すれば欲するほど、沼のように私に嵌って欲しいと思ってしまうの。
まぁ、その結果があの場でのプロポーズになってしまったけれど、後悔はしてないし、ヴィヴィアンさんも後悔はしないでしょう。
ありのままの私を受け入れるヴィヴィアンさんの魅力は、彼女のすべては、私だけが知っていればいいのよ。
――他の男に取られてたまるもんですか。
その後、城から帰宅した父に情報を手渡し、中身を家族で精査した後、明日の朝一番にヴィヴィアンさんをお迎えして婚約に向けて動き出すことになった。
父も上手く動いてくれると言ってくれたし、金銭面についての言及があった場合も何とかして貰えるみたい。
寧ろ――。
「お前のその趣味すら理解する女性を他の男に取られてたまるか。必ず手に入れなさい。その為に必要な事は、我が家が全面的に手助けしよう」
「助かるわ♪」
父もヴィヴィアンさんとの結婚を喜んでいるようで、全面的にバックアップしてくれることが決まった。
明日に備えてお風呂に入ってパックも念入りにし、何時もより良い男な私が誕生すると、鏡の前で満足して眠りについた次の日――。
何時もより早めに目が覚めた私は、朝食をシッカリ摂ってから本来の男の姿に戻り、アトリエへヴィヴィアンさんを迎えに行ったの。
既に起きていたヴィヴィアンさんは、私を見るなり顔をボンッと赤くし、とても照れていたわ。
「まぁ、どうしたの? ヴィヴィアンさん」
「ごめんなさい……昨日の事が夢じゃないって解ったら恥ずかしくって……」
「恥ずかしいって?」
「だって……キス……」
可愛らしく照れる彼女に、ミランダ曰く【萌え】を感じつつも余裕ある男性のふりして彼女に歩み寄り、頬にキスを落とすと優しく馬車へとエスコートする。
優しく。
何処にも行かせないように。
逃げ出さないように。
逃がさないように――。
彼女と一緒にアンダーソン家の馬車に乗り込むと、私達を乗せた馬車は実家へと走り出す。
さぁ、今からが色んな意味で本番だわ。
黒薔薇の会がそういう方向で作家を、ヴィヴィアンさんを苦しめに来ると言うのなら、最早容赦はしないし、徹底的に潰しに行くわよ。
――今までが優しくし過ぎたのね。
――でも、もう優しさは必要ないものね。
馬車が家に到着すると、彼女を客間へと案内した。その時執事から一通の手紙を受け取り、私は中を読んでから頷くと、コッソリその手紙は暖炉に捨てて燃やした。
上からの許可は貰ったわ。
こうなったら徹底抗戦よ。
笑顔で今にも爆発しそうな感情を抑え込み、ヴィヴィアンさんのお父様をお待ちしつつ、私は妹に、とても口の滑りが良くなるお茶を用意するように頼んだの。
そうとも知らず訪れたヴィヴィアンさんのお父様は上機嫌で客間に来たし、私のお父様も私を見て、笑顔でアイコンタクトを取ってくれた。
――さぁ、義父様。色々お話ししましょう?
――貴方も黒薔薇の会を追い込む為に必要なナニカを持っているでしょう?
「では、我がアンダーソン家の長男、ダリル・アンダーソンと、ヴリュンデ伯爵家のヴィヴィアン・ヴリュンデ様との婚約を進めさせていただくが宜しいかな?」
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ダリルさんsideの話が少しあって違うのがあって、またダリルさんにーと
ダリルターンが入ってます。
寧ろダリルゾーン(笑)
読者様から「ダリルさん主役の小説が読みたい!」と言われたので
そのうち書きます。
んん、でもダリルさんファンは他におられるんだろうか……。
作者的にはファンですが(笑)
現在月曜日分まで執筆完了中です。
もう少し執筆頑張ります(`・ω・´)ゞ
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