第3話 執筆を応援したい気持ちに嘘は無いですが、何か?
ミランダと一緒に生活をしていて思う事がある。
それは、小説を書くと言う事、つまり執筆に対してだ。
俺はどちらかと言うと、答えは一つである、と言う視点から動くことが多い。
解りやすく言うと【1+1=?】と考えた場合、普通は【2】と答えるだろう。
だが執筆をしているミランダにとって、【1+1】は【3】であったり、【4】であったり、数字がバラバラなのだ。
答えが一つではないと言う感覚は、俺には中々理解できない事の一つでもある。
しかし、彼女にとっては、それは当たり前のことで、ミランダに一度問いかけた際、「人の感情に答えがあるのだとしたら、答えが一つである必要性はあるのかね?」と不思議そうに言われたことがある。
確かに、十人十色と言うように、人の考えとは10人いれば全く違う。
それぞれが考えを持ち、それぞれがその考えに基づいて歩いていく。
指示をされたとしても、それを全うできるかと言えばそうではない。
受け取り方次第で、それら全ては違ってくるのだ。
つまり、そう言う根本があるからこそ、柔軟な考えの元で小説が書けるのだろうと思うし、それは脳科学的に解明したくても解明できない事なのかもしれない。
絶対的な数値を基にする。
これは一般的な考え。
だが、ミランダには絶対的数値と言うものが見当たらない。
どこまでも柔軟に、どこまでも視点を変えて、そうやって物語を書いていく。
何が言いたいのかと言うと、ミステリアスなのだ。
小説を執筆している彼女を見ていると、彼女の事を隅々まで知っているのに、彼女の事がまた解らなくなるのだ。
近づく。
遠のく。
近づきたい。
遠のいていく。
この二つの絡み合いが癖になった時、俺はやっと彼女が小説を書くと言う事を受け入れることが出来たのかもしれない。
それに、執筆している時の彼女は、とても魅力的なのだ。
何時もは賑やかな彼女が、真剣な表情で執筆に全力を注いでいる姿は、とても魅力的にも見える。
それでも、どうしても甘えたい時だってある。
自分だけを見ていて欲しいと言う独占欲が顔を見せるときがあるのだ。
そういう時は、彼女から静かに離れ、自分だけの時間に没頭する。
寂しい。
応援したい。
甘えたい。
応援したい。
「俺だけを見ろ」
小さく呟く声は暗い部屋に溶けて消える。
執筆に忙しい妻に対し少しだけ愚痴が出てしまったが、少しぐらい愚痴が出ても仕方ないんじゃないだろうか?
きっとミランダがこんな俺を見たら「ガキじゃあるまいし! そんなに甘えたいのかね!?」 と言って抱き着いてくるだろう。
「そもそも、クリスタル様の容赦ない要望と書き直しの言い渡しは、かなり俺にとってもキツイっす………」
自室でソファーに沈み込むように寄りかかると、ついつい文句が口から出てしまった。
あれだけの長い小説を書いた上に直してこいと笑顔で言ってのけたクリスタル様。
妻の頑張りくらいは認めて欲しい所だが、妻は妻で、まるで闘いでもしているのかと言わんばかりに「受けてたとうではないか! 激しく萌える為に!!」 と原稿を持って帰ってきてしまった。
嫌がらせのように部屋の一部に陳列されている妻のエロ本の数々を見つめ溜息が零れる。
小説一本仕上げるのに、作家とはとんでもない力をぶつけるのを見ているからこそ、あまり妻を滾らせてほしくないのだが……。
「むう」
手直しが入ると、短くとも一週間、長くて一カ月は放置される。
辛い、正直、結構辛い。
その間にやる事は沢山あるものの、妻の反応がイマイチになってしまうのは辛い。
そんな時、我が家では男性陣による集まりが行われるようになったのも、致し方ない事だろう。
ノックの音に体を起こし返事をすると、義理の父であるミハエル様と、ヴェン爺さんが部屋に入ってきた。
「ははは、その様子だとミランダは手直しを言い渡されたようだね」
「そうなんっすよ……こうなると長くって困る」
「まぁ、ワシはファンじゃからな。新しい小説が出るかと思うと応援したい気持ちの方が強いぞ」
そう、何気にヴェン爺さんはミラノ・フェルン作家のファンだった。
更に言うと、親馬鹿なミハエル様も妻のファンである。
娘がエロ小説作家であることは、彼にとって些細な問題であって、エロの奥にある人間模様がとにかく好きだと前に五時間語られたことがある。
そして、何故このジョルノア伯爵家に庶民のヴェン爺さんがいるかというと、ミランダの我儘を押し通した結果としか言いようがない。
老い先短い老人を見捨てて伯爵家に入るつもりはないとでもいったのだろう。
結果、父親であるミハエル様が折れて、今は貴族ではないにしろ、家ではミハエル様の諜報部の手伝いをしているようだ。
「今回の手直しはどんな感じになるのかね?」
「全面的にエロをもう少しオブラートにっす」
「直ぐにオープンで書いちゃうからねぇ……」
「そうなんすよ……書き終わったら一応目を通すんすけど、とにかく、エロい」
「執筆終わって直ぐ読ませてもらえるなんて、ファンとしては涎が出ちゃう作業だろうに」
「ワシにも読ませてくれんかのう」
「爺さん心臓止まるかもだからやめた方がいっす」
「そこまでか」
正直、俺だって下半身が反応するような書き方をするんだ。
爺さんが読んだら心臓が止まっても仕方ないかもしれないくらいの内容だ。
血圧あがりまくりだろう。
「とりあえず一か月くらいは我慢するっす……禁欲生活っすね」
「それはキツイな」
「一人で発散かね、虚しいが頑張り給え」
「浮気はしないっす」
こうして一か月、俺は一人で発散という悲しい生活で何とか堪え……妻の脱稿を待つので――そして何より、妻から嫌がらせのように貰っていたエロ小説が役に立ったとは、絶対に言えない秘密である。
==========
此処まで読んで頂き、有難うございます!
【妻シリーズ第三弾】(多分ラスト?)になる
「エロ小説作家の婿ですが、何か?」がスタートしました!(/・ω・)/
今回は婿さん視点で進んでいきます。
また、小説家だけではなく、絵師な方々も登場してくる今回の作品。
読者様にとっても、なじみ深い感じになるかも知れません。
また、妻シリーズ全部から、キャラが登場したりします(笑)
既にリコネル様出てきてますし。(妻は悪役令嬢(?)で押しかけ女房です!より)
前回完結した、バーサーカーの妻になりまして! からもキャラが登場予定です。
第一弾、第二弾は「本当にクズやな!」ってキャラが出てきましたが
今回も多分出てきます。
でも、第一弾、第二弾ほどの者ではないかも知れないので、多少はご安心下さい。
(あくまで予定です)
前回完結してから日にちが余り経ってない中での連載スタート。
度々止まることもあるかも知れませんが(子供の風邪等など……)
その時はご了承ください。
出来るだけ毎日更新致します。
また、ハートでの応援などありましたら励みになります!
どうぞよろしくお願いします(`・ω・´)ゞ
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