第15話 やっと解放されるユーフェ
「こんなに? 多くない?」
イワンから手渡された皮袋の重さに驚いた表情を浮かべる。そもそもの重さも分かっていないのだが、大量に入っているのは重さから判断出来る。
何度も皮袋を持ち上げ確認していたユーフェが不思議そうな視線をイワンに向けると苦笑が返ってきた。
「当然だ。スライムの魔石が銀貨15枚。シルバーウルフファングの毛皮で銀貨3枚。スライムの魔石を取り出す情報料が大銀貨2枚になっている」
「「「 大銀貨2枚! 」」」
イワンの説明にユーフェよりもライナルト達が驚いた表情を浮かべる。大銀貨1枚は銀貨100枚と同じであり、ユーフェが手に入れた銀貨は218枚となった。
「しばらくはゆっくりできそうですね。ありがとうございます」
説明を受けたユーフェの反応は淡々としており、一同は驚いた表情を浮かべていた。だが、ユーフェからすれば銀貨218枚と言われてもピンと来ておらず、しばらくは宿暮らしが安泰である程度にしか思っていなかったのである。
「ユーフェちゃん。銀貨218枚だよ? もうちょっと喜ぶとか……」
マグナアルカナでは所持金は数字でしか表示されておらず、アイテムボックスの中に収納されている財布には大量の金額が数字で見えており、銀貨218枚が多いのか少ないのか分からない。
だが、イワン達の反応を見ると、かなりの大金であり淡白な反応もまずいと思ったユーフェは、ぎこちない笑顔を浮かべて両手を上げて喜んだフリをする。
「わ、わーい。いっぱいお金が稼げて嬉しいなー」
あまりにもの大根役者っぷりを見せつけられたイワン達が呆れたような表情を浮かべていたが、会議室の利用終了時間が迫ったのでギルドの酒場に戻った。
「いいか。絶対に儲かった金額を周囲に教えない事。あと、俺たちが居ない時に困った事があれば受付嬢に声をかける事。いいね」
「分かりました。色々とお世話になりました。またギルドで見かけたら声を掛けますね」
「是非ともそうしてくれ。俺達は別の依頼を受けているから、明日には街を出る予定なんだ。次に戻ってくるのは1週間後になるだろう」
子供に対する注意事項のように伝えてくるイワンにユーフェは苦笑しながら答える。さらに色々と言っているイワンに、ユーフェは皮袋から大銀貨を1枚取り出すとイワンに手渡そうとする。
「色々とお世話になったお礼です」
「大銀貨は多すぎるな。ユーフェが渡したいとの気持ちに応えて銀貨1枚と銅貨3枚をもらおうかな」
「そうそう。それよりも気持ちをいっぱい欲しいな」
「そうだな」
「銀貨1枚でも多いくらいだよ」
「銀貨1枚でいいなら助かりますが銅貨3枚? ……ああ、なるほどです。じゃあお言葉に甘える変わりに気持ちをいっぱい込めさせてもらいますね!」
イワンが受け取りを拒否しながら金額を提案する。それに合わせてライナルト達も笑いながら受け取りを断りを入れてる。そして銅貨3枚が入場税だと気付いたユーフェはイワンの気遣いに感謝の笑みを浮かべながら、銀貨と銅貨をイワンへ手渡すのだった。
◇□◇□◇□
イワン達と別れたユーフェは教えてもらった宿屋を探していた。冒険者ギルドからそれほど離れておらず、歩いてすぐの場所であり外観も落ち着いた感じでユーフェは一目見て気に入った。
「すいませーん」
「いらっしゃい。宿泊かい?」
扉をくぐりながら声を掛けたユーフェに宿の女将さんらしき女性が答える。イワンの紹介で長期間の宿泊を希望する事を伝えると、女将は嬉しそうにしながら宿帳を取り出した。
「イワン達の紹介なら少し宿泊料をまけてあげようかね」
「ありがとうございます。イワンさんと知り合いなんですか?」
宿帳に記載しながらユーフェが確認すると、イワン達が駆け出しの頃に依頼を多数受けてくれていたとの話で、依頼以外でも仲良くしているとの事であった。
「あの子らはお人好しすぎるからねー。ちょっと心配なんだよ」
「ふふ。そうですね。それは私も思います。本当に良い人たちですね」
宿帳を渡しながら笑って答えるユーフェに、女将も笑いながら受け取ると鍵を手渡す。
「1か月も宿泊してくれるのかい? ある程度でいいから前払いをしてもらえると助かるけどねー」
「もちろんですよ。朝食も込みにしたいんですけど、おいくらいになりますか?」
朝食代込みで1か月銀貨3枚と説明されたユーフェは、全額をその場で支払い鍵を受け取ると部屋に入った。
「女将さん、良い人だったな。体を拭くお湯もサービスしてくれるなんて」
部屋に入ったユーフェは備え付けのベッドに横たわりながら怒涛の初日を振り返るのだった。
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