第10話 ステータス画面を見て驚く

「え? 冗談だよな?」

「流石にレベルの見かたが分からないなんて嘘でしょ?」


 健亮ことユーフェが本気で分からない表情を浮かべている様子に、愕然としながら男性陣は顔を突き合わせながら話し始める。


「本気みたいだぞ?」

「嘘だろ? 貴族のお嬢様かと疑っていたけど違うみたいだな。俺達より貴族の方が詳しいからな」

「じゃあユーフェちゃんが知らないフリをしているって言うのか?」

「そんな感じじゃないよな? 記憶がないとか?」


 まさかユーフェが夢を見ているだけで目が覚めれば元の世界に戻れると思っているとは、つゆも思っていない男性陣に向かって笑顔で話しかける。


「それでレベルの確認方法ってどうするんですか?」


「あ、ああ。右手を前に出して【ステータス】と唱えるんだ。目の前に画面が現れるから、他人に見せたくない項目があればタップして非表示にもできるよ。……って、本当に知らないんだね」


 少し呆れた表情を浮かべているライナルトに曖昧な笑顔を向けながら、ユーフェは右手を前に出すとステータスと唱えた。


「おお。これが俺のステータス画面なのかーーえ? ここってファースペスの街? そ、そんなまさか、ここは現実の世界だって言うのか? 冗談だろ。夢なら醒めてくれないか……」


「ああ、ここはファースペスだよ。なんだ知ってるじゃないか。初めて来た街だと聞いていたのに違うのか?」


 男言葉になっている事も、イワンから問い掛けられている事も気付かず、ユーフェは表示されているステータス画面を茫然と眺めているのだった。


◇□ ◇□ ◇□


名前:ユーフェ

年齢:15才

性別:女性

職業:魔法戦士

所属:ファースペス

レベル:1

所有スキル:拡張縮小魔法(特殊スキル)、アイテムボックス(課金スキル)

経験値:0


「これって現実なのか? 感じる風も踏み締めている足の裏の感触も、見えている景色も鮮明だと思っていたが本当の話なのか? いや、まだワンチャンある。宿で寝たら元の世界に戻っているかもしれない。レベルが初期値だぞ。もし転移していたのなら、あの時のレベルになっているはず!」


 表示された画面を見ながらユーフェは青い顔でなんとか自分を納得させようとしていた。


 心配そうに自分を見ているイワンやライナルト達の視線を気にかける余裕もなくユーフェは情報をさらに集めようとする。


「……。【アイテムボックス】はあるのか。2000円もした課金が表示されるのは嬉しいな。アイテムも色々と入れてたけど残っているのか。……オープン」


 混乱が続くユーフェだがアイテムボックスを開いて安堵のため息を吐く。中には課金アイテム購入特典や貨幣の他に、復帰してからのクエストの報酬や素材が並んでいた。


「夢と思うのは無理があるなよな。『マグナアルカナ』の世界にやってきたのか? 夢なら醒めて欲しいが……。異世界転移は小説で読むから楽しいんだよ。自分が飛ばされても何も出来ないぞ」


「ユーフェ!」


 青い顔のままブツブツと呟いているユーフェを心配したライナルトが鋭く声を掛けて肩を揺さぶる。


 これが夢ではないとの衝撃に動揺していたユーフェだが、心配そうに自分を見ている男性達の表情になぜか安堵感を覚え小さく笑った。


「ごめんなさい。少し思い出した事があって」


「大丈夫か? 無理に思い出す必要はないんだぞ。ちょっとギルドの食事処で休憩しよう」


 まだ青い顔のままのユーフェを気遣ってイワンが声をかける。ギルドは歩いて数分の場所にあり、イワンを始めてとしてユーフェ達がギルドに入ると視線が一斉に集中した。


 その視線のほとんどが自分を見ていると分かったユーフェが思わずライナルトの背後に隠れる。そして確認しようと大きな背中から顔を出すとどよめきが起こった。


「可愛い」「運命の相手を見付けた」「お嬢さんこっちに来ませんか?」「イワン。ついに犯罪に手を染めたか。ライナルトもいるのに何をしているんだよ」「早く捕縛しないと」


「攫ってねえ! それと誰だよ。今、犯罪だなんて言った奴は!」


 冒険者達のからかいの言葉にイワンが激怒しているのを見て、ユーフェも一緒に笑うのだった。

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