【ユキ2】

 外に出るとあたりは黄赤色だった。

「わぁ、きれいだね!」「そうだね」

と二人で話しながら、マンションの4階の廊下を歩いた。エレベータが到着したベルの音が鳴りドアが開いた。「貸切だね」なんて無駄話しをしながら1階まで降りる。なぜかいつもより降りるのがゆっくりな気がして、気持ちがはやまった。地上に近づくごとに拍動が速くなっていくのを感じた。またチンとベルが鳴りドアが開いた。いよいよか、と身構える。マンションの自動ドアを通り道路に出ると、車が行き交っていた。空の色が余計に嫌なことを連想させる。大丈夫だ、と暗示し歩く。横断歩道を歩いている時に

「そうだ、駅前にね、美味しいケーキ屋さん見つけたの!」

とユキが話し始めた。またフラッシュを感じた。––––思い出した。7年前、ユキが僕の家を出る時に同じことを言っていた。そしてその後の言葉が最後に交わしたものとなった。

『今度、一緒に食べに行こうね。』

「今度、一緒に食べに行こうね。」

ユキが言い終わったと同時に、信号を無視して交差点に侵入する車が視界の端に入った。その瞬間、スローモーションになった。咄嗟の判断でユキを歩道側に押した。自分も逃げようと思ったその時、車体が勢いよく体に当たった。


 くるくるくるくる。まわっている。どうしよう。


 その瞬間、地面に打ち付けられた。血が出ているのか、頭のあたりがヌメヌメしている。体全身が熱い。呼吸が浅くなって、苦しくなった。

 こんなに苦しいなら、早く死にたい。

 ユキはどう思っているのだろうか、と思い最後の力を振り絞って顔を回転させる。彼女は恐怖と絶望、悲しさの入り混じった顔をしていた。

「ユキ、わらってよ。」

僕はそう呟いた。意識が遠のく中で

「タカ!」

とユキが叫ぶ声がした。

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