【死神とユキ】

––––7年前––––

 私は死んだ。交通事故で、だ。その日はタカの看病に言った帰りで、あまりにも唐突すぎた。まだ話したいことがいっぱいあった。やりたいことが山ほどあった。結婚も就職したらしようねと話していたし、子供が生まれる夢なんかも見た。死ぬにはやり残したことがありすぎた。

 案の定、成仏出来ずに地上を浮遊した。試しに生きている人に話しかけてみたが、話すことどころか触れることさえ出来ない。存在しているのに、それを認められない苦痛を味わった。


 死んでから間もない日、公園のベンチに座っていると背の低い黒装束の男が近づいてきた。男の顔は長い前髪で隠れていて、ニヤリと薄気味悪く笑った口だけが動いた。

「こんにちは」

特徴的な声だった。私は私に対して言ったのかわからなかった。誰か後ろに人がいるのでないかと振り返ったが、誰もいなかった。そんな私をみて、男はニヤリとますます気味悪く笑い

「あなたに言ったのですよ、お姉さん。こんにちは。」

と言った。私は戸惑いながらも

[こんにちは]

と言った。男は「いいお天気ですね」と呟き私の隣に腰掛けた。私は疑問に思っていたことを口にした。

[私が見えるのですか?]

男は振り向いてニヤニヤしながら

「ええ。見えていますよ。」

と答えました。それでもなお不思議そうにしていると、

「死神だからです。」

と続けた。

「死神は死んでもなく生きてもいないのです。」

その言葉は不思議とストンと腑に落ちた。

「あなた、やり残したことがあるでしょう。」

私はその声に鳥肌がたったが[はい。]と素直に答えた。死神はニィと気味悪く笑った。

「死神はね、契約した者を生き返らせる力を持つんですよ。」

[生き返らせる力・・・]

「契約、しますか?」

死神の言葉は、この日常を壊すような匂いがした。でも、不思議な魅力があり、気づいた時には

[はい。]

と呟いていた。

「では、場所を変えて契約を行いましょう。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る