魔羅ネード3 エレクテッド・ミッション

 館内の展示を一通り見終えた二人は、野外展示場へと足を運んだ。まず目を引いたのは、太くて黒い筒、すなわち大砲であった。


「それにしても風が強いな今日は」

「天気も悪いし、明日の祭りも中止になったりして」


 外には相も変わらず冷たい風が吹いていた。冷たいだけでなく、その勢いも強い。この強風の中で準備などしているのかと考えると、その苦労のほどが察せられる。

 歩みを進めてみると、他にも様々な兵器が並んでいた。大型の投石機や衝車、それからクロスボウを大きくして台車に固定したような見た目の床弩しょうどと呼ばれる兵器もあった。いずれも城攻めの際に用いられたという。


「これ凄いな。こんな矢を撃ち出してたのか」


 瑞月はそう言って、床弩の横に立てかけてあった棒状の物体を指さした。それは床弩で用いる大型の矢で、二メートルを優に超えるそれは矢というより槍のように見える。

 

「それにしても、お腹空いてきたなぁ」

「じゃあメシにするか。弓弦は何食いたい?」

「そうだなぁ……」


 返事を考えながら視線を上に向けた弓弦。その彼の目に、何かが飛び込んできた。


「ん?あれは……竜巻!?」


 視線の先にある漏斗状のそれは、どう見ても竜巻であった。しかも最悪なことに、それは何か大きなものを大量に巻き上げている。


「竜巻の中にあるの……祭りに使うだよな……」


 弓弦の声で竜巻に気がついた瑞月が呟く。竜巻はそう遠くない場所で渦を巻いており、その中で無数の金色をした男子の象徴物――大魔羅槌がぐるぐると回っているのが見えた。

 するとその竜巻が、こちらへと近づいてきた。そして竜巻の中から、何かが飛び出してくる。ミサイルのように飛来したそれは、けたたましい轟音を立てて博物館の瓦屋根を貫通し、館内に飛び込んだ。


 飛んできたのは、その一本だけではなかった。竜巻に巻かれている金色の男根が、四方八方に砲弾の如く降り注いだのだ。渦を巻く暴風によって勢いづけられた大魔羅槌、その威力には凄まじいものがあった。地面がえぐられ、家屋が壊され、車が潰される。破壊と暴力の限りを尽くす魔羅竜巻マラネードを前に、街は無力であった。


「冗談だろ……取り敢えず中に入ろう!」


 言うが早いか、瑞月は弓弦の手を握って引っ張った。咄嗟に手を握られた瑞月は心臓が跳ねるのを感じたが、今はほうけている場合ではない。弓弦はその手をしっかりと握り返し、そのまま二人は館内に避難した。


「これで大丈夫……うわっ!」


 ほっと一息つこうとした瑞月の目の前に、巨大な男根が降ってきて床を陥没させた。瑞月は目を白黒させながら、口をあんぐり開けている。弓弦もまた、ほぼ同じ反応であった。

 驚く二人に追い打ちをかけるかのように、金色の男根が二本、斜めの角度で立て続けに壁をぶち破り、館内に飛び込んできた。


「館内もダメなのか……」

「外の方がまだ安全だ。行こう、瑞月」


 壁や屋根で覆われている館内では、何処からアレが降ってくるか分からない。今度は弓弦の方から瑞月の手を引いた。瑞月の手は恐怖からか、汗でじっとりと濡れている。

 竜巻に巻きあげられた大魔羅槌が飛来する……何が何だか分からない。けれども、あれほどの質量を持った物体が降ってくるのは脅威以外の何物でもない。もしあれが当たりでもしたら、人間の体など一撃でひしゃげてしまうであろう。弓弦は恐怖心で呼吸が荒くなるのを抑えながら、扉を開けて野外展示場へと脱出した。

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