三人の詩
神帰 十一
第1話 黒歴史
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
最初に断っておくが、
これは詩集にするつもりで書き始めた。
田島賢一と羽田七海
私の手元に残っている、2人が書いた詩を纏めようと思ったのだ。
本来なら、私の文章は要点を押さえて紹介文に書くべき事なのかも知れないが、紹介文としては、あまりにも長くなるし、私にとっては、田島賢一と羽田七海の三人で「交換日詩」をした思い出は物語として大事なものなので、本文としてここに綴らせてもらう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「
田島賢一が突然質問してきたのは、昼休みのことだったと思う。
私はたしか本を読んでいて、返事が適当になったはずだ。
「んぁ?」
また、ケンが訳の分からない事を言い始めた。
返事をしたときに、咥えていたストローは口から離したが目は本から離さず、ストローを咥え直して暗に興味が無い事を示しつつ、話しの続きを待った。
「なぁ、俺、小説を書いてるんだ」
「あん?」
弟の裕記も、文章を書くのが好きで 物語を作る真似事をしていた。
内緒で少しだけ読んだら、敵役と思われる人物が「俺は悪者だぞ、倒してみせろ」と言い。主人公と思われる人物が「よし、倒してやる」と切り返していた。
大人になった今なら、逆に興味を惹かれるが、当時は2秒で、そっとノートを閉じて心の中で、弟に謝った。
ケンの言った「黒歴史」と言うセリフから弟のそれを思い出したが、弟が可哀想なので、思い出したのをかき消すように本に集中しようとした。
その矢先。
ケンに同じ事をしているとカミングアウトされ、私は憐憫の情をもってケンを見つめる。
「なんだよ?」
ケンはそんな私の視線に不愉快さを示したが、すぐに笑って、
「なぁ、お前、交換日記って知ってるか?」
そう尋ねてきた。
ケンは『黒歴史』を知っているか? の質問に始まり、ここまで何の脈絡もなく 一方的に質問してくる。
『黒歴史』が小説を書いていること、もしくは『黒歴史』がテーマの小説を書いたのだろう事は推測できた。推測はできたが、
「交換日記?なにそれ? 日記を交換し合うの?」
本を読みたいのに、馴染みの無い言葉に釣られてしまう。
私は憐憫の情を持って、ケンを見たときに本から目を離してしまったので、本を読む事を中断すると決め、ケンに付き合うことにした。
「そう……らしいよ?」
ケンもどうやら、よく分かっていないらしい。
「何のために?」
ケンもよく分かっていない事が分かったのに、思わず疑問が口をついて出た。
ケンは眉と肩を同時に上げて、
『さぁ?』と言う顔をして、返答する。
「そんな事よりさぁ、俺の小説、読んでくれよ」
私はケンをジッと見つめた。
やっと、『黒歴史』から『小説を書いていること』
そして『交換日記』の繋がりが分かった。
交換日記自体は何か判らなかったが、字面でおおよそ見当がつく。
–––– 嫌な予感がした。
*
基本 ケンは器用に、なんでも平均点以上にこなす。スポーツもできたし、勉強もできた。歌も上手かったし、絵も上手かった。
(まぁ、小説もそこそこ読めるものを書くんだろうな)
そんな事を私は思い、弟の文を読んだときのような、読んだこっちが、むず痒くなって 申し訳ない気持ちになる事は無いだろうと、すぐに判断したが……
ケンをジッと見つめて、すぐに答えなかった理由は、
(こいつには恥ずかしいって感覚が無いのかな?)
長いあいだ 友人として側にいたが、ケンの根本的な人格に疑いを抱いたからだ。
「あ、面白そう。ワタシも混ぜてよ」
横から入ってきたのは羽田七海だった。
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