第136話  幼児退行

 グリードは晃に対して散々罵詈雑言を放っていた。


「お前がいなければシリカは俺のものだったのに!俺の方がずっと先に目をつけていたのに!何横取りしてるんだよ!ざけんな」


 等といった具合だ。グリードは貴族の出である。

 冒険者になったのは女神を捕らえ従わせる術を持った事と刺激を求めたからである。


 金に物を言わせ強者を引き抜たりして強引に集め、団員に引き込み団を発展させてきたりしている。アルテミスも切れ者だったから、団を強くする事に注力させられていた。当然金で引っ張ってきたも者や色気に釣られてきた者達だから質の悪い者も多い。ご主人様であるグリードに皆お尻を振っていた。羽振りが良かったのだ。グリード自体もそこそこ強かったのだ、ブリードの持ち味はデバフである。純粋な剣の腕ではレベル3のものと同等の実力程度しかないのである。技術はかなりあったが、筋力等のステータス不足だ。力任せだとすぐにやられるが、剣の場合受け流し躱す術は特筆なものがあり、晃がやられたように細かい切り傷を与えていき、弱らせる戦い方だ。また、彼は戦っている相手の能力を封じ、己よりも1段階までステータスを下げた状態の所まで相手を落とすことができる。ただ同じ団の者には効かないのだ。

 その為にガブリエルがあっさり捉えることができた。通常団員同士の戦いは禁止していて、模擬戦位しかしていない。グリードが団長でもアルテミスからの言いつけで、己が襲われない限り誰も手を出さなかったのだ。羽振りがよく、頻繁に男衆を連れて遊郭に繰り出し、女をあてがっていた。金と下半身の両方を掴まれていて皆従順だったのだ。ガブリエルも遊郭に嵌った一人だ。晃に対する襲撃にアルテミスの怒りが爆発したのだ。彼女は半ば洗脳されていて、無意識に隷属させられていた。ある程度洗脳が解け自分が何故晃をものにしようとしたのか?何故イザベラを殺そうとしたのか思い出した。そうグリードに仕込まれていたのだ。晃をものにするのはイザベラから団長を引き離す為だった。ダグラスがイザベラの配下に入り、恥をかかされた相手としてイザベラに敵意を向けて、イザベラを殺そうとしたのだ。


 グリードは一番最初に聡を足蹴にしていた者の中にいたのだ。グリードがアルテミスの体に独占欲がなかった。彼は根っからのロリコンで、シリカの年齢がドストライクだった。その為晃をコレクションとして手中に収め、自分の力を周りに誇示しろと。その為には奴の女神は死なないとお前のものにならないぞとスキコルでやれと命ぜられ、断れなかったのだ。と言うか潜在意識に書き込まれ、自らの意思でそうしているとさえ思っていた。それが正しい事と、当たり前だと思わされていたのだ。それらが全て誤りで、命ぜられていた事であった事が今はっきりと分かったのだ。


 またこのグリードという男は自分の女が他の男と性交している所を見て楽しむ性癖があった。その為にガブリエルを引っ張ってきてアルテミスと交わらせていた。アルテミスは本来そういった性質ではないのだ。だんだんアルテミスは何故こんな事をしていたのか?自分が穢れてしまっていると気づいてしまった。アルテミスはイザベラに謝りつつ何があったかを話した。イザベラはそっとアルテミスを抱き寄せ


「苦しかったね。辛かったね。もう大丈夫だ。私は全てを許すから」


 その様子を見ていた大輔が


「お前最低だな。何か言い残す事はないか?」


 イザベラや晃に対する罵詈雑言しか出てこない。


「最早お前を生かしておく理由はないな。今までも散策悪さをしてきたようだな。死んで悔い改めろ」


 そうしてグリードの首を落とした。


 するとグリードが死んだ事を認識したアルテミスに異変が起こった。彼女が一瞬光輝きだんだん小さくなっていくのだ。


 そしてそこには6歳ぐらいの小さな裸の女の子がいた。たったったったったっと晃の所に飛びつき


「お兄さん大好き!」


 抱きついていた。そしてガブリエルが一言言う。エレクトラ様との契約が切れた。加護はまだ残っているが、契約が切れたんだ。


 イザベラは驚いた。聞いた事のない現象なのだ。本来ファーストが死んでも女神は死を悲しむが、元の姿のままで普通に存在している。しかしアルテミスは違った。人間界に顕現した時の姿になっていたのだ。晃が言う


「えっとお名前は覚えているかい?」


「うん私アルテミス」


「じゃあ僕の名前は覚えている?」


 首を振り「お兄さんは兄さんよ。魂が素晴らしくて大好き!」会話にらなず晃にべったりだった。とりあえず裸のままでいさせているのもなんなのでシャツを出し、それを着せた。そうしているとどこからともなく鐘の音と煙が立ち込めているのが分かった。方角的には遊郭のある一角の方であった。


 イザベラはガブリエルに


「アルテミスを守りなさい。あの煙が気になるの。そして団の者達を全て集めなさい。一旦貴方がグリードに代わり団を纏めなさい。そしてこの男の直属の仲間を捕らえておきなさい。晃くん達はあの煙が気になるから見てきて対処する必要があると思うのどのでお願いしたいけど、晃くん行けるかしら?」


 晃は頷き


「とりあえず今いるメンバーで見に行きましょう。ガブリエルさん桜を頼みました。ここで守ってあげてください。アルテミス様は後で今後の事を考えましょう」


 大輔が晃に言う


「この腐れ野郎がどうやって女神をものにしのか分かったぞ。どうやって手に入れたか分からないが、こいつの持っているスキルがそうだ。こいつのはえげつないぞ!本来女神との契約はお互いの同意がなければ駄目なんだろう?しかしこいつの場合は一方的に契約を、それもこいつが優位な方に契約できるから、女神はこいつの言いなりになっていたんだろう。悪いが俺はこんな力を持っていたくない。かといって他の誰かに渡すと同じ事の繰り返しだ。晃、お前が持っていてくれ。お前なら悪用しないだろ?」


 そう言って大輔は晃に触れ、スキル譲渡と一言言う。そうするとそのスキルが晃に流れ込んできた。

 晃が言う。「このスキルえげつないですね。二人目と契約できそうですね」


「どういうこだい?本来一人のものは女神と一人しか契約できない筈だよ。二人目と契約するには100階層にあると言われているクリスタルに触れる事により、男の神と契約する為の契約枠を広げる。その枠を女神に対して使うというような事をしなければ駄目な筈なんだけれども」


「うん。どうしてか分からないんだけども、どうも僕は元々複数の女神と契約できるみたいなんだ。えーっと今はあっちの煙の方を大至急対処しないといけないと思うから、向こうの問題が片付いてからの話にしようよ。ね、アルテミスさんもよく考えておいてね」


 アルテミスはにっこり微笑み

「うん私このおっきいおじちゃんと、ここで大人しく待っているね」


 というがガブリエルはピクピク震えながら


「俺はまだ20代なんだ」


 とため息をついていたが


「晃よ操られていた女神の命令とはいえ俺はお前とお前の女神に対し殺そうとしたんだぞ。そんな俺に彼女を預けて行くのか?」


 晃あきらは言う


「結果オーライなんでいいですよ。今はあなたから僕らに対する敵意は感じないですし、それにあなたのおかげで桜を救うこ事ができました。あなたは操られていたのでしょう?今はその呪縛が切れたと思っています」


 ガブリエルははドスの効いた声を出す


「そうだな。今はなぜあの命令に従ったのか自分でも分からんのだ。だから死ぬなよ。おそらくこいつが逆恨みで遊郭を襲ったんじゃないのか?

 」

 晃はハッとなった。そういえば女将が言っていた。自分は魔物に殺されるであろうと。そうこの死んだグリードが仲間に命じ、捕らえてきた魔物を遊郭に放ったのであろうと。そしてアキラ達は一緒に遊郭に向かうのであった。

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