第126話  ふつつか者ですが!

 あれよあれよという間に2階にある花魁と言われる遊女、人によっては高級娼婦等と言われる女性達の部屋があるエリアに来た。


 ここは娼館や遊郭とも言われ、人により言い方が違う。実は正式な言い方がない。女郎屋なんてのも。ただ、ここのような高級店は一般的に遊郭と言われている。

 晃の記憶では、ドラマとかで見た遊郭そのまんまだが、色々違い、後に大変な事になる。


 その遊女達が待機し、抱かれる部屋のあるエリアに来ていたのだ。廊下を歩いていると妖艶な笑みを浮かべながら歩いてくる遊女がいた。綺麗な着物?を着飾っていて、胸を強調するように開いている。化粧もそうなのだが、お色気ムンムンである。やはり晃は右手と左手が同時に動いている。


 そして目的の部屋に来ると店の女将があたいだよ!と一声掛けて入る合図をする。するとどうぞと聞こえ扉を開けると、晃はガブリエルに首根っこを引っ張られ情けなく入って行く。そこには清楚な着物を着た一人の若い女性がいた。耳からは小さな猫耳が生えていた。晃は一瞬ピクリと反応する。そう顔が好みのドストライクなのだ。スタイルもだ。そして何より猫耳である。よくよく見ると尻尾が見えたりする。晃は情けなくボカンと見ているが、彼女は一言言う。


「あ、あのー?いきなり二人をお相手にですか?」


 と言っている。店主が


「心配するな。こっちのうすらでかいほ方じゃなく、こっちの小さい方の童貞君だよ。ありがたく思え。彼はお前を、お前で筆おろしをするんだよ。まあ安心するんだな。このでかいのうすらバカがお前を抱いたらお前は壊れちまうだろうけども、こっちのチェリー君は大丈夫だろう。しっかり抱かれて女にしてもらうんだよ。あと坊や、手荒にしたらあたいが許さねえからな。優しくしてやれよ。じゃあな!」


 そしてガブリエルは


「可愛い娘でよかったな。しっかり男になってこい。俺も俺でよろしくやってるから頑張れよ」


 と一言いい去っていってしまった。晃はポカーンと突っ立っていた。そしてこの女性がおもむろに正座し指を前についての挨拶を始めた。


「初めまして。私はシリカと申します。私をご指名いただきありがとうございます。なにぶん本日が初めてですので至らぬ事も多いかと思いますがよしなに。また男性に抱かれるのは初めてですので優しくしていただけると幸いです。私の初めてのお方となるあなた様のお名前を教えていただければ幸いです。当館をご利用いただきありがとうございます」


「はい、あの僕は冒険者をしている晃と言います。ここってやっぱりそういうお店なんですよね?」


「はい。晃様はひょっとしてここがどういったところか知らずに来られたのですか?」


「恩人に対するお礼だと言って強引に連れて来られたんです。そして気がついたらここにいたんです」


「あらあら。ここは男性がお金で私達の時間を買い、一時の逢瀬を楽しまれるところでございます。もちろん男女がひとつの寝床でする事はそういうことでございます。もし今日聡様が私を抱いてくださらなければ私の初めては見も知らぬどこかの者にもらわれてしまいます。晃様は優しそうな方ですね。こんな汚れた私でございますが、初めては優しい方だと嬉しく思います」


「あの、僕もその、その、あの、こ、心の準備ができていなくて、ちょっとお話できませんか?」


 それから暫く身の上話をし、晃が異世界人である事も話した。シリカは驚いていてやはり異世界人のお情けをいただきたいと懇願さえしてきた。よくよく話を聞くと貧しい貴族に生まれ、事業に失敗した両親が食い扶持を減らすのと、借金を返済する為に娼館に売ったという。母親がたいそうな美人で、その子も必ず美人になるという事で高値で取引され、娼婦として10年勤める。もしくは3000万で身請けしてくれる者を探すか、3000万稼がないといけない。それにはやはり約10年近く掛かるという。それまで毎日のように見も知らぬ男達にその躰を委ねなければならないと言う。


 不憫過ぎた。彼女がいったい何をしたというのだろうかと怒りさえ覚え、晃はいつの間にか本気で泣いていた。そんな晃の様子にシリカはキュンとなり、やはり多くの者に汚されていく自分であるが、初めてはこのピュアな心を持つ彼に貰って欲しいと思った。


 そして惨めな人生のせめてもの思い出にと懇願し、自らの服を脱ぎ、晃に躰を委ねようと抱きついていた。見事な裸体だった。


 晃は慌ててシリカに着物を掛ける。シリカの胸に目がいったわけではなく尻尾に目がいっていた。晃が神妙な顔になり少し考えてシリカに伝える。



「あの、シリカさん?僕のところのお屋敷のメイドさん達が足らないんですよ。良かったら僕のところで僕の仲間になってもらえませんか?」


 シリカはきょとんとしていて


「あの、私の身請け金が3000万もするんですよ。3000万といえば一般市民10人分の生涯のお給金と聞いております。気持ちはありがたいのですが、そのようなお金を晃様のようなお若い方がお持ちでは無いでしょうし、会ったばかりの私を身請けする理由や義理ははありませんわ。そう言っていただけただけで私は幸せです」


「いや違うんだ。ほぼ有り金を叩くことになるけど、3000万はあるんだ。僕は君の事が気に入った。でも娼婦として抱くつもりはないよ。君は自らが汚れていると言うが、幸いまだ汚れてないじゃないか。優しい心を持った素敵な女性だと思うよ。教養もあるしね。その、嫌じゃなければ僕がシリカさんを身請けしようと思うんだ」


 晃はどこからともなく大金貨を30枚ほど並べていた。シリカは震えて泣いてた。確かに身請けするだけのお金がそこにあるのだから。

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