第85話 女神の危機
この数日は晃達は午前中は訓練、午後ダンジョンに潜るという生活をしていた。
そんなある日、ダグラスから戦闘訓練を数日に一度にすると言われ、翌日から本格的にもう少し下の層まで歩みを進める事となった。
最近は大輔が女神ケイト及び女騎士クレールと結婚した以外は特にイベントもなく平和だった。
晃の収納はいつのまにか1トン程入るようになっていた。毎日2度ルーシィに会いたいが為に、朝は弁当を受け取り、夕方に容器を返しに行く。翌朝容器を返せば良いのだが、律儀に会いに行く。ルーシーも晃に会いたく、そんな晃の来訪を心待ちに仕事に励んでいた。そして晃はお店でついつい食材やパン等をそんなに必要がないのに数人分を毎度買い込んでいた。後に活きてくるのだが、今は知らない無駄な買い物だった。今では店で一番お金を落としていくので、店主も晃が来るとルーシーに少し休憩をさせ、晃と話をする時間をくれていた。ルーシーは晃の乱れた服を整えたり、水を出したりと健気な少女で、晃はいつの間にか尻尾をモフらせて貰う中になっていた。晃は知らなかったが、尻尾をモフらせて良いのは本来婚約者以上だった。あなたに身を任せますとの意思表示だが、晃は自分はい世界来ていて、獣人っていない世界だったから、後学の為に尻尾を触らせてと頼み、真っ赤になりながら了承していて、夕方に会う度にモフらせて貰う晃だった。癖になる気持ち良さだ。
そうしたある日、イザベラは晃かダンジョンに出掛けた後、買い物の為に街中に出ていくが、道に迷ってしまい裏路地に入ってしまった。
そうすると背後から来た筋肉ムキムキな男に声を掛けられ、振り向きざまに腹パンを決められてしまった。
何が起こったか分からないうちにイザベラは意識を手放してしまい、その男は背負っている大きな背嚢にイザベラを無雑作に放り込んだ。冒険者の中にはサポート要員を連れて行かずに自分でドロップ品などを全て集め持ち運ぶ者もいる。人一人が入れる位の大きさの背嚢が必要となり、そういった背嚢を背負っている冒険者も珍しくはないので、誰からも怪訝な目で見られる事はなかった。
その頃晃達はギルドの方に行っていた。1週間に1度位は換金とは別にギルドに顔を出すようにしている。そうターニャと会う為だ。
ターニャの引っ越しはまだ終わっていないので、ギルドに来ないと中々会えない。晃はターニャが引っ越してくるとは知らないのだ。今住んでいる所を引き払う為に荷造り等をしていてた為に屋敷に即入居ではないのである。
ターニャはアシスタントとしてパーティー全員のステータスの確認や、レベルの確認を行なっていき、記録を残し、必要ならアドバイスをする。それと晃達は一言お願いを言われたのだ。そう晃達が冒険者になる直前にダンジョンに潜っていった一団が、予定日を過ぎてもダンジョンから出てこないと言う。
もしも何か情報があったらギルドに伝えてほしいとお願いされていた。その時晃はあまり深く考えてはいなかった。
晃達は18階層までは来ていた。今日は20階層まで行く事になり、歩みを進めていくが不思議な事に殆ど魔物が出ない。
ローランが言う。
「これじゃあ修行になんねぇな。俺達のちょっと前に誰かが通ったんだろうな。まあおかげで目的の階層までは楽させてもらえるような感じだけどな」
そうやって歩いていると18階層だろうか、下の階層から上がってきた一人の筋肉質な男とすれ違う。その背中には大きな盾を背負い、手にはバトルアックスが握られていた。不思議な事に小さなウエストポーチがある位で背嚢を背負っていない。
言われてみれば途中途中に無雑作に魔石が転がっており、晃達はラッキーとか言いながら魔石を拾って行った。
お互いすれ違う時に会釈だけして先に進む。ダンジョン内では声をかけての挨拶は基本的にしない。理由は声に引き寄せられた魔物に襲われる可能性が出てくるからで、基本的にはダンジョン内では襲われる心配のないところ以外では必要最低限の会話しかしないものである。なのでどちらかがぶっきらぼうとか失礼なわけではないのだ
ただ気になったのが、その男がすれ違った時にチッという舌打ちをした気がしたのである。実際していたのであるが
。
その頃目が覚めたイザベラは自分が暗い所にいるのが分かった。手足は拘束されてはいないが、どうやら袋の中に閉じ込められていると判断した。
懐から出した護身用のナイフで袋を切り裂き外に出る。
どういうわけかダンジョン内に居るると認識した。
そして己の首に付けられている首飾りを見て愕然とした。実物を見るのは初めてだが、知識として知っていたのである。
確か愚者の首飾りという名前だったと思う。ダンジョンが受けている封印に対して装着者が影響を受けなくなり、ダンジョンに入れる。そういった特殊能力のある首飾りだ。本来女神はダンジョンに入ろうにも特殊な封印に対して突破できないのだ。
女神はダンジョンに侵入できない筈なのだ。ダンジョンに有る結界に対する通過能力がないのだ。女神との契約の無い冒険者が入れないのと同じであるが、これは装着者がその結界を無効化し装着者のみが条件を満たしていなくても通れるという代物なのだ。イザベラは袋に入れられ、この首飾りのお陰で背負われてここに運ばれてきたのだろうと即認識した。袋に入れられている為に門番などに誰何される事もなかったのであろうとイザベラは判断した。そして庇護下の契約者達の気配を探った。地上にいる場合ダンジョンに入っている契約者の気配はしないものであるが、ダンジョン内であれば別である。数回層上で晃達の気配がするのだ。イザベラはダメ元で神経を集中し己の契約者等に対して願いを込める。
「ダンジョン内に連れてこられたの。助けて!」
女神の祈りというものは契約者が何か気のせいかと思う程度のゾワゾワ感があったり、はっきりと声が聞こえたりと様々である。ただし晃以外のメンバーは誰か何か言ったか?程度の声しか聞こえなかった。晃は皆に言う。
「訳が分からないけど、女神様からの叫びが聞こえたんだ。助けてと、しかもダンジョンの中にいるというんだよ。どういう事だろうか?確か女神様ってダンジョンの中には結界がある為入れないんだよね?」
「あーその筈だぞ。以前何人かの女神が試そうとした事があるが、結界に阻まれて入れず、結界をすり抜ける手段は何やら特殊なアイテムが必要なそうで、地上で見かけた事の有る者がいないそうだ。確かに下の階層にイザベラ様の気配を何故か感じるな」
「大変よ!地上人が女神さまを傷つけたり殺したりする事はできないけども、魔物は別なのよ。魔物は女神様を殺す事ができるの」
レオナが改めて告げ、晃は焦りだした
「僕はイザベラ様を助けに行くよ。皆はどうする?」
ローランが呆れ顔で言う。
「そんなの行くに決まってるだろう?どうするじゃなくて助けに行くから一緒に来い!でいいんだよ。俺達は副団長達と一緒じゃない限り20階層って行った事がないからな。何はともあれ女神様が生きてる間に助けに行こう」
そうやって20階層を目指す事とになったのであった
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